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その5

「それじゃあ俺は村にいってくるな」

「はーい、いってらー」

「いってらっしゃーい!」


ハニワセレナとシルフィを森に残したまま、俺は村へと出かけることにした。

俺達には現状足りてないものが多い。

まず、食料。森にいるとはいえずっとサバイバルというのも骨が折れる。出来ることなら安定供給できるほうが嬉しい。

続いて住居だ。野宿を続けていては俺はまだしもシルフィに限界がくるだろう。あと、セレナもうるさそうだ。

さらに衣服。シルフィの服はぼろぼろだし、この状態では今より寒くなる季節を迎えるのは難しいだろう。それにいつまでも同じ服でいるというのも衛生面的にもよくない。


そしてこれら全てにくっついてくるのがお金だ。お金がなければ物を買うことは出来ない。だからこそ何かしらの手段でお金を手にしていく必要がある。

そのための村への出立だ。村で何かしらの金策の手段を見つける必要がある。

俺は昨日女性を送り届けた村へと走り出した。







「ふぅ、着いた。さて、まずはどうするかな?」


村までは然程離れていないので、ほどなく到着した。

入り口にあった文字からどうやらここはスイの村というらしい。

言葉が通じていたので文字を読める可能性も考えていたが、どうやら問題ないらしい。

ただ、字体は見たことのないものだったので、書くのは大変そうだが。


村の中は思っていたよりも広そうであり、人も通りに面した場所では結構歩いている。

そして、昨日の例に漏れず、そこにいる人達の視線は自然とこちらへと集まっていた。


(やっぱり視線が気になるなぁ、まっ、人目が多いとこなら過激なこともされないだろう)


視線事態は向いているものの、昨日のようにこちらへ何かをしようという相手はいない。

まぁそれも当然と言えば当然だろう。衆人環視の元で昨日のような立ち回りが出来るとすれば、そいつは只の変態に違いない。


(にしても、そう考えると何でシルフィはこうなってないんだろう?)


シルフィに年齢を聞いても分からないと答えていた。見た目からは10歳は超えてそうではあるが、詳しい年齢までは流石に分からない。だが今朝の会話からも幼いということはわかるため、もしかしたら小さい子にはこの駄女神がくれた特典、今となっては特典と言うのもどこか腹立たしいが…とりあえずその効果は薄いのかもしれない。


「あ、あの…?」


などと一人で歩きながら考え事をしていると、一人の女性に声をかけられた。


「ん?…ってあんたは昨日の…」


よく見てみると声をかけてきた女性は、昨日一緒につかまっていてここまで送り届けた女性だった。

琥珀色の長髪をし、手には野菜が入った袋を提げている。


「はい、昨日はありがとうございましたっ!」

「どういたしまして、つっても俺も逃げるついでだったし」

「そうは言いますが、あの状況でお荷物にしかならない私を連れて行くのはさぞ大変だったでしょう?」

「そんなことない、あんたくらいなら軽いもんさ。それじゃ元気で…」


昨日の出来事があった手前、そうそう長く話しをするのも気が引ける。

そう思い、俺はその場から足早に立ち去ろうとした。…が、


「……何かお礼をさせてください!」

「へっ?」


そうする前に手をしっかり掴まれて、その場へと留められてしまった。

驚き振り返ると先程よりも近距離で彼女の顔が見える。頬が赤らんでいるように感じるのはきっと気のせいだろう。


「助けてもらっておいて何もせずお返しするなんて、スイの村娘失格です!」

「いや干し肉くれたよな?…ってかそんな風習あるのか?」

「いえ、今決めました」

「おいおい…」


謎の理論を展開され、あきれ返りそうになるが、向こうにも意図はあっても悪意があるわけではないのがたちが悪い。まぁ、迷惑だといってしまえばそれまでなのだが…


「ともかく!何かお礼をさせてください!お願いしますっ!」

「いやいやほんとに大丈夫だから」

「謙虚なところも素敵です…そうだっ!ご飯ご馳走させてください!」

「いや、連れもいるし…」

「えっ?お連れ様が?」

「そうそう」


辺りをきょろきょろしながら、俺の連れを探す。

勿論二人?……片方は一匹か。とりあえず彼女達は連れてきていないので探しても無駄なのだが。


「ではそのお連れ様方にもご馳走しますので!是非是非!」

「あはは…」

(まいった、全然断らせてくれない……ってか…)


押しが強い彼女は、最初は手を握っていただけだったがだんだんと近づいてきており、いまやそう…


(胸が腕に当たってんだよぉっ!)


当たっていた。彼女の胸に。俺の腕が。

大き目の胸が彼女が動くたびに揺れ、そしてその度に俺の腕へとバウンドが伝わる。

この状況…男としての幸せを感じる方法のひとつかもしれない…


(……離れたい気持ちがあるがいかんせん離れるには…)

【このスケベー】

「セッ、セレナっ!?」


たった二日の付き合いだが、聞きなれた声が脳内へと響く。

不意の一言に思わず声が出てしまった。



「え?」

「え?……あー、いやなんでもないんだあはっ、あはははっ!」


突然の声に驚く彼女に今の出来事を苦しいながらもごまかそうとする。

不思議そうな表情を浮かべる彼女の前に、愛想笑いと乾いた声が響く。


【やーいスケベ元勇者】

(やかましいわっ!ってかお前ハニワに定着したはずだろーが!)

【そんなの神様の私には関係ないわよっ!アンタの行動なんてどこからでも確認できるんだから!】

(ぐっ…なんて迷惑なっ!)


腐っても(別に腐ってはいないが)神は神ということだろう。

こう、男性の欲が垣間見えるような場面をのぞかれたりするのは正直本当に恥ずかしい。

ってかもうちょっと遠慮しろ!


「あの…大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫!あっ、そうだ!ちょっとお金が欲しくってさ」

「お金をお渡しすればよろしいですか!わかりました、いますぐとって…」

「違う違う!何でそんな極論なんだよっ!」


迷いなく行動をとろうとする姿勢に一抹の不安を覚える。

特殊効果がある男とはいえ、出会って二日の男になんてことしようとしてるんだ。


「えーと…そう、働けるところを探してて、そういう場所に心当たりとかない?」

「っ!それでしたらっ!是非、紹介したい場所があるんですがっ!!」

「うぇっ!」


彼女は俺の発言に対し、今まで以上に前のめりになって目を輝かせている。

胸が当たっているを通り越して、腕が埋もれかけている。

必死で自制心を働かせ、平静を装って対応しようとする俺の表情には目もくれず、彼女は俺へと言葉を投げかけてくる。


「案内させていただいてもよろしいですかっ!?」

「あっ、あぁ。お願いします」

「わかりましたっ!ではこちらへどうぞ!」


あまりの前のめりな勢いに俺はそのまま頷いてしまった。

彼女に腕を引っ張られて村の中を進んでいく。


【あんた、そんなホイホイ着いていっちゃって大丈夫なの?】

(大丈夫だよ、なんか会ったらすぐ逃げるし…)

【そう言って、本当はおっぱいから離れるのが惜しいだけなんじゃないの?】

(う、うるせー!別にそんなんじゃねーよ!)

「着きました!ここです!」


脳内で駄女神とのまるで内容のない舌戦を繰り広げている間に、目的地へと到着した。

外観は大き目の2階建ての建物である。

彼女に連れられ中へ入ると、扉をくぐった正面に受付らしき場所があり、右手には2階へと続く階段があった。左手に進んでいくと酒やご飯を食べている村人達でにぎわっていた。


「ここは…?酒場?」

「えぇ。うち、酒場と宿屋をやってるんですよ」

「へぇ…」


右手に進んだ先の2階が宿のスペースなんだろう。左手の酒場のスペースがそこそこ広いことから2階も何部屋かはあることが予想できる。


「でっ!うちの店員が辞めちゃって人手が足りないんです!ですので、是非ともうちで働いてもらえませんかっ!助けていただいたお礼も兼ねて部屋も1つ無料でお貸ししますし!」

「えっ」

「お願いしますっ!」


彼女は俺へと頭を下げて懇願してきた。自分の思い描いていた当初の予定では、働き口を頭を下げて探すと言うものだったんだが…


(なんで俺金策に来たのに逆に頼まれてるんだ…?)

【まぁでもすむところくれるって言うんだし良い条件じゃないの?お金稼ぎながら雨風しのげるのはありがたいことじゃない】

(確かに…シルフィのこともあるし出来ればちゃんとしたとこに住めた方がいいしな)


自分ひとりの生活であれば、可能性の話も含むが断っていたことも考えられる。

だが、これからは一人じゃなく、二人+マスコットでの生活だ。

良い条件で雇ってもらえるのであれば願ったり叶ったりである。

俺は改めて彼女へと依頼をすることにした。


「わかった、じゃあ頼んでも良いか?」

「はいっ!」


彼女は満面の笑みで俺の言葉に答えた。俺もつられて自然と笑みがこぼれた。


「じゃあ俺、連れをここまで案内してくるから」

「わかりましたっ!お部屋の準備させていただきますね!」

「助かる。あと、すまんがローブと靴があれば1つずつ貰っても良いか?金は働いて返すから」

「いいですよそれくらい!サイズはどうしましょうか?」

「とりあえずローブも靴もあんたより小ぶりなのを頼む」

「わかりました!」


その後、俺は彼女からローブと靴を受け取ると、足早へ森へと戻り、シルフィとセレナをつれ、再度村を訪れた。村の様子をきょろきょろと楽しんで眺めているシルフィを見る限り、この判断は今のところ間違ってはいなかったと考える。


暫くの間、拠点となる地点。

俺はまずは、仕事に慣れることから始めていくことにした。


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