その4
「さーて、まずは腹ごしらえだよな」
「うん、おなかすいた!」
世が開け、異世界生活2日目が始まった。
一晩空ければお腹もすくというもの、まずは生きていく為に食料の確保からはじめる。
「よーし、そんじゃシルフィ!この森で何が取れるか教えてくれるか?」
「えーと…お肉!」
「うん、すごくざっくりだがとりあえず獣はいるってことはわかった!」
「あときのこ!」
「おー!じゃあ案内してくれるか!」
「わかった!」
この森でしばらく暮らしていたシルフィから森で取れる食料について聞いてみた。
ウサギが1匹ときのこ、それに加え野草もいくつか採取できた。
それらを簡単に調理し、朝食を済ませる。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまー!」
【私の好みとしてはもう少し焼いててくれたほうが良かったんだけどなぁ】
頭の中で聞こえてくる声についそのまま返事をしてしまう。
「えっ?お前俺が食ってるもんでも味とかわかるの?」
【まぁね、食べたいときだけ感覚共有することができるのよ】
「へぇ~便利なもんだ」
【ちなみに……アレなことしてる時の感覚共有も…】
「マジでやめろ」
【はいはいわかってるわよ~】
「ねぇねぇ」
くいくいと袖を引っ張られるのに気づき、シルフィへと顔を向ける。
彼女は辺りをきょろきょろと見回しながら、その後こちらへと目線を合わせた。
「さっきから誰と話してるの?」
「あー…」
確かに今までは一人だった為、このように口に出して話してもだれも不思議に思わなかったが、言われてみれば不自然極まりない。
「ごめんな、シルフィには聞こえないと思うんだが、俺の頭の中には直接女神の声が聞こえて来るんだよ」
「?…わかんない」
そりゃそーだ。
俺だってこんなこと言われたら普通話しているやつのことを頭がおかしいやつだと思う。
だが、実際にこれ以上に説明しようがないのも事実だ。
「うーん、ちょっと待ってな?」
「うん」
素直に俺の言うことを聞くシルフィをひとまずおいておいて俺は頭の中でセレナへと語りかける。
(なぁ、お前の声って俺以外に聞こえるように出来たりしねぇの?)
【出来るわよ?別の媒体使えば】
(なんだ、できるのか)
出来なければ頭の中だけでの会話に留めようと思っていたが、あっさりと肯定の返事があったため拍子抜けしてしまう。実際、この頭の中での会話は一人で物事を考えたりするのとはちょっと勝手が違っており、相手、つまりセレナのことを想像しながらでなければ上手くコミュニケーションが取れないため、疲れるのだ。
だから、出来るといわれたならなおの事普通に話せるようにしたい。
(で、別の媒体って何がいいんだ?)
【そうねぇ、適当な人形とか?出来れば可愛いのがいいわね~】
(なるほど、じゃあ作るか!)
【へっ?】
「シルフィ、これからあるものを作るから少し離れてもらっててもいいか?」
「?わかったー」
シルフィに声をかけるとそのまま俺は土属性の魔方陣を展開する。
これから行うのはゴーレム作成術だ。
一般的(元の世界基準で)にはゴーレムは只の土の塊を固めたものなので、無骨な仕上がりになるのだが、少し魔法陣に細工をすることで様々な形を作ることが出来る。
例えば、展開する魔法陣の術式に一文字対象となる言葉、獣型なら獣と、人型なら人と加えることでその形にできる。
(これから作るやつにお前の意識を移す為にはどうすればいいんだ?)
【完成したらフィクセイションって最後につければいけるけど、えっ、本当にやるの?】
(当たり前だ、このままだと不便で仕方ない、いくぞっ!)
【もう、はいはいわかりましたよ】
「クリエイションゴーレム!そしてっ!フィクセイション!」
辺りをまばゆい光が包み込む。光は徐々に霧散し、光の発信源となっていた位置に小ぶりの物体が鎮座している。
「どうやら成功したみたいね?まったく、地上に出るのだって結構大事なんだから感謝しなさいよ?」
「……わー!すっごーい!かわいい!」
「だろう?こいつの名前はセレナだ。仲良くしてやってくれよ?」
「うんっ!よろしくねーセレナー!」
シルフィはセレナ(ゴーレム)を目をきらきらさせながら抱きかかえた。
どうやらセレナのことを気に入ったようだ。
一方で抱きかかえられているセレナはというと
「ちょっとー!どういうことなのよこれ!なんでこんなちんまいのよっ!ってか人型じゃないし、よりによってハニワってなによっ!?」
そう、絶賛大ブーイング中のセレナの外見はというと…ハニワである。
前の世界では遺跡から出土したりしていた古代の焼き物だ。
小さくてゴーレムとしての用途としてはまるで使えない。
本来のゴーレムはその体躯を活かした荷運びなどの力仕事が主だ。
しかし、ハニワでは勿論その役目などこなすことは出来ない。
「あたしをこんなのにしてどうするってのよ!」
「いや、お前どうせ魔法とか使えるだろうし、そもそも肉体労働なんて絶対やんないだろ?」
「そうね、絶対やらないわ!」
「力強くそんな情けないこと言ってんじゃねーよ…まぁ、ともかくそれなら小型のほうが俺も運ぶのに疲れないしな」
「だからって」
「それに意外とゴーレム界隈では人気なんだぞ?ハニワ」
不平不満たらたらなセレナではあるが、事実前の世界ではハニワは大人気だった。
そのぴょんぴょん跳ね回るような移動方法や見ようによっては愛嬌のある顔?などが、一家に一匹ハニワ設置状態を作り出していた。
実際にそんなセレナを抱きかかえているシルフィも大層ご満悦の様子だ。
「まぁ、元々話しやすくするためのものだしいいだろ?なにか道中で他に良いものがあればそっちに変えることも検討するからさ。なっ?」
「うー…わかったわよ!今だけ、今だけだからねっ!」
「よっし、じゃあシルフィ、こいつのことよろしくな?」
「うん!よろしくね、セレナ!」
「はいはい、よろしくねシルフィ」
セレナを抱きしめたままシルフィが笑顔で答え、セレナもその様子に観念したような表情で返事をした。
色々とセレナに関してシルフィに説明しないといけないこともあるだろうが、それは今後考えるとしよう。