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その2

「はぁ…はぁ…はぁ……くっそぉ…酷い目に合った…」


一緒に縛られていた女性の案内で村まで彼女を送り届けたが、送っている最中も彼女にいろいろ触られそうになったり、胸を押しつけられたりと妙にアプローチを掛けられたせいで酷く疲弊していた。

村の近くにあった森まで入り、息を整える。


「普通なら…喜ぶところなんだろうが…あんなことあった後にされても…全然嬉しくねぇ…」


実際自分は何の変哲もない至ってノーマルな男であり、そんな状況になれば普通は嬉しく思うはずだ。

だが、彼女からのそのアプローチが自分自身に対してではなく、自分に与えられている特別な効果に

よるものだとわかってしまえば、その気持ちも減退するのは至極当然だろう。


【なーに言っちゃってんだか…折角チャンスだったんだからそのまま色々やっちゃえばいいのにさ】


息を整えていると、頭の中に今回の事の発端である女神の能天気な声が聞こえてきた。

まるで悪びれた様子のないその態度にイライラがこみ上げてくる。


「あのなぁ!こっちに来た早々でそんな、ヒャッホー!チャンスだやってやるぜ~!…なんてなれるわけないだろ!大体ミスしたって言ってたけど、実際どうなんだよ?」

【…?どうなんだよってなにが?】

「だから!この妙な特典のことだよ!あんな風に見境なく迫られたらたまったもんじゃない!」


第二の人生を楽しんで過ごせるとのことだったが、こんなのではまともに楽しめたものではない。

村に入るだけで周囲の人間に獲物を狙う目つきでみられては、宿でも安心して眠れない。

このままじゃ野宿生活まっしぐらだ。


「で、治るのかっ!?」

【いや~、はははっ!】

「はははっ!…じゃねーよ、この駄女神!」

【駄女神ですって!あんたいい度胸じゃない!】

「自分で与える力のコントロールも出来ない女神を駄女神と呼んで何が悪い!大体、その様子だと治せないんじゃねーのか!」

【ぐっ…】


逆切れしてごまかそうとしていたが、そうはいくか。

間髪いれず叩き込んだ言葉に女神は口をつぐんでしまった。

だが、正直ここはすぐ治してやるわよ!という返事が欲しかった。


(このままだとまじでこの世界で人と関われなくなっちまうよ…)


実際問題、あの様子が続くのではまともなコミュニケーションすら取れない。

女神はあの時LIKEじゃなくLOVEと言っていたが、あれはLOVEというよりもはや狂気バグだ。

出会いがしらで早々理性すら吹っ飛ばされた愛など欲しくはない。


【ま、まぁその辺りはおいおい何とかしてあげるわよ!】

「…本当か?」

【えぇ、任せておきなさい!】


声だけは自信があるように聞こえるが、いまいち不安が拭えない。

だが、自分自身ではどうしようもないのも確かである以上、ここは仕方なく女神の言うことを信じてみることにした。


「はぁ……じゃあ、よろしく頼むよ」

【はいはーい……ってあんた仮にもあたしの信者なのよ!もう少し敬意を払ったらどうなの!】

「そうは言っても、俺あんたを信仰してた時の話も覚えてないし…今更もういいだろ?」

【ちょっと!この世界でも、一応私メインの宗教で信仰されてるんだからっ!】

「そうなのか、ん?…じゃあ、あんたって2つの世界を管理してることになるのか?」

【そうよ!まぁ厳密に言えば他にもいくつか管理してるけどね!】

「へぇ…」


世界を管理すると言うことがどれほどのことなのかはまるで分からないが、単純に考えても一人で同時に様々なことをこなすというのは大変なことだ。それをいくつも同時に行っているのだから、女神セレナは自分が思っているよりも途方も無い存在なのかもしれない。


「あんたが思ってるより凄い存在だってのは分かったよ」

【そう?じゃあ改めて私を敬いなさい!】

「それは、あんたが俺のこの厄介な能力を治してくれた後でな」

【むきぃー!生意気!】

「へいへい、どうもすみません」

【あんた悪いと思ってないじゃない!】

「おっ、よくわかったな。さすが女神セレナ様」

【むきー!!】


流石に脳内にまで地団駄を踏む音は聞こえないが、そうしているのが目に浮かぶような反応が面白い。

こちらの世界に来てまだ体感ではそれほど経っていないように感じるが、もう日は暮れている。

今日はこのまま野宿になりそうだ。


「そろそろ野宿の準備しなくちゃなぁっと」


日も暮れて見え辛くなっているが、木の枝などを捜して集めていく。

思い出などは忘れてしまっているが、こういうことは体が覚えているようだ。

適量集めるとささっと火の魔法を使う。

気温的にもまだ寒い季節ではなさそうであるが、暗がりの中に明かりがつくとやはり落ち着く。


「そういえば、今も魔法使ったけど、この世界でも魔法ってよく使われてるのか?」


先ほどの事件でロープから脱出する為に咄嗟のタイミングで思い出した魔法だが、この世界でどのような位置づけになっているのかは気になっていた。

あまり使える人がいないのであれば、使いすぎるときっと目立ってしまうだろう。

だが、その考えもセレナの一言で杞憂だと分かった。


【えぇ、前の世界もそうだけど、この世界でも魔法は普通に使われてるわ】

「そっか、じゃあ悪目立ちするようなこともなさそうだな」

【そうね、その点については心配しなくてすみそうよ。ただ】

「ただ?」

【あんた勇者のスペックそのままにこっちに来てるからね。そんじょそこらのやつじゃ相手にならないでしょうから、力の加減とか気をつけなさいよ?多分すぐ死んじゃうでしょうし】

「あー…まじか…」


さっきも脱出する際には相手へ危害を加えることは無く、ロープを破られて驚いている隙に急いで逃げ出した為、力がどれくらい出るのかは確認できていなかった。

うかつに手をだして挽肉状態など目も当てられない。


「あとでどっかで確認しよ…」

【確認するならモンスターにしときなさいよ?】

「モンスター?」


セレナの話によると、どうやらこの世界にもモンスターはいるようであり、前の世界ではそれらを倒して経験を積みながら、魔王を倒して世界を救ったらしい。

様々な種類のモンスターがいるようだが、魔王がいた前の世界とは異なり、この世界では魔王はおらずモンスターの強さも然程ないようだ。

襲ってくるのであればまぁ倒してしまってついでに実力も確かめよう。


【さて、明日からはどこに行く?】

「ん?」

【この森に居座るつもりじゃないんでしょ?】

「そうだなぁ、ってもどっか当てがある訳でもないし…地図くらい貰っとけばよかったなぁ」


この世界の地図があれば次いく方向も決められるが、持ってないものの話をしても仕方が無い。


「とりあえず、明日のことは明日考えるさ…ふぁぁぁ、今日はもう寝るよ」

【あっそ、じゃあ襲われないようにだけ気をつけなさいよ】

「縁起でもないこというなよ…おやすみ」

【…おやすみ】


服が汚れてしまうのは仕方ないが、軽く木を拾う際に一緒に拾っていた大きめの植物の葉をしき、その上に横になる。

セレナはなんやかんや言いながら、この世界に来てから色々と教えてくれている。

様々な世界を管理していながらも相手をしてくれていることは素直に感謝すべきだろう。


(ありがとな…)


心の中で感謝の言葉を言いながら目を閉じる。

疲れもあったのかこの後は然程時間も立たないうちに眠りについた。

























ガサッ


「んっ…?」

【あら、お客さんみたいよ?】


眠りについてから暫くして、物音が聞こえ意識が眠りの淵から引き戻される。

まだ完全に覚醒したわけではないが、すぐに対応できるように自身へと強化魔法を付与する。


ガサガサッ


物音は明らかにコチラへと近づいてきている。

準備は万端、もういつ飛び込んでこられても大丈夫だ。


(さぁ…来るなら来いっ!)


「グルルゥッガウッ!」

「来たッ、くら……えっ?」


鳴き声と共に物体が飛び込んでくる。

それにあわせて拳を振りかぶろうとした瞬間、目に入ってきたのは…


「女の子ぉっ!?グフッ」


勢いよく飛び込んできたのはボロボロの布を身に纏い、右手をコチラへと振りかざした女の子だった。

獣が飛び込んでくるものだと勝手に思い込んでいたが、目に入ったものが全然異なるものであったため振りかぶろうとしていた拳も咄嗟に止まり、そのまま飛びつかれて倒されてしまった。




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