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その1

(くっそぉ、ふざけるなぁっ!こんな、こんなことがあってたまるかっ!)


体はロープで縛られ、目の前には屈強な男性が2人。

そして隣には同じくロープで縛られた女性がいた。


「へっへっへっ、悪く思うなよ?」

「いやっ、やめてっ!」

「お前が悪いんだぜ、あんなところで倒れてるから」


目の前の男の手が今にも体に触れそうになっている。


(どうしてこんなことになってる…こんなっ!)


俺は今にも始まりそうな惨劇を前にふと、その直前の出来事を思い出していた。

















【………なさい…】


暗闇の中、どこからともなく声だけが聞こえてくる


【目を覚ますのです…】


ぼんやりとしており意識ははっきりしていないがその声に耳を傾ける


(誰か呼んでる…?)


【…起きるのです…】


自分が声をかけられているというのは分かる。

だがその通りに起きようとは思うけど、体の感覚がないせいでどう対応すれば良いのかわからない。

なんとか踏ん張っても見るが、何の変化も起きない


【ユキオよ…起きるのです】


(ユキオ?…それって…俺のことなのか…?)


呼ばれているようだが、いまいち聞きなれない名前が聞こえる…

そもそも聞きなれないも何も、自分の名前すらはっきりしない


(あー…あいにくなんだけどこっちもどうしていいのかわかんないんだよなぁ)


意識も徐々にはっきりしてきている。だが体の感覚だけはどうも変化が無い。


【起きなさい】


それでもなおも呼ぶ声が続いてくる。

心なしか先程より声色が重くなっている気がする。


(ってもなぁ…)


あいも変わらずうんともすんとも言わないこの体である。

果てさてどうしたものかと思っていたその瞬間、遂にその時が来た。


【いい加減起きろぉ!!】


腹部らしき箇所にとてつもない痛みがはしったかと思うと、一瞬にして全身に流れる激しい痛覚と共に体の感覚が戻ってきた。

これまでどのように呼吸していたのかも分からないが、おそらく溜め込まれていた息が腹部への衝撃と共に外へと吐き出される。


「グハァッ!」


あまりの衝撃にたまらなく声が出る。と同時にこれまで黒だった世界から淡い光を放つ白の世界へと移り変わっていた。急激な視界の変化に目がちかちかとしている。


【全く、こっちが起きろって言ってんだからさっさと起きなさいよね?】

「…ってぇなぁ、何だってんだ一体!」


ようやく出せた第一声がこんなのも悲しいものだが、声の主のいるほうへと向き声を大にして叫んだ。

目の前には物騒な金棒のような鈍器を肩に担いだ女の子がいた。

明らかに見た目とその鈍器がつりあっていない。


「…誰なんだ、アンタ一体?」

【ふむ、はじめまして。と言っても私は貴方のことは知ってるんだけど。敬虔な信者、只野幸生ただのゆきおくん】

「只野幸生……それ、俺の名前か?」

【あら?貴方何も覚えていないの?】


少女は不思議そうにこちらの顔を見ている。

だが、不思議なのはこちらも同じだ。

なぜなら、俺は自分自身の名前も覚えていなければ、これまで何をしてきたのかすらもわからない。


「うーん、すまんが何も思い出せない。記憶喪失ってやつか?」


少し考えては見たが、やはり自分のことは何も思い出せない。

ただ、まるで知識が無いわけではないようだ。例えば、今のような寝ている相手に対して攻撃をするようなことが理不尽であるというモラルなどはわかる。

後は体の感じからどうやら子供ではないと言うことは分かる。

かなり筋肉もついており、何かしら行って体を鍛えていたようだ。


【ふーん…まぁいいわ。じゃあ特別に私が知ってる貴方のことを教えてあげるわ】

「おぉ、それは助かるな」


最初の話からもどうやら彼女は自分のことを何か知っているらしい。

この場所に関しても気になるが、彼女が話してくれるのであればまずは自分のことから情報を集めよう。


【貴方の名前は只野幸生、年齢は18歳、性別は男性】

「ふむ、只野幸生…か」


自分の名前を反芻する、が、やはりあまりぴんと来ない。まぁ自分の名前のはずだし、いつかは慣れるだろう。


【貴方は、私の信徒であり、世界を救った勇者。そしてその戦いで役目を果たし命を落としました】

「信徒であり、勇者っと…って俺死んでんのか……なるほどなぁ」

【あら、驚かないの?】


こちらの反応に対して、目の前の少女は不思議そうな表情をしている。

記憶が無いところにいきなり勇者だのもう死んでるだの言われたら普通は困惑するところなんだろうけども。


「そう言われても現実味無さ過ぎてなぁ……とりあえず続けてくれ」

【そう?じゃあお言葉に甘えて】


目の前の少女は一息、コホンと咳をつくと改めて説明を続けた。


【私は女神、セレナ】

「え?女神…さま?」

【えぇ、女神って色々な世界を管理してるんだけど、その中のひとつが貴方が救った世界よ】

「へぇー、女神様って案外普通の格好してるんですね………力は凄そうだけど」

【聞こえてるわよ?】

「すみません、続けてください」


流石は女神様。コチラの些細なつぶやきなどもどうやら筒抜けのようだ。

速やかに謝罪をすると、頬を軽く膨らませながら自称女神の彼女は返事をした。


【もう……では改めて、貴方には前の世界での貢献を賞して、別の世界で第二の人生を歩んでもらうわ】

「えっ、俺生き返れるの……ですか?」


死んだと言われた後にすぐに生き返りの話が浮上してきた。

別の世界でと言われているのが引っかかるが生死がこんなに簡単に操作できそうなところがやはり神のなせる御技といったところだろうか。


【えぇ。まぁ端的に言うと、転生…とも少し違うから異世界転移というのが正しいのかしら?貴方が前の世界では味わうことの出来なかった生活を行うことが出来るわよ?どう?嬉しいでしょ?】

「はぁ?…まぁ、そもそも前の記憶が無いから前との比較を楽しむも何も無いんですが」

【そういえばそうだったわね。でもまぁ安心して?私の力で貴方には素敵な特典を授けるから】

「特典?何がもらえるんですか?」

【どんな人でもあなたのことを好意的にとらえる特典よ!どう、中々魅力的じゃない?これで第二の人生におけるパートナー探しにも困らないわよ?】


自称神のセレナはやけに得意気に鼻息を鳴らしている。彼女なりに色々考えてくれていたのだろうか?

実際、凄い特典なのかどうか今の自分には判断しかねるが、敵意を与えられるよりはましなのか?

…そこはかとなくやばい空気も感じるが。


「まぁもらえるのならありがたく貰っときます。このままここにずっといるって訳にもいかないでしょうし」

【そう!物分りがよくって助かるわ!ってことで心の準備がよければもう飛ばしちゃうわよ?】

「随分とんとん拍子ですね、まぁいいですけど」

【それじゃあ、新しい世界へ…!いってらっしゃーい!】


女神セリスは彼女の傍に出てきたボタンを鈍器で思い切り叩いた。

すると、俺の足元に綺麗に穴が出来上がる。


「へっ?…うおぉぉぁぁぁぁ!!こういう感じなら先に言ってくれー!」

【だって聞かれなかったからー!!】


抗うことも出来ず、俺はそのまま落ちていき、いつのまにか意識を手放していた。












「………って……でしょ!」


(なんだ?声が聞こえる?)


「ほどいてっ!ほどきなさいよっ!!」


女性の声が聞こえ、ようやく意識がはっきりしてくる。


「んっ……ここは…?……ってなんだ、これ?」


目を覚ますと体をロープで縛られているのがわかった。

辺りを見回すとどうやら建物の中のようである。

隣には同じくロープで縛られている女性がいる。

叫んでいるのはどうやら隣の女性のようだ。


「あの、大丈夫ですか?」

「えっ!……あっ!……はい、大丈夫です…」


声をかけるとこれまで声を荒げていた女性がいきなりしおらしくなった。


「これ、なんで縛られてるんですかね?」

「えっと…それは…その……あの…」


女性はロープに縛られた状態でもじもじとしており、いまいちはっきりしない。

こころなしか顔も赤らんでいる。


「にしても、これどーなって…」


「おう、兄ちゃん、目ぇ覚めたか!」

「ようやくお楽しみの時間だなぁ!」


建物の扉が開き、外から屈強な男性2名が入ってきた。

二人の顔は赤くなっており、呂律の様子から酒も飲んでいるようである。

その二人の様子に隣の女性の表情が急激に変化し、鬼気迫る表情で叫んだ。


「っ!あんた達!これほどきなさいよっ!」

「それは無理な相談だなぁ、これからのことを邪魔されても困るしな」

「くっ、卑怯ものっ!」

「はっはっはっ、何とでも言うが良い!」


(なるほど、どうやらこの女性がおそわれそうになっているんだな)


状況を判断すればまぁ大方はそういう考えに行き着くだろう。

ただ、それならば何故自分が彼女と同じ部屋に入れられているかの説明がつかないのだが。

まぁ、その辺りはあとから考えれば良いだけだ。


(とりあえず彼女への注意を逸らしつつなんとかしないとっ!)


これでもあの女神の言うことが本当なら、自分は元勇者のはずである。

きっと何かしらの打開策が見つかるはず。


「おいっ!この女性に手を上げるのはやめろっ!」

「あん?」

「こんなロープで縛り上げて女性を好きにしようだなんて、汚いにも程があるぞ!」

「ん?何言ってんだ?」

「………」


男達は顔を見合わせて困惑している。

隣の女性はそんな男達のほうからこちらへと視線を移している。


(よし、わずかだが注意がそらせた!このまま近づかせて頭突きでも…!)


「俺達の興味はもとより…」

「お前のほうだぜ、兄ちゃん…?」

「………は?」


男達の発言に対して一瞬、頭がフリーズする。

待て、この男達はいま、なんと言った?


「やめなさいよっ!この卑怯ものっ!」

「うるせぇ!あまりにもやかましいから縛り上げたが、口もふさいでやろうか!」

「……待ってくれ、聞き間違いだと思うんだが……もう一度いいか?」

「あん?…だから、俺達の興味は…」

「兄ちゃんのほうだぜ…?」

「……はぁぁぁぁー!!!」


屈強な男2人からの身の毛もよだつ発言を聞き、全身に鳥肌が立つ。


(聞き間違いじゃなかった。あの二人の目的は…俺の…からだ?)


今までこのような経験も無かった、いや覚えては無いんだがこの全身の悪寒から恐らく無いはずである。

女性と一緒に縛られていたら、行為の邪魔をされないように男を縛るのが普通のはずである。

そもそもこんな話に普通も何も無いのだが。

だが、今回はそうではなく、女性に邪魔をされないように女性を縛っているようなのだ。


(待て待て待て!どうしてこんなことになる!俺はそんなに男にもモテるほどのものなのか!)

【あー、ごめん、ちょっとミスって男性側からの好意も女性と同じベクトルで上がってるみたいだわ】

(その声はっ!ってかそれって…)

【どもー、さっきぶりだね。やー、ちょっとした手違いで、どんな人からもLIKEじゃなくてLOVEでとられるみたい】

(はぁぁぁぁっー!)

【とりあえず何とか切り抜けてね!そんじゃ!】

(あっ、ちょっとまてっ!)


一方的に話しに入ってこられて一方的に話をきられた。

そんなことを考えながらも、ゆっくりと男性の手は近づいてきている。


「へっへっへっ、悪く思うなよ?」

「いやっ、やめてっ!」

「お前が悪いんだぜ、あんなところで倒れてるから」


目の前の男の手が今にも体に触れそうになっている。


(どうしてこんなことになってる…こんなっ!)


(俺は女性が好きなんだよ!あんの駄女神がぁぁっ!!)






この後、寸前のところで強化魔法の存在を思い出し、ロープをちぎり、辛くも脱出。

ついでに女性も助けて近くの村まで送り届け、その女性にも襲われそうだったので走って逃げ出した。


そんなこんなで俺の異世界転移による第二の人生は波乱の幕開けを迎えたのだった。


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