6.ひと仕事ーガインー
「…王様あんな顔だったっけ?」
「本人に間違いないけど変わったな」
私が現れたことで急遽私つきの護衛のラウさんが面倒くさそうに答える。
変わったっていうものじゃない。
ガリガリに痩せ目だけは爛々と光っている姿は、以前の、あの威厳のあるオーラをまとっていた人と別人だ。
今、私達はだだっ広い円形のホールの中にいた。他国から来ている人も多く服装もそれぞれ特徴があって華やかだ。
「では、しばらくお楽しみください」
不自然だった。
この世界の常識的な事を私はまだ理解していないけれど普通王様が締めに話すはず。そうじゃなくても必ず一言はあるはずなのに、仕切ったのは宰相さんだった。
「いい顔になったじゃん~あの坊や」
ラウさんが、小さく呟く。坊やとは、デュラス王子の事だろうな。後ろの端にいる私達からは小さくて、しかも背が低い私はあまりよく見えないけれどラウさんが言うなら本当なんだろう。
ラウさんは、普段チャラいけどそういう冗談は言わない。
派手王子は、無事というのが分かってとりあえず私はホッとした。しばらくダンスや話で周りは和やかムードが続いていたが、それは破られた。
「酒だと言っただろう!」
「も、申し訳っ!」
「ギャア!」
派手に何かが割れる音と遠目だったけど、見えてしまった。
首が飛んだ。
「カエデ見るな」
「平気」
退けようとラウさんが前に立ってくれたけど、どかし逆に前に進む。
「カエデちゃんって本当に何者?」
ラウさんが聞いてくる。
「意外と臭い以外は平気なんだけど、それよりすぐ始めればよかった」
流石に首をくっつけて生き返らすのは無理かもと呟く私にラウさんは。
「カエデちゃん、新人より使えるかも」
いや剣とか無理だし。
早くすれば今の人死なずにすんだかなと後悔するが、もう更なる犠牲を出さないように、悲鳴が飛び交う間をすり抜け、雛壇席の前になんとかたどり着いた。
「カエデ?!」
デュラス王子がこちらに気付き驚きの声をあげる。
「陛下」
なんだという感じで視線を此方に向けた王。
「無礼を承知で、お祝いに舞を披露したく」
私は、肩から足元迄を覆っていた布を落とした。
「ほお」
私の衣装は、透けるような生地に動けば太ももまで丸見えだ。胸は…寄せて上げるしかない。
絡みつく視線を浴び視線が合ったので、私の持てる最大限の色っぽさを出し微笑んでみた。
「やれ」
多少効果があったようだ。その言葉で私は歌い舞い始めた。
ヴィラに教わったのは、遥か昔の歌らしい。歌は新しいけれど舞は豊穣のものとよく似ていた。
「…何を」
雛壇席で座っている王様の様子がおかしくなってきた。それは、歌えば歌うほど、舞えば舞うほど変化していく。
「ヤメロッ」
ブァン!!
「あっやばっ」
歌い舞うのに集中して王様からの攻撃の対応に一瞬遅れ防御の強化が間に合わなかった。
バチバチ
最後の膜に触れた音。
「楓っ!」
「カエデちゃん!」
ルークさんとラウさんの声がした。
負けた…。
こんな透け透けな恥ずかしい格好までしたのにっと諦めかけた時。
「あっ」
色々な色の光が私から放射線状に飛び出した。
何? 私は何もしてない。
この光は何処から?
眩しさに目を細めながら、自分を見る。光の元は、みんなから貰ったブレスレットだった。それにルークさんに貰ったネックレスの石も光をひときわ強く放っている。
その光は、数えきれないくらいの無数の矢の形をした黒い何かを弾いてくれる。王様は、光が眩しいのか腕で顔を隠していた。私は最後の旋律を歌い上げ舞う。ヴィラが最後に言っていた。
『今の楓じゃ力が絶対足りないの』
『どうすればいい?』
『喚びなさい』
私の質問にヴィラは迷いなく微笑んだ。
『アレは楓にきっと応える』
「来て」
呼んだ瞬間。
キィーンー!
見上げれば、あの、御披露目で使った杖。
シャンシャン
杖の鈴が動かしもしていないのに勝手に鳴っている。それを掴みとり杖に力をこめる。
すると、先端の真ん中にある緑の石が光り回り始めた。それは、私がもっと、と込めるごとに回り光だす。
重さを増していく杖を両手で支え持ちあげ、王様に向かって気合いとともに思いっきり振りおろした。
「いっけー!!」
ゴオォー!
物凄い風が発生し巻き上がった。
最後耳にしたのは。
「オマエッナニモノ…」
毎日なんとか生活している庶民です。
シンと静まるホールには、来賓の大半は逃げ、あとの皆は、何故か気絶しているようだった。
巻き起こった風のせいなのか、食べ物や砕けたグラスでテーブルも床も悲惨な状態だ。ただ、マイナスイオンみたいな清々しい空気が濃く漂っている。
「パキン」
ん?
音がした方を辿ると…。
杖の石が割れて粉々に崩れていく。
『かなり古く高価なものなんですよ』
前に借りた時に神官長さんが神殿の宝とか言っていた言葉を思い出す。
「ちょっ!不味い!」
焦る私の耳に更なる声が…。
「ホギャア」
…声を辿る。
雛壇席からするので、近づいてみると、王様の座っていた場所には、何故か王様が着ていた服に埋もれて赤ちゃんが泣いていた。
もう、私の脳だけじゃ処理は不可能だった。
「ラウさんっ! もう無理だ! 起きてー!」
とりあえず、ラウさんをゆさゆさしながら起こしにかかった。
ブックマークありがとうございます。
最近かなり気分が落ちているので励みになります。