5.ヴィラと会話 ーガインー
「使者殿」
「あっ、ザスールさん」
宰相さんやルークさん達は、お偉い様達と挨拶をしに別行動。他の騎士さん達も別の場所に待機らしい。
私は、ラウさんと宰相さん達の後ろ姿を見送っていたら、声をかけられ、振り向くと前回お世話になったザスールさんだった。相変わらずのイケメンで色気が無駄に漏れ出ているのは変わりないけれど、酷く疲れている?
「寒いのですか?」
腕をさすり続けている私を気にしてくれる。お城に入ってから、ゾワゾワ感が強くて鳥肌がたちっぱなしだ。
色々聞きたいけど、今は人の目が多すぎる。そして、多分ザスールさんもお祝いの準備でかなり忙しいはずだ。
でも、気になる。
「後程、時間をほんの少しもらえますか? あと、これをザスールさんとデュラス王子に」
私は、していた小さい石のペリドットのピアスを外して渡した。馬の上に乗っている時に、ルークさんが、石に何か込めたのを思いだし、真似をして防御、この防御には、あのどす黒いのに侵されないようにというのも取り入れてみた。
即席だし効果は分からないけど、やらないよりマシだよね。
「ありがとうございます。これは…後程必ず」
ピアスを手に落とした瞬間、ザスールさんは、はっとした表情になり、真剣な瞳で見つめてきた。私は相変わらず自分の力を感じる事ができないけれど、多分ピアスに込めたのを感じたんだろうな。
「お着替えも必要ですね。すぐ部屋にご案内させます」
硬い表情は一瞬で消え、穏やかな笑みを浮かべ何事もなかったかのようにザスールさんは話を再開し、私は部屋に案内された。
「なんか、アイツいけすかないな~」
私が防御、音遮断をかけたら、今まで口を閉じていたラウさんが、話始めた。
私は、早速ソファーに寝る準備をする為、クッションを動かしていたのでラウさんの方へ顔だけ動かし、つい余計な事を口走った。
「やっぱり、同類だから合わないんですかねー」
「あぁ?」
コワッ!
「今までで一番ガラ悪いですよ!気だるげな感じと無駄に色気が漏れてて、でも侮れない。そんな所が似てるんです」
「なんも出してないけどな~」
「まあ、無自覚ですよね」
よし、できた。クッションの位置も決まり早速ソファーに横になる。
「じゃ、寝ます!」
かなり睡眠をとっているのにもかかわらず、すぐに睡魔がきて、それに私は身をまかせた。
「無防備だなぁ。警戒心薄いカエデちゃんこそ、女の子の自覚ないよね~」
すぐに眠りにはいった私はラウさんの呟きを聞くことはなかった。
なんか、懐かしい。そこは、緑の草原でサワサワと葉の音が広がる。
「楓」
「ヴィラ」
呼ばれて振り向くと、金の髪をなびかせた女の人。
「文句は沢山あるけど一番はガインのお城の気持ち悪いモノは何?」
今は、時間がないから要点だけ聞く。
「それもあって、来てもらうの早めたのよ~。アレ、ヤバイから」
ですよね。本能でヤバいモノだと感じるくらいだ。
「とりあえずサクッと話すわ。腕輪、前と違うでしょ?防御は以前と同じくらいで、転移もできるけれど、治癒や攻撃力は前より劣る」
私は改めて腕輪を見た。
「いずれ時がきたら楓が使えるのは、防御と少しの治癒だけで、腕輪そのものを消すから翻訳もなくなる。で、アレだけど、まあ、悪意の塊みたいな物かしら」
悪意って形になるの? それに。
「なんで、ラウさんに見えなくて私に見えるの?」
疑問に思っていた事を聞いてみる。
「今は、私の力の影響が強いから楓にも見えるし高位神官、感が強い動物、魔力が強い生き物は見えなくても感じてはいるはず」
確かに、ラウさんや乗っていた馬は気がついていたな。
「で、本来アレは、小さく浮遊してあまり害はないのだけれど集まると害をなし闇や欲望が強い者ほどつけこまれる。楓のとこで言えば、善があれば悪も、光もあれば闇もある」
「うーん。なんか難しそう」
「今アレは、ガインの王に憑き、まあ端から見たらご乱心状態かしら。助けたい?」
何、その言い方は。
「なんか、狡いよ。あのどす黒いのなんとかして欲しいから喚んだんでしょ?」
んーと可愛く首を傾げながヴィラは神様なの?と疑うような発言をした。
「正直どうでもいい」
「えっ」
バッサリ。だいぶ冷たいな。
「ただ」
まだ話はあるの?
「楓が悲しむかと思って」
「私が?」
悲しむ?
「そう。私は、この世界の均等が保たれれば、どうでもいい。本来、神は些細な事に干渉しない」
「確かに、世界規模でみたら大したことない…のかな」
「そうね。でも楓は違うでしょう? 楓なら、なんで助けられるのに助けないのって言うでしょ? 私は、直接干渉できないから、喚んだの」
そこでヴィラがふふっと笑った。
「なんか、楓に関わって私も変わったかも」
そして真剣な口調に変わる。
「今の楓だと、浄化できるか五分五分だわ。失敗すれば、最悪、楓は死ぬ」
「死って」
「すでにガインの王の乱心で何名かは、死んでいるし、アレは憎悪を好むから恐らく放置すれば近いうちに戦を起こす」
「…教えてよ。浄化の仕方」
* * *
「だいぶ寝てました?」
私はソファーから体を起こして、ドア付近に立っていたラウさんに聞いた。
「ん~2時間くらいかな。ー誰か来る」
ラウさんの言葉の後にドアを叩く音。
「ザスールですが、今よろしいでしょうか?」
「通して下さい」
ラウさんがドアを開け、ザスールさんが入ってきた。
「ザスールさん、今日の王子の成人お祝いって王様参加しますか?」
「え、ええ、勿論」
質問の意図が分からない様子だけど、スルーする。
「私も参加できます? そこで一芸もしたいんです。」
「は?」
「楓ちゃん、また、面倒な事するつもりでしょ~。」
「ルークに叱られるよ~」
しょうがないじゃない!
できるかもしれないと言われて、やらないのなんて絶対後悔する。不思議な表情のザスールさんと嫌な表情のラウさんをよそに、私は夜、行われるお祝いの為に準備を始めた。