12.カエデの苛立ち
「いつまでもここには、いられないよね~」
ヴィラスに戻って3日目の夜。
前回と同じ部屋の庭で青い月を眺めながら、ついため息をついた。
「カエデちゃん~。交代きたから俺いくね~」
少し離れた所にいたラウさんが、手をヒラヒラさせながら去っていく。その背にお礼を伝えた。
「ありがとうございました」
警護だって役目を終え今は使者でもない私に人員をさいているのもよくないよね。
「楓」
ラウさんの交代相手はルークさんだった。
いつ戻ったのかな?
表情は疲れが見えるけど、相変わらずのイケメンだ。シャワーを浴びたのか、微かにいつもの柑橘系に違う香りが混じっている。
「先程戻り報告を終えて、こちらにきた」
「お疲れ様です」
…私に何か言うこと、伝える事はないのかな?
結婚の話とか。
「どうした?」
ルークさんは、何か違和感に気がついたのか覗きこむようにして私を見てきた。
深く青い瞳。
「…何も」
私から目をそらすと肩を掴まれた。
「楓、言ってもらわないと分からない」
──なんか無性にイライラした。
自分のこれからが、身の振り方がハッキリしないうえに自分1人では、まだこの世界でやっていけないという現実。
「なんでもない」
「かえ」
「うるさい!」
思わずルークさんの手を思いっきり振り払ってしまった。
「ごめんなさい。寝ますね」
視線を合わせないままルークさんの横をすり抜け部屋の寝室へ直行し、ふかふかの枕に顔を埋める。
ああ、私サイテーだ。
これじゃあ、ただの八つ当たり。
今時の子供だってこんな態度しないよね。
悶々としている内に私はそのまま眠りについた。