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第六話 恐怖の始まり

 夜が明けて、ベッドから起き上り肩をほぐす。

 装備をインナーからいつものやつに変える。装備も前より良くなった。レベルも一週間で十にまで上がった。ステータスも上がった。

 よし、今日も一日頑張るぞい。


「そういえば近いうちにこの町からも出るって話だったな」


 ゲーム内時間で一年以上かけてやっとレベル十までこぎつけた。本来なら二、三日で届くらしいのだが、学校が学校なだけに遊びほうけているとあっという間に授業範囲からおいていかれるのでそこらへんは気を付けてやってきた。セーブしていた分今日は楽しんでいきたい。


「そうだ、待ち合わせ場所に行かなきゃ」


 待ち合わせ場所はこのゲームの初ログイン場所から街へ入るときの街の入口だ。

 あそこで待ち合わせるとのことだ。ついでに紹介したい子も来るそうなのだが、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。


「まぁ、四人でやるっていうならパーティプレイもはかどるだろうし、何より楽しそうだし仲良くしたほうがいいよなぁ」


 と、街中でつぶやいたのが原因か、周りのプレイヤーからひそひそ声が聞こえてくる。言葉選びを間違えたのだと今気づいた。


「とりあえず攻略頑張らなきゃな! うん、パーティ組むの楽しみだなぁあはははは! ……友達いないし」


 そこまで言って憐れむ視線と同情する視線と、言葉の意味を理解してなおのこと同情を向ける視線に分かれたがまぁ、誤解は解けたようだ。ゲームでここまで精神的に抉られたのは初めてかもしれない。


「ふぅ。適当に屋台でジャンク買って待とうっと」


 ホットドッグ、ハンバーガー、フライドポテト、チキンナゲット、から揚げ。この世界だといくらハイカロリーを摂取しても太らないので、こうやって味を楽しんでいる。でも実は間食を抑えるためにこれをちょくちょく利用させてもらっている。ダイエットにもいいんだよなぁ。食欲はなくならないけど満足感はあるので我慢できるようになる。

 ちなみに味に飽きないようにドレッシングとサラダも用意している。


「あいかわらずうまいなぁ。これ」


 現実のお店の味を再現しようと頑張っているようだ。ホットドッグのチェーンは知らないがハンバーガーの再現度はなかなかだ。チキンナゲットもマクドそっくりに仕上がっている。マスタードソースほしい。


~~~~~


「それにしても遅いなぁ。結構待ったつもりだけどいまだに来る気配がない」


 あれから何時間も待ったのだが、端末通信もチャットメッセも届いた様子がない。何かあったのだろうか。


「まぁ、もう少し待てばログインしてくるでしょ」


 そう思いながらしばらく待ったが来る気配はなかった。結局夕方になっても来なかったので、途中で狩に出た。食べ物を買う分にはまだまだお金には余裕があるが待ってるくらいなら稼ぐ。

 そしてしばらくゴブリンやらスライムやら狼なんかを狩って経験値やらお金をためた。この辺でクリアできるクエストもある程度クリアして経験値を得てレベル十になってからはレベル上げの効率も悪くなった。だから今日新しいところへ行くとのことなのだが、いまだ待たされている。とりあえず、チャットが来るまでは適当に狩りを続けよう。

 連絡が来たのはそれからゲーム内で三日ほど過ごしてからのことだった。


「やっと来たんだ。というかまぁ一分で一日という仕様を考えるとそうでもないか」

「遅くて悪くてござんしてよ」

「うわぁ! びっくりさせないでよ」

「ざまぁ」


 後ろにモアがいた。そしてその後ろに並んでいる二人。ライターとあとなんだ。ふりふり衣装の女性アバター。

どうやら彼女たちは僕の愚痴を後ろで聞いていたらしい。気分を悪くさせてしまっただろうか。いや、したな。


「こんど何かおごるから今日のところは見逃して」


 すっかり魂を女の売り渡した僕である。そしてリアルでも何かおごるという点を除けば大体こんな感じである。要は慣れだ。

 ちらっとライターの隣のフリフリ女性アバターを改めてみる。なんかやけに挙動不審ではないだろうか。実際挙動不審だ。


「じゃあ、自己紹介よろしく」

「不知火です。よろしく」


 僕が自己紹介をした瞬間、フリフリは覚悟を決めたように目を見開く。そしてポーズをとって一瞬停止。ん? この動きもしかして。


「「ミルキーシルキーナナ見参!」」


 一瞬で空気が冷えた。


「…………」

「…………」


 これは突っ込んだら野暮というものだろうか。咄嗟に口に出して合わせたが、なりきりファンだとまだうれしい。だが、今の声は大体知り合いと一致するし、ポーズのセンスも顔のパーツパーツも知り合いと一致する。……何もなかったことにしよう。


「「ねぇヌイヌイ」」


 から元気で誤魔化そうと笑っていると服の袖を二人にひかれた。ゆっくりと二人のほうへ向く。


「何だい?」


 努めて平常心を装い彼女たちの呼びかけに答える。今この空気を払拭しようとしているのだから、邪魔しないでほしい。


「「変態?」」

「いや、違うよ」


 ジト目で言い放つ暴力をはたき落とし、このミルキーナナさんについて話す。


「ねえ、菜々美」


 ビクッ! とミルキーナナは肩を張る。


「は、はは? 何を言ってるのか分からなーい」

「ミルキーナナ自称十七歳本当は十四歳、設定3サイズは88・56・90身長165の体重林檎三個分」


 知る人が見ればお前いくつだよと思われるネタステータスが一つ入っているのだが、こいつやはり妹だろう。というかなんだ。林檎三個分の体重っておっさんホイホイか。

 僕は彼女のほうを見ずに彼女の設定を告げる。いわゆるアイドルになりたいお年頃ということらしい。


「なぁ、菜々美。これ以上誤魔化そうというのであればお兄ちゃんにも考えがある」

「はい。すみませんでしたーお許しください」


 僕がこいつにここまで言うのには理由がある。一回妹に理想の彼女像というものを聞かれたことがある。その時の設定を一部流用されたので、とてつもなく恥ずかしい。黒歴史小説のヒロインの設定を目の前で再現されそのまま目に移される苦しみよ。


「お前なんでこの二人と知り合いなの? それは問題ないのよ。問題なのは何その痛いキャラ? まだやってたの? 去年までだと思ってなりをひそめたと思ったらネットでアイドルってどういうことなの? 那〇ちゃん?」


 今なお莫大なシェアを抱える会社を一つ敵に回しかねないぎりぎりな会話をしながら妹をなじる。兄としてはあるまじき行為なのかもしれないがだんだんテンションが上がってくると楽しくなる。


「ねぇ、そんなキャラクター作って演じて楽しいの? むしろそんなクソキャラで遊んで楽しいの?」

「かわいいじゃん!」

「かわいくない」

「お兄ちゃんの好みに合わせたんじゃん!」


 その言葉でこの場の空気は一気に氷点下にまで下がった。雰囲気が最悪になったといってもいい。下手に言葉を返したくないなぁ。今まで誰も見ていなかったこの目にライターとモアを映す。おっとこれはゴミを見る目ですね。実に冷たいのがわかるついでに楽しんでもいる。


「妹にあんな格好をさせたの?」

「しかも好みって……」

「ち、違う! 誤解だよ誤解。僕はほら、もっと母性にあふれた人が好きなんだ」


 言葉選びに失敗し地雷原を駆け抜けていくスタイル。しかも地雷が目の前にあるのに、あえて踏みに言った自分は馬鹿だろう。


「「「マザコン」」」


 きっと、今なら言える。髪は死んだ。


「毛根な不毛な話はやめよう。お互いに傷つくだけだ」

「傷つくの私たちじゃないし……」


 ですよねー。自爆してるの僕だけなんだよなぁ。


「言い方変えるわ。年上のお姉さんが好みです」


 妹キャラなんて論外。いわゆるいとこのお姉さん的な関係が個人的にはベスト。いじめられないし、いじめれない。ある意味ベストな関係ではないだろうか。……従姉いないけど。


「うわっ」

「引くなや」


 普通に聞いたらドン引きものなのは分かっている。ただここはネット。嘘をついても真実を確かめる手段はないのである。そう僕の性的趣向はだれにも……。


「お兄ちゃんのパソコンの中には確かに年上のお姉さんものありました」


 身内が一人いればそれは地雷原と化す。ネットが嘘を言っても本当にされないということは同じコミュニティが二人以上いる場合都合のいいほうを信用する。つまり同性であるミルキーナナ(笑)の発言は男の僕が発信するよりはるかに信用されやすい。たとえそれが嘘だろうと本当だろうと関係ない。


「引くわー。ドン引きだわー」

「これはクラスのみんなに通報案件だね……」

「やめてくださいお願いします」

「ん?」

「何でもとは言ってないだろ!」


 ある程度ネットの波にのまれたものは汚いネタでも平気で使う。ネットならなおさらだ。一時期JKの間で微レ存。『微粒子レベルで存在している』というネタがメールで使われているということがあったらしい。真偽のほどはともかくある程度ネタに耐性のある女子は割と使う。高校のころ放課後の掃除時間の際何気なく「掃除面倒くさい」と言ったところ「おう、あく机運べよ」と女友達に狙撃してきた挙句「がんばれがんばれ」と連鎖が連鎖を生んだ。


「とにかく、人の趣味嗜好の話はあまり深く踏み込まないでくれ。今後どう付き合っていいのか迷う」


 顔が赤くなり二人と目を合わせられない。視線をそらし首の後ろあたりを掻く。


「お兄ちゃん学校だとこんな感じなんですか?」

「まぁ、大体ね」

「うん。人形にされて遊ばれてる感はあるけど」

「そこ、余計なことを言わないで!」


 せっかく家族には内緒にしてるのに。このゲームログアウトしたら妹には言って聞かせなければならないだろう。


「まぁいいじゃない。兄妹仲がいいことはいいことよ」

「そうそう」


 ウインクしながらそう言い切るモアと追従しながらうなずくライター。悪いわけではない。ただひたすらにこっちが嫌がってるだけだ。


「お兄ちゃん私に身長抜かされたからすねてるんですよ」

「えっ、嘘?」


 そう言ってライターが驚愕の目で僕を見てくる。


「私は身長167ですけど兄貴は162です」

「死ね!」


 僕は激怒した。かの妹を必ず打ち取らねばならぬと。攻撃と間違えたことにしてPKしてやろうと計画を練っていた。


「とりあえず、世間は思ったより狭いと判明したところで、改めて今日はゲームプレイするぞー!」


 いつになくハイテンションなモア。このチームのムードメーカーなだけあって、場を仕切るのもうまい。それに乗せられてライターも僕もナナも便乗する。そう、このチームで始まったのだ。――一度終わったはずのあの恐怖が数年越しに再び顕現する。

 そう。これは終わりへの系譜。僕が成り行きでギルドを作るための系譜だったのである……。


久しぶり

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