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第五話 リアルでの一週間


 あの事件の次の日。お互いあれはなかったことにしようと持ち掛けた。だが、ライターには所詮ゲームだし気にしないでいいと言われたし、むしろ不知火なら気にしないとも言われた。こういうところでいつもお互いの意識の差を感じてしまう。もしかしたら僕が非常に敏感なだけなのだろうか。道程を捨てれば変わるだろうか。少なくともあのような状況になっても、気にしなくなるような気がする。


「おお~? 青少年よ、昨日のライターの体どうだった? めっちゃエロかったでしょ?」

「そ、その話はもうお互い忘れることで決着ついたからもう蒸し返すのやめてください」


 実際あの場面に遭遇すると興奮するなんてことはなく、ただただ罪悪感が湧くだけである。そのうち笑い話にできる顔しれないが少なくともゲームの中とはいえ女の子の体を見てしまったという精神的ショックはでかい。


「ん~? ほれほれ、かわいいなぁヌイヌイは」


 かわいいって単語は男に使う単語じゃないと思うんですがそれは……。

 気にしたら負けだと思うがクラスではいつも女子にこんな感じでまるでテディベアだ。女友達もいいけど彼女がほしい。でも、周りの女子が多い中で万が一振られたり別れたりなんて事態が起これば、僕はクラスで浮いてしまうだろう。せめて卒業するまでは彼女は作れない……なんて言ってたら高校も卒業しちゃったのは損をした気分だ。

 すでに、若干こじらせている感じがある自分のステータスを嘆いても仕方がない。なるようになるしかないのだ。


「ふう、まだ百二十日以上残ってるのか……」


 逆に言えば一度ゲームを始めて二時間以上経つことがざらだしそれを考えてみると一年かけてレベルがやっと一つ上がるとかそんな事態が待っているのだろう。嫌だなぁ。


「今日は食べ歩きするよ」

「えっ」

「食べ歩きするって。ヌイヌイ、行こうか」

「えっ、食べ歩きって何食べるの?」

「それを見ながら考えるの!」

「さいですか」


 彼女たちには逆らえない。とりあえずついていくとしよう。

 もう朝から昼になりかけている時間帯なので街の大通りに来てみるとすでに人がたくさんいた。というのも、どこもかしこも女性ばかりなのだ。えぇ~……、この中に行くのはさすがに勇気がいるんですが……。


「大丈夫。あたしたちがいるんだから」

「そうそう。ヌイヌイは私たちにリードされてればいいんだよ」


 ふつうこういうの逆じゃないかなぁ……。ソロで活動するようになったらそのうちお返ししよう。プレゼントとかは性じゃないのだけれど、彼女たちは特別だ。クラスメイトの女子からは誕生日アピールはことごとく無視している。というのも一人例外を作るとみんな来るからスルーせざるを得ないのだ。「あの子がよくてどうして私がー」とかなると非常に面倒くさい。女の子が面倒くさいのではなく状況が面倒くさい。せめてに三人ならまだしもクラスの三割が僕のところに来るのが予想できるだけにつらい。ちなみに残りの五割は別グループの女子で二割は男子だ。


「お、お手柔らかに」


 女子女子した雰囲気になれてない僕は引きつった笑みで彼女たちに腕を惹かれて前へ進むしか道はなかった。


~~~~~


 カフェに入ると、やはり周りにいつ客は九割以上女性客だった。一組ほどカップルがいたが、そいつは明らかにNPCだった。不気味の谷を越えてない、何ともちょっと間抜けな会話をしている。クスリと笑いがこみあげてきて少しだけ勇気をもらう。逃げ腰だったが、おそらく、普通をよそえる程度には余裕ができていた。席に着いたとたんに腰が抜けましたがね。


「何食べる?」


 むしろ何があるのか分からないのでメニューを見せてください。二人で独占しないで。そう思いながらひきった笑みで二人を見ていると、突然二人が席を立ち僕の両隣に椅子を陣取り僕を間に挟んでメニューを見せてくれた。


「両手に花ですなー。ヌイ侍」

「ヌイ侍やめろ」

「ヌイ座衛門」

「やめろ」

「で、どれにする?」


 そういいながら見せてくれたメニューにはどれもおいしそうな名前と写真がずらりと並んでいる。そしてやたらと名前が長い。材料がわからないような果物からどう見てもゲテモノな果物、挙句の果てにはモンスターが材料として使われている。


「あぁ。うん。じゃあこの粉雪丸太ロールケーキで」


 季節外れにもほどがあるだろうと思ったが他の食べ物は名前を読むにはこっぱずかしいし、他の食べ物に至っては見た目でリタイアだ。許してほしい。そもそもこの店に来たのが間違いだったんだ。帰りたいと思いながら僕はこの時が過ぎるのを待た。早く来ないものか。

 胃がきりきりしそうな錯覚に陥っていると注文の品がやってきた。

 食べて落ち着こう。


「おっ、思ったより見た目がきれいだ」

「どんなのが来ると思ってたんだ……」

「えっ、実際に来たらよくならない? 僕そういうのよくあるんだけど」

「ヌイヌイの不幸に涙を禁じ得ない」


 なんか二人に泣かれそうになる二人。あの、そこまでのことじゃないと思うんですが。


「あっ、そろそろ二人の分も来たよ。一緒に食べよう」

「そうだね」


 そう言って彼女たちが頼んだデザートを見る。僕は丸太ロールケーキ。モアはフルーツタルト、ライターはチーズケーキだ。名前はまぁ、お察しください。男の自分にはハードルが高かったとだけ言っておく。メニューを指さして注文すればよかった。

 僕は左側のモアに話しかける。


「食べづらいから、移動してもらえる?」


 僕のフォークを持つ手は左。肘が当たるとお互い邪魔になると思うので少し移動してもらう。

 フォークでロールケーキを分けて食べる。中がふんわりとした生地でチョコのホイップクリームのほのかな苦みが生地の自然な甘さを際立たせる。生地の甘すぎもいい塩梅に殺しているのだろう。うまい。


「おいしいー」


 思わず声が漏れる。こういう女子が食べるものは嫌いではないがこういうところまできて食べたいと思わなかった。甘いのも好きなのだ。実際食べてみてこれが本場の味かと感心する。スーパーで買うようなものとはだいぶんレベルの差があるとはっきりわかる。

 呑み込んでしまうとその余韻に浸り、なかなか現実復帰できなくなってしまいそうになったが、これでもかというほどに。


「ヌイヌイってこんな顔するんだ……」

「ジャンクフードがつがつ食べてそうなのにね」

「失礼な。ジャンクフードも好きだけどやっぱり甘いものもいいだろ? というか、自分の好きなものを食べること自体が好きだ」


 見た目のわりによく食べる人だと言われる。高校以前お友達は僕がよく食べることを知っているので何も言ってこない。


「太らないの?」

「筋肉のカロリー消費は脂肪より多いからね。実はあれでも筋肉結構多いほうなんだよ」


 そういってリアルの僕の姿を想像してみる。がっしりとはいかないが全体的に要所で少し丸みを帯びた体系のため筋肉がないと勘違いされているが実はこう見えても鍛えてます。


「「死ね」」

「頑張れ」


 僕にはどうしようもない。というか今の体型も高校の間にバイトで自然と鍛えられた結果が今の体型なので、もし高校の間に鍛えてなかったらもう少し太っていた気がする。


「筋肉あるじゃん? あれって速筋と遅筋っていう二つの種類があるんだけどあれの遅筋を鍛えるとマッチョにならないし、筋肉もついて体力もつくっていう一石三鳥の策なわけですよ。女性にはお勧めのダイエットだと思いますよー」


 特に食事も抜く必要はないし、精神にも健康にもいいのでぜひともお勧めしたい。努力が続かない人にも努力を続けるきっかけになると思うし。


「おいしいなぁ本当に」


 二口三口と、どんどん食べてしまう。セットで着いているコーヒーにもシュガーをかけていただく。苦いのは逆に苦手な子供舌なのだが、ケーキのおかげで口直しに丁度いい感じだ。


「なんだろうね。この感覚」

「ぬいぐるみの女の子のおままごと見てるみたい」

「はっ?」


 そんなこんなでこの日は一日食べ歩きで過ごした。

 こんな楽しいゲームをガチ勢として過ごす意味が分からいと言ってしまえばそれまでだが、大体のMMOがガチ勢である理由がわからないと言ってしまえばそれまでだ。野暮なのでそれまでとしよう。


~~~~~


「ああ、なんか知らんけど疲れてるわ」

「それVRMMOの中で生活習慣乱したからじゃないの?」

「な、なるほど……」


 VRMMOの魅力に取りつかれてしまった僕は、一日一時間はこのゲームをするようになっていた。一日一時間でも十分遊べるボリュームになっているので素晴らしい。VRのMMOはそういう風になっているのかと改めて実感した一週間だった。

 そして今夜からFGOをすることになっている。明日は休みなので、とりあえずマラソンすることになった。明美と真菜とあと一人いるらしいのでその子を待ってからみんなでプレイする。でもいつものメンバーの中にいない人を誘うってどういうことなんだろう。少なくとも僕の知り合いじゃない誰かを呼ぶことになっているはずだ。まぁ、仲良くすれば問題はないだろう。


~~~~~


 週末明けの課題を半分ほど終わらせてからプレイの準備に取り掛かる。

 待ち合わせ時間は十時からだ。タイマーは五分ほど前にセットしているので、おそらく大丈夫なはず。

 それまでに済ませておきたいことは済ませてさっさとゲームに取り掛かる。ご飯も食べてトイレにも行った。これで万事問題なし。意気込んで僕はVRの世界に飛び込んでいった。


~~~~~


 夜の街の静かさと月光が静かに降り注ぐ。夜のわずかな肌寒さを感じて目を開く。見慣れたHPバーとSPバーとMPバー。そして右下に表示されるゲーム内時間。わずかに早かったようだ。だが、まあ少々早く来たり遅れたところで文句を言う人は誰もいない。ゲーム内時間でいくら十五時間といったって一日二日遅れたくらいで何か変わるわけでもない。

 VRでのレベル上げはレベル上げが厳しくなるが戦い続ければステータスが上昇したり補正の恩恵が大きくなったりする。なので、レベルが上がらないからと言って成長しないわけでもない。

一日遅れても支障がないのではその一日で稼げる経験値の大きさというものがたかが知れてるので誰も気にしない。


「とりあえず、今日はこの武器を試してみようかなぁ」


 あのハンバーグの青年からもらった武器。

 どう見ても壊れ性能なのだが、本人は使いづらそうだから安くていいですということでもらった。まぁ忍び刀の太刀って意味わからないものね。

 そういうのも含めてちゃんと確認しておきたい。

 今週の間にレベルは十まで上がった。そろそろ使い始めてもいいだろう。ショートソードはインベントリの中で眠っていてもらう。


「の、前に宿屋で寝てからにしよう」


 どうせ少ししたら彼女たちが来るのだ。それまでは遊んで待って居よう。


最近は絵ばかり描いているので書きだめはありません

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