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第四話 一日の終わり

 VRゲームにはデメリットがある。それはノベルゲーができないことだ。どんなにヴァーチャルの技術が発展してもこのノベルという媒体には手も足も出なかった。出たら蛇足だが。文字を読むということを売りにしているそれと、五感で感じるというそれが真っ向から対立した。会話以外で描写される部分を五感で感じようとするとじゃあノベルじゃなくていいよねという本末転倒な事態が実際に起こった。それ以来VRでノベルゲーは完全な地雷となった。

 自分もプレイしてみたいのだがあまりにもひどすぎたため逆にマニアが買い占めるという事態が起こってしまった。確かにそこまで地雷ともてはやされたゲームがあるなら触れてみたいという欲求にかられるのがゲーマーの性というものだろう。まぁ、本当に糞だからすぐにやめるのだけれども。


「まーた難しそうな顔してるー」


 ライターがやってきて僕の頬を引っ張る。そこまで痛くはないが彼女……というかクラスメイトの女子の半分くらいは僕の頬を引っ張る。


「本当によく伸びるよねー。VRでも再現されるんだ」

「あたしもあたしも!」


 ライターが左ほおを、モアが右ほおを引っ張る。ライターはさっきの戦闘を見る限り魔法職なのはまるわかりなのでそこまで気にしてなかったが、モアのほっぺたびよーんは痛い。もげそう。こぶ取れそうです。ステータスの補正がこういうところでも働くらしい。


「と、とひあえふ、まひへもほほう!」


 ほおを引っ張られながら抗議したらなんとか放してもらえた。ほおをさすってみたが晴れているということはない。これリアルになってもダメージ継続とかないよな……。

 他愛ない話をしながら、僕らは街へ戻ってきた。


「じゃあ、報告してくるから」


 そういって僕は二人と一時的に別行動をとることにした。


~~~~~


「ええと、確かこの辺に……と。あ、いたいた」


 このゴブリンの依頼を受けたNPCを見つけたので話しかけた。


「すいません」

「はい?」

「頼まれたゴブリン討伐完了しましたよ」

「ありがとうございます! 報酬はこちらを差し上げます!」


 そういうと、お金と光の玉みたいなものを差し出してきた。それを受け取ると光の玉だけ僕に吸い込まれていった。

 どうやらこれでいいらしい。レベルも上がったようで戦闘の時は集中して聞こえなかったが非常にシンプルなレベルアップ音が聞こえる。

 今思ったのだが、言われただけでどうして信用できるのだろうか。普通討伐証明部位みたいなものを持って帰ってこないと討伐されたとは考えられないと思うだが。まぁ、この辺はゲームだし気にしたら駄目だろう。


「あぁ、今日は疲れたし宿に戻って適当に一分後の計画でも立てるか」


 そういって宿屋に行こうとしたところで変なNPCとすれ違った。

 そのNPCの見た目はどう考えてもNPCなのに視線の動きや表情なんかがリアルだった。

 不気味の谷というゲームでは有名な単語。いわゆる一つの造り物をあまりにも生物に近づけすぎると不気味の谷に突入するというやつだ。VRなんかではよく陥りやすい。要は人間の持つ情報量を機械がまねしようとして結果的に不気味になるというものだ。もちろんそういうのはゲームに限らず、絵画や音楽にも存在すると考えていい。ふた昔以上前に流行ったボーカロイド。歌わせる分には不気味の谷というのはほとんど存在しなかったが、しゃべらせると途端に谷の幅が広がる。

 そんなNPCを視界に収めてしまったから嫌な予感がするというレベルのものではない。もしかしたらあれが運営のフラグ管理を任された人間なのだろう。

 そう考えると不思議と納得できた。運営も大変だなぁ。

 幾分気分がすぐれないものの、レアなものを見たと思ってその場を後にした。


~~~~~


「ふぅ……」


 さてこのVRMMOのゲーム、経験値の割合やレベルについて聞いてモアとライターにみたところ最初のうちは割とすぐ上がり、レベル二十を超えたあたりからかなり伸びが悪くなっていくらしい。ゲーム内時間で二日間モンスターを倒し続けてようやく経験値が一割溜まってくるかどうかというところらしい。ちなみに二人のレベルはモアが三二、ライターが三三だ。ここまで上げるのにレベル二十からゲーム内で半年以上かけたそうだ。そこまでかかるのか……。だが、レベルによるステータス上昇も魅力だがスキルの熟練度の補正による上昇も捨てたものではないらしく、レベルが上がりづらくてイライラするときはひたすらスキルや魔法をその辺にぶっ放すとのこと。

 熟練度が上がればそれだけでスキル発動の短縮につながるし必要ポイントの減少も見込める。いくつかのスキルはスーパーアーマーも付与されるとも決して無視できない要素である。

 さてこのゲーム、サービス開始からすでに二年ほどたっている。そしてこのゲームで確認されている最高レベルは二五七である。この数字はリアルで確認されたものだ。しかも半年前。あれからかなり経っていると考えるともう少しレベルが上がっていそうなものだが、一体その彼は何をしているのだろうか……。


「そういえば、一時間でどれほど過ごせるんだろう」

「ええと一分で一日だからそのまま六十日でしょ?」

「六分の一年過ごせるって凄いなぁ……」


 かのFPS事件は一日十秒という感覚で過ごしていたらしいのだから彼らは一時間一年で過ごしていた計算になる。中にはVRが触れなくなってしまい、一生懸命治療を受けている人もいると聞く。


「でも、それくらいでもないとやってられないわ。リアルと時間を連動させたら夜中にしかプレイできない人多くなったりするし、そのうえでも昼と夜はちゃんと過ごしたいしね」

「わざわざVRの中に課題を持ち込んでクリアさせる人いるもんね……」


 VRの活用術の一つだ。時間の流れが違うのならそれを活かして困難を突破しようというものなのだが、リアルの情報を持ち込もうとするのはゲームによっては規約違反をしかねないのでばれたらBANGされる。

 僕も何度かやったことがあるが二度としたくない。割とそういうことをする人が多いので有料サーバーにそういうスペースが作られたが学生にはつらい。だがそれ以上に得られるものが多いと思うので利用する人が多くリピーターも多いらしい。


「というかゲームに来てまでリアルの課題や仕事の話を持ち込むのはやめろ!」


 ついさっきまで課題をしていた身としては非常に心苦しい案件だ。しかもこれからもレポートがあるのかと思うと嫌になる。明日もゲームで現実逃避しよう。


~~~~~


 ゲーム内で夜を迎えた。

 最初の街ということもあり、夜の街を徘徊する人物はプレイヤーと飲み歩きのNPCくらいだ。よって必然的に外の人口密度が薄まる。

 僕らも宿をとっていた。当然二つ部屋だ。ゲーム内とはいえこの辺は徹底している。

 寝る前に彼女たちの部屋に行くことにした。

 ノックをする。


『はいはーい。入ってどうぞー』


 と中からモアの声が聞こえた。


「失礼しまーす」


 そう言って扉を開けて入る。完全に職員室に乗り込む学生である。無意識のうちにそういうことをしていると自覚がなくて一瞬経って恥ずかしくなった。


「何顔を赤くしてるの? ライターがいないからシャワー姿でも想像した?」

「えっ? あ、うん。ん? 違う違う! そんな想像してない!」


 自分でも今まで以上に顔が赤くなるのがわかる。本当に耳から湯気が出るのではないのだろうかというほどだ。いくらクラスメイトといってもそんなプライベートな話などしないし下ネタ関係の話はしても自身がかかわった話は全然しない。いわゆる『おっぱい大好き』『俺お尻が好き』程度の簡単な性癖の暴露程度だ。いや、まるで普段そんな話をしているかのような話をしているようにとられるかもしれないがそういうことではない。


「いや、明日以降どうしようかなって」

「あぁそういうこと。今日の間にレベルどれくらい上がった?」

「二つ。今レベル三」

「なるほどねぇ。明日は敵をたくさん倒してもっと経験値を得る! この辺でレベル十くらいまではレベル上げができるはずだから一週間はこれくらいね」

「い、一週間……」

「大丈夫。所詮一週間って言ってもゲーム内時間で一週間。リアルだと三分ちょい。体感時間でも長く感じて三日ほどだし」

「いや、そうだけど……」


 ゲーム内時間の体感時間が二十四時間と思わせぶりなミスリードは酷すぎやしませんかね。実際僕も初めてプレイしてこの事実に気づき騙された感じがした。

 ゲーム内時間の一日は体感時間で言うところの十五時間程度に調節されているらしい。らしいというのも、実際に正しく計測する方法が今のところないからだ。ないわけではない。クエストの期限があと何時間ほどという方法でしか一日の長さを把握できないため、必然的にアバウトになってしまうというだけだ。もちろん一日を過ごす分には十分長いわけだが。

 夜の間にしか発生しないイベントなんかを考えるとこの長さは妥当だと思える。


「そういえばライターは?」

「え? 風呂」

「……えっ?」

「風呂だって」


 本当に風呂に入ってるとは思わなかった。というか、その状態でよく僕を呼び込もうと思ったな。いっきに空気が重くなる。しかもこのタイミングで一番まずいことになった。


「ふぅ……。モアー、次入っていいよー……」


 そう言ってライターがシャワー室から戻ってきた。目が合いお互いに固まる。

 このゲームは一応Z指定『は』受けていない。だから装備を全部外してもインナー以上に装備が外れることはない。

 とはいえど、女の子のインナー姿だ。ぴっちりと張り付いている。濡れた髪、上気した頬、出たへそを伝う水滴。見知った女の子のそんな状態を見て何も思わないはずがない。

 そしてどうでもいいことかもしれないが、男の少ない看護学校の男子生徒は女子との免疫をある程度備えてはいる。あくまで鍛えられるのは女性と友達になるスキルが上がるだけであって、そういうお互い性を意識する領域には踏み込まないことが多い。下ネタでわいわい盛り上がることがあっても、お互いの性事情は同性にしか明かさない。よって僕らの間では必然的にそういうことは触れる機会はない。

 顔が赤くなるなんてものではない。沸騰したやかんだ。もちろん興味がないわけではない。むしろ大歓迎だ。だが、童貞たる僕には刺激が強すぎた。


「ご、ごめん! すぐに部屋を出ますね」


 そう言って僕はそそくさと部屋を出て行った。とりあえず忘れよう。今日は何もなかった。明日は何もなかったことで通そう。というかモアに仕返ししよう。明日、絶対に。

 そう考えながら自分の部屋に戻っていった。


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