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第二話 街へやってきた

 さて、MMOとはまぁ簡単に言うと一つのゲームをみんなで共有するゲームである。細かいことを言ってしまうとこの定義は当てはまらないのだが、ゲームの初心者にはこれ以上にわかりやすいたとえというものはまず存在しないだろう。逆に一般ゲームと違うのはその一点にあると言える。みんなとコミュニケーションをとり共通の目的の元プレイできる。だが、これだとMMOとしては足りない。インターネット回線でいわゆるネット対戦、協力できるゲームはMMOと言わない。細かい定義的にはOKなのかもしれないが、個人的な定義としては、オープンワールド、コミュニケーションが容易、ネットにつながっていることだ。

 では、そんな定義をなぜ今ここで読み上げているのかということなのだが。昔こういうゲームがあった。

 いわゆる絆システム。

 MMO関係なくなってしまうのだが、MMOの概念。コミュニケーションが容易。この点がよく関わってくる。

 そのゲームは携帯ゲーム機なのだが、まず友達がいないとゲームバランスが無駄にシビアだ。一歩間違えればボスにハメ殺しに遭うし、そうでなくとも雑魚敵連戦で死ぬことすら珍しくない。そして、そのゲームバランスを解消するのが絆システムというものなのだが酷いもの(個人差があります)だった。


 まずボッチだとまともにプレイできない。リアルの友達同士で自分の情報を更新しあいその友達のデータを自分に上乗せするというものだ。つまり、友達のデータが強ければ強いほど自分が強くなれる。なので、その要素は非常に魅力的だ。だが、そこはゲーム会社の悪意をそこはかとなく感じてしまう仕様。実はそのゲームシリーズものなのだが、今までのシリーズはそれなりに売れていてアニメ化までしたのだが、次シリーズにつなげる時に若干こけてしまい、それほど売れなかった。


 もちろん一般ゲームで見ればそれなりに売れたほうなのだが、そのシリーズを冠する代表のイメージが強すぎたためいささか忌避される傾向にあったのだ。第一シリーズはそのゲームバランスはシビアだが、難ゲーとして遊べばそれなりに楽しめた。だが問題の第二作目。ある意味戦犯だ。戦犯の戦犯たる由来は裏シナリオである。明らかにゲームバランスの調整を間違えたとしか思えない内容だった。ロックの扉は大量、ボスキャラ強い、まるで苦行だ。それだけならまだよかった。だが問題はその次。その二作目に追加された絆の強さを数値としてあらわす値が追加された。もちろん、そこらへんはゲームだ。数字の計算は多少アバウトだが許してやれた。問題はロックが大量の扉だ。裏シナリオにおいてロックが大量にかかった扉の一つにその絆の値が一定量超えてないとロック解除ができない扉がある。だが、その総量は一人プレイでは絶対に達成することができない。裏ボスにたどり着くことすらままならない。しかも裏ボスを倒さないとアイテムライブラリが埋まらないのでいつまでたっても完クリが難しくなる。ひどい話だ。

 僕はその悲しみを今でも覚えている。なら友達を作れと言いたいところだが、そもそもVRが流行した時点でそれは過去の遺産だし、通信回線もゲーム機本体に残っているものだけだ。そして今のご時世に携帯ゲーム機を手に取ろうという酔狂なお方はそれほどおらず、街中ではまず出会わない。つまり一生クリアできない。ゲーム機が二台あれば別だがそのためにソフトとハードを二つずつ用意するのはなかなか骨ということも付け加えておきたい。カ〇コン……。


「何難しい顔してるの、ミノルン?」

「いや……こっちの話」

「ほら、邪魔になるから」


 そう言って明美……ライターは僕の腕を引く。さりげなく胸が当たっているのだが彼女たちは気にしていない様子。もっといえば僕も気にしてはいない。ただ、男として見られていないというのは少しばかり自尊心が傷つくが。

 現在街中を歩いている。一応VRゲーム全体としての仕様で、ゲーム時間とリアルの時間がずれている。ゲームで過ごす一時間とリアルで過ごす一時間というのはだいぶん開きがある。ゲームの世界の一日は向こうでのちょうど一分に該当する。ゲームによって比率はまちまちらしい。


「この世界でも、食べなきゃ餓死するし食べ過ぎると太るし、運動しないと痩せない。裏を取ればレベルを上げなくてもそれに準ずる行動をとればわずかな経験値とステータスアップが見込める」

「まぁ、後半はともかく前半は必要な情報だね」


 つまり、ガチ勢は食べ物による満足度を計算して行うということだ。カロリーメイト的な料理があるのかもしれない。


「しかも五感で空腹を訴えてくるから抗いがたいのよこれが」

「おお、なんということだ」


 僕とライターの少し前を歩いて建物を見て地理を確認している真菜ことモア。おなかに直接響くあの空腹感をVRで再現されるというのはなかなかにつらい。せっかく無理をしてVRで痩せたアバターがいたとして、食べ過ぎて結局元の体型になるという事案が発生していそうだ。ちなみに、ここで飢えをしのいだからと言って現実に戻ればまたおなかは減る。これはVR研修で習ったことだ。食べないと死ぬ死なないはゲームの設定によるものが多いだろうが。


「ちなみに生産系のスキルも充実してるから」

「クラフト系が好きなミノルンにはちょうどいいかもねー」

「まぁ、考えておくかなぁ。あとさ、不知火って名前あるんだからそっちで呼んでよ」

「じゃあヌイヌイ」

「よろしくー、ヌイヌイ」

「私に何か落ち度でもありましたか、そうですか」


 まともに名前を呼んでもらえる日は来るのだろうか。なんか途端に憂鬱になる。たまに本名を忘れそうになって困ったことがあった。ミノルンミノルンと呼ばれて、一回テストで書きかけて消した思い出がある。


「気に入らないなら名前を変えたら?」


 VRはゲーム登録のアカウント名とアバター名で分かれている。アバター名の初期はアカウント名=アバター名だ。ただし、二つ目のアバターを作るとき一つ目のアバターと二つ目のアバターも名前を変えることができる。フレンドにも登録アカウント名が表示されるため、一応、アバター名が変わってわからなくなるという事態はそこまで起こってはいない。


「この辺は市場区画。生産系スキルの料理系や小物の材料、アクセサリ、調合の材料、エトセトラ、売っている場所よ。奥に行けば、インゴットや家具や家用の木材なんかが売られてる」


 この辺の人の盛り上がりはすごい。NPCもプレイヤーも混じって野菜を見たり怪しげな薬草を見たり、中にはプレイヤーも出店して占いなんかもしている。自作屋台で料理を出しているプレイヤーも見受けられる。こういうのにめちゃくちゃ惹かれる。


「ほら、武器区画に行くわよ。そっちで好きな武器選びましょうね!」


 そう言って、市場から目が離れない僕の腕をモアは抱え込んだ。胸当ての軽装がごつごつしてて痛いんだよなぁ。

 だが、どういう武器があるのだろうか。かなり楽しみだ。さりげなく反対の腕を取って胸に抱え込んでるライター。肩間接圧さないで。肘が外れる、外れる。結局、HPバーが地味に減少しているのに気づくまでライターの拷問が続いた。モアもライターも両方可愛いアバターだ。両手に花だと思うと多少は気がまぎれるがライオンとトラに両腕をかみつかれた状態で歩いている気分だった。正直、街中で意図しないPKが起こらなくてよかった。

~~~~~


「ほら、ついたわよ。好きな装備にしなさい」


 好きな装備にしなさいとは言ったけど、おごるとは言っていない言葉のマジック。すごいね。


「でもなぁ……」


 この店はNPCが売っている。正直規格品ばかりで面白みがない。……いや、そういう問題でもないか。とりあえず、どんな武器があるのかこの区画を見てからでも遅くはないだろう。


「悪いけど僕ここら辺を見ていきたいと思うからついてきてもらえる?」

「いいわよ」「いいよ」

「よし、じゃあ行こうか」


 武器区画。より正確に言えば職人売買区画というべきか。

 ここで扱っている商品は、具体的にはインゴットや木材、その他いろんな生産系に必要な材料や武器、防具、中には技術を教えるためにその身一つで市場に乗り込んでくるプレイヤーもいる。


「へぇ~、こっちも負けず劣らずすごいねぇ」

「でしょでしょ? ここにいるプレイヤーが大体千人ちょいくらい。プレイヤー総人口の三十分の一くらいね。他の都会の街に行けば多いところはこの三倍はあるわよ。その代りNPCはここよりもだいぶん多いけどね」

「でも最初の街にしては多い規模じゃない? 最初の街って旨みがないと思うんだけど」

「ギルドって知ってる?」

「えっ、うん知ってるけど」

「ギルド勧誘のためだよ。この世界ではギルドを作って、ギルメンたちと攻略できるんだー」

「ああ、MMOでおなじみの」


 こういうファンタジー系のMMOでありがちのギルドの概念VRMMOにもあったのか。いや、むしろないほうがおかしいのか。だってこれもファンタジーのゲームだし。おそらく、そのギルドのメンバーを増やすことで何らかの特典があるのだろう。そして、将来有望な初心者を取り込むことで今後のイベントやグランドクエストの攻略に役立てるといったところか。


「中には完全にお遊びのギルドも存在してて、ギルマスがほとんどログインしなくなって結果的に定期集会オンリーになったギルドも存在するとかしないとか」


 ライターのその説明に怖気が走る。

 いろんな意味で怖い。いや、なんだろう。ギルマスに直接勧誘されてはいった人たちはギルマスいない状態で他のギルメンと仲良くできるのか。とか、内部分裂して離散しないかとか、不安満載だけど。もし自分がギルマスだったら、ライターかモアに絶対副ギルマスやらせる。


「さっさと決めて冒険に向かお」


わかったわかった。急かさないで。と、心の中で思いつつ、あたりを見回す。確かに、いろんな武器が扱われているが、どれがどういう武器なのかわからない。ヒーラーでもいいかもしれないが、せっかくだし僕も体を動かして戦いたい。支援もできて、尚且つ戦えるようなものか……。


「ん?」


 ふと、とあるプレイヤーの武器に目を奪われた。

 見た目は普通なのだが、なんというか異質なものを感じた。この違和感はシステムによるものなのか、NPCもプレイヤーもその店にはよりついていない。だが、好奇心には勝てずついつい近づいてしまった。これが僕のプレイスタイルを決めるものになるとも知らずに。


誤字脱字、感想、ご指摘などありましたらメッセージや感想にお願いします。

この小説で主人公が紹介してるゲームは作者がプレイして思った感想。もしくはレビュー等を参考にしています。ゲームタイトルは直接ですが表記いたしません。ただ、それっぽいタイトルにはします。

この小説の略称を考えたのですが「女性ギルマス男」と矛盾をはらんだ略称でいいでしょう。重要な要素は積んであるので何も問題ありません。

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