第一話 キャラメイク
好き勝手に書いていくのでたまにとんでもない量の地の分を使って、ゲームの話をしたりしますが飛ばしても飛ばさなくてもいいです。できれば読んでいただいて元ネタがわかっていただければ嬉しいのですが。
キャラメイクをどうしようか迷った。
いや、医療現場でも使用されている機器なだけあって本来は治療目的で作られた機械だ。なので、キャラの見た目を激しく変えることはできない。しようとすれば精神病にかかる恐れもあるし、そうでなくとも神経系に異常が出やすいと報告が出ている。なので、メットのスキャニング機能を使い元の顔から髪色を変えたりパーツを少しいじる程度が無難だと言われている。間違っても設定性別をいじったり、身長体格を変えすぎてもいけない。それは最初期に学校で習った。
「ふーん、面倒だなぁ」
VRという特性上顔の特徴は殺しても殺しきれるものではない。なので、印象を変える方向にシフトした。長い前髪を少し切って上げて、まつげを短く。後ろ髪はまぁ後でもいじれるからそのままでいいだろう。身長体格は、元の身長と体格を少し重くして筋肉を少し足す。こんなものでいいだろう。
「さっきから、うるさいなぁ」
視界の端で先ほどの二人からのメッセージがちらついて普通にうざい。まだかまだかと催促するのはいいが、焦ると余計に挙動不審になるので勘弁願いたい。
「じゃぁ、ええと二人のやってるゲームは……っと」
メッセージで二人にどのゲームをしているのか聞いてみる。すると、かの一大事件を起こしたゲーム企業のファンタジーVRゲーム『フェイトゲート』というゲームだ。あの大事件を起こした企業ってだけでもう嫌だ。いや、もう何年も前の話といえばそれまでだが、怖いもの見たさとわずかな期待を抱いて登録するユーザーが多いとは聞いた。よくつぶれなかったな。課金要素ほとんどないのに売上がうなぎ上りだったFPSO。先の事件でその手のユーザーも参加しているとのことで荒れてないか心配だ。
「見つけた。これかぁ……」
思ったより紹介文がまともで困った。レビューもまとも。逆に不気味さを感じる。とりあえず、これに登録してキャラ名を設定する。
「名前は不知火と」
特に何も考えずにニュアンスで付けた名前で僕はこの世界に対に降り立つ。
風を感じて、目を開く。そこには目の前一帯の草原。日光の温かさも土のにおいも本物のように現実感がある。すごいなぁこれは。従来のPCならここでチュートリアルが入るところなのだが、自分の体を動かすゲームという特性上、操作は基本体を動かすのと同じだ。ゲームの世界観と簡単なシステム説明をしたらあとは自由にプレイしてくださいというスタンスだ。
「ええと、二人はどこにいるのかなっと」
あたりを見渡すがやはりちょこちょこ人は見当たるものの今のところは待ち合わせの二人は見当たらない。
同じ学校のクラスメイト、真菜と明美を探す。だが、見当たらない。メッセージ飛ばしてみる。「今来たよ」と。ここ最近誘われても断ることが多かったからなぁ。一応一時間は突き合うとは言われたがそれなりに長いこと相手することになるかもしれない。うちの学校は男女共学ではあるものの専門学校だ。看護学校であるために男子生徒はほとんどいない。ゆえに必然的に女子と接する機会が多くなる。どうでもいい話だが、看護学校になじむ男子は大抵女子にちやほやされてモテまくるか男子生徒が女子になじむためにある程度性格が女子化するという事態が割と起こる。ちなみに僕はどちらでもなく穏やかな性格だったがためにマスコットキャラとして定着してしまった。女の子と青春したいのだが残念ながら周りは僕のことをぬいぐるみか何かだと思っているらしくちやほやはされるもののモテるというイベントは存在しなかった。彼女たちはVRや趣味を通じてたまたま仲良くなった女子だ。親友といっても過言ではない。学校でも暇さえあればこの三人でつるむこともある。
「すいません。不知火さん」
「あっ、はい。なんでしょうか?」
突然後ろから話しかけられた。振り向くとそこには女性アバターのプレイヤーがいた。ネカマなどするような輩はいないしできないので、間違いなく中の人は女性だろう。
「人を探しているんですが、知りませんか?」
「僕もここに来たばかりなんでちょっと……」
もしかしたらと思い、顔の作りを見てみる。身長も体格も明美のものにそっくりだ。念のために少し掘り下げてみようか。
「僕も人を探してるんです。リアルの友達なんですけどついさっきメッセージ送って待ってるんです」
そう言って相手のアバターの名前を確認する。そこには『ライター』の文字。
「あっ、私もなんです。今さっきメッセージが来てアバターを作ったって。ええと、確認しますけど白石君……ですか?」
「あっ、やっぱり明美なんだ」
「へぇー、やっぱりミノルンだったんだー。びっくりしちゃった。だいぶん雰囲気変わったねぇ」
「そっちこそ。体格と身長は同じだったけどそれ以外全然わからなかったよ」
やはり、彼女も少し顔をいじっていたようだ。髪も橙色に近い茶色でちょうど肩にかかるくらい。リアルだとこれをさらに茶髪にして髪を後ろで結っているのだが、おろしたせいか結構印象が変わっている。
「真菜は?」
「ああ、真菜は今街のほうでミノルンのアイテム準備してるよ」
「別にそんなの必要ないのに……」
「でも、こっちが誘ったんだからせめてちょっとしたサービス位したほうがいいって言ってたから」
「律儀だなぁ」
別にリアルで知り合いだしゲームでそういった気づかいしなくていいと思うのだが。まぁ、真菜がそのつもりならそれでいいだろう。
「じゃあ、行こうか。簡単なゲーム説明頼みます」
世界観やシステムについては簡単な説明を受けるが武器やそれ以外の要素についてはほとんど説明がなされない。だから、先人に聞くというのは非常に大切なことだ。職場の空気になじめないやつは消される。
「ええと、どういったところから話そうかな。世界観はよくある中世ヨーロッパ。剣と魔法の世界っていうのはよくあるVRMMOの設定。で、ジョブっていう概念はあるけど、基本的には名前だけ。ステータスや武器の熟練度が溜まってたらスキルが使えるようになる。逆にスキルでステータスに補正がかかることがあるの。そういうのも、踏まえてみんなステ振りするの」
「ふーん。いわゆるストーリーはないんだ?」
「VRMMOの売りは他プレイヤーとの会話や協力。だから数多のイベントがあってもグランドクエストみたいなものは少ないの」
「えっ、じゃあフィールドの意味なくない?」
「グランドクエストもないわけじゃないから、進めていけばいくほどフィールドの敵が強くなるのはお察し。でもそういうのはVRMMOの売りを損ないかねないから、運営は推奨してない。それを除いてもグランドクエストに負けないくらいのイベントの数々は本当に豊富でフラグ管理がどうなってるのかは運営の人しか知らないの」
「それはなかなかにリアルな作りこみだね」
「運営の人間が何人かのNPCに扮して一生懸命にフラグ管理してるって噂もあるんだって」
「へぇ」
そんな会話をしながらしばらく歩くと、村のようなものが見えてきた。
「あそこに真菜がいるから急ご!」
「あっ、ちょっと待って!」
俊敏性の差であっという間に突き放される。おいおい、こっちまだレベル一なんだからその辺は勘弁してくれよ……。
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「もう、遅いよ。五分も待っちゃった」
「いや、それはおかしい」
というかレベル差による俊敏性の差を考慮せずに全力疾走で距離を離されたら見失うに決まっている。むしろ来てすぐに見つけられたことが行幸だ。
「真菜ももうすぐ来るって」
「あっ、うん。待ってる」
最初の町というくらいだし、人は少ないのかと思ったら案外多くてビビった。顔の造りから肌の質感までポリゴンとは思えない。
「本当にすごいよね。噂じゃ肌のきめまでテクスチャとはいえ作りこんでるらしいよ」
「うっそ、本当にそんなことしてサーバー大丈夫なのか?」
そんな細かい情報が何百万と動いていたらサーバーが処理落ちしないだろうか。
「さぁ、ゲームは門外漢じゃん私たち。私たちは人をお世話する勉強をして医療の現場で役に立つことが一番」
「あ、うん。そうだね」
これからどうしようか考えていたので、明美の話を半分近く聞いていなかった。
先ほどの明美の話を聞いてウィキを調べていた。ジョブという概念はあるみたいだが、システムとしては大して機能していないらしい。代表作の『FPSO』で剣メインにジョブを作りすぎて遠距離のジョブが少なくなりがちだったらしい。今作では自由に職を名乗り、使う武器の熟練度やステータスのフラグ管理によってスキルを得るらしい。細かい作業をするとDEXが上がる。そのDEXが上がると遠距離武器の威力、命中率が上がるというものだ。
スキルも体育で得た技術をスキルとするならば、倒立というスキルがある。それは器械体操という武器を通して得るスキルでありそのジョブは器械体操選手という感じだ。
なかなかうまいたとえではないだろうか。
「変な顔してないで、ほら。真菜が来たよ」
「うん」
向こうから、小走りで少女のアバターが駆け寄ってくる。その名前はモアだ。手を振っているのはおそらく隣のライターこと明美だろう。ということは彼女が真菜ということだろう。見た感じは軽装で魔法職っぽい感じがする。
「おっすー! 何々そっちがミノルン? キャラ名は不知火ねぇ。相変わらず漢字好きなんだ」
「そりゃ、男文字だからね。仕方ない」
「あーはいはい。というわけで、インベントリ開いて。はい、プレゼント」
「え。あ、ありがとう」
いきなり送られてきたプレゼントの中身は初心者用の回復薬セット。HP、MP、スタミナといった様々なポーション類が入っている。バフポーションも入っているのは何気に凄いと思う。
「じゃぁ、いきなり冒険へ行こー!」
「せめて装備を買わせて」
武器はこの腰のショートソードでいいかもしれないがさすがにインナー装備は上級者すぎる。そんなのはプロの狩人くらいだろう。
「じゃあ、買ってこようか。どんなのがいい?」
「とりあえずNPCの店に行ってみようよ。実物見てから買いたい」
VRの特徴だ。実際に自分が使うのだからできるだけなじむものを使いたい。そのためにVRゲームのRPG系はNPCの店で実際に武器を手に取ってみることができる。こういう要素もVRの一つの楽しみ方だ。
「楽しんでるね」
「楽しまなきゃ損だよ」
「誘ったらいつもなんだかんだで断らないよね」
「さすがにやばい時は本当に断ってるだろ?」
この三人でいるときが一番落ち着く。だから、この関係を僕は大事にしたいと思う。僕が彼女たちのうちどちらかと恋人になるということは絶対にないだろうけれど、誰かに恋人ができてもそれを笑って祝福できる間柄でありたい。
「じゃあ、行こうか」
そう言ったライターの言葉を皮切りに僕は彼女たちに町の案内をしてもらうことになった。