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第十話 モアの知り合い


 ドアをくぐると視界と嗅覚に訴えかけるレトロな雰囲気のお店。においが好みを振り分けそうな感じがいい。知る人ぞ知る店みたいな。

 意外とシンプルな店内の構造。喫茶店のようだ。

 そしてあたりを見合しているとモアが声を出した。


「こんにちは、リョウカさーん。モアです」


 店の入り口で店の奥にいるのだろう店主に声をかけるモア。今のところお客さんはいないらしい。すると、カウンターの中にある奥へと続く扉から黒髪のポニーテールの女性が出てきた。見た目は三十行かないくらいだろうか。かなり美人だ。


「ああ、話は聞いている。ギルドを作るんだって?」


 声も凛々しくていらっしゃる。同級生ならお友達から始めたいくらいだ。あわよくば付き合いたい……。いや、流石に調子乗りすぎだ。


「はい、そうなんですが場所がなくて、ここを使わせてもらえませんか? 家賃なら払います!」

「別にそれならそれで構わないんだが……」


 そう言ってリョウカさんと呼ばれた女性は僕らを見てこう言った。


「ふーん。変なこともあるもんだな」


 変なことってなんだ? そしてなぜ僕のほうを見て言った?


「私の知り合いにも似たようなやつらがいてね。そいつらもぜひギルドに加えてもらえないか? 君らのギルドの活動に丁度いいかと思う。ちょっとフレンドで呼び出すから待ってくれ……」


 片手間にメッセージを送り、「しばらくしたら来るだろうからゆっくりしてくれ」とのこと。その後簡単に自己紹介もした。

リョウカさんは凄い。見た目もいいし、僕こんな人に彼女になってほしい。ほんとね。看護の女子結構あれなんだよ。モアとライターみたいなのを筆頭に男子を小間使いかマスコットか、あるいは体のいいピエロみたいに扱う女子がいなくもない。男女が仲良くしていくのは一年以上ないと厳しい。僕はマスコット扱いなのでそこまで酷いわけではない。

 ちらりとナナを見る。……心の奥底がチクと痛んだ。


「うちの兄って彼氏としてどう思いますか?」

「げほっ!」


 僕はVRでもそうそう起こらないはずのむせる現象に遭遇した。びっくりさせないでくれよ。


「うーん。うちの学校の女子って基本男子をそんな意識しないよね」

「そうだねー、やっぱりそういう下心をもった男子も多いわけじゃないし、基本的にはクラスメイト以上の感情はないかなぁ」


 無難な回答にほっとした。悪感情を少なくとも持たれていないようで安心した。妹の前で好き勝手ディスられても困るけど……。


「私はお前の学校でのことなんて気にしてないけど、改めて思うと変わってるよなぁ」


 ヤヨイが僕に向かってそう言ってきた。


「男が看護師を目指すなんていないわけじゃないけど結構珍しいだろ。お前はハーレムウハウハとか目指して入学するタイプでもないだろうに」

「うっせぇな。こっちにだっていろいろあるんだよ」


 かつて失ったものを取り戻すためとかさ。


「はぁ、でもお前がそうまでする理由わかる気がするよ。だからあえて私はなんも言わないけど、いつか親離れしろよ」

「……わかってる」


 この会話は当事者の一人であるナナと事情の知らないライターとモアはちんぷんかんぷんだろう。この話題は早々に切っておく。


「リョウカさんって美人だなぁ……」


 今この時にこの話題を振ったのには理由がある。少なくともあの話題を早々に見切りをつけるためにわざとこの話題を放り込んだ。結構強引な流れだがおそらく、乗ってくる。特にヤヨイは。


「ほう、既に女の子ウハウハパーティなのに、お前はわざわざ外に目を向けるのか」

「隣の芝生は青い。ここにいる全員はリアルの知り合いだからね。そういう目で見るほうがどうかしてる」


 強引な話題転換もうまくいったようで再び僕に集中砲火が始まる。


「実際のところヌイヌイって彼女いたことあるの? 他の男子はだいたいいたことあるみたいだけど」

「・・・・・・」


 その質問は質問で結構心をえぐってくるなぁ。なに、男子は思春期に一度は彼女を作らないといけないのか。既に若干童貞を拗らせてる僕にそんな質問をしますか。


「いないし作る予定もないって言わなかったっけ? うちの女子そう言うの結構好きだよね」


 こういうのは女子特有なのだろうか。いやしかし、男友達の恋愛事情というものは、嫉妬や羨望混じりもあるが多少気になることもある。ただうちの女子たちにはそう言う性別の隔てがないのだろう。ただ、状況によっては傷つく人がいることを忘れてはいけない。


「そろそろ着くそうだ。今から来る奴は・・・・・・少し不知火にプレイヤーに似ている。どことなく、やっかいごとを呼び寄せるような奴でな。見ていて飽きない」


 リョウカというプレイヤーはそういって僕の方を見た。そんなにやっかいごとを引き寄せそうな顔をしているだろうか。

 自分の顔に手を当ててそう言う相が出ているのではないかと不安を感じていると、店のドアが開いた。ベルが来店を告げる。


「いらっしゃい待ってたよ。そこに私の知り合いがいてね、話だけでも聞いてほしい」


 そう言って通したのは身長は僕よりも高い。170少しあるかどうかという青年と数人の女性だった。なんだよこいつリア充か死ね。


「で、ハーレム君に何の話をさせるって話ですかリョウカさん。僕らこう見えても忙しいんですが」

「いや、私から見ればお前らはどっちもどっちなんだが」

「「えっ」」


 僕と彼。二人そろって声が出た。いや、流石にその扱いは酷いだろう。いや、でも僕も彼も複数女性のいる唯一の男性パーティメンバーであることは否定できない。しかも話の内容を聞くに固定パーティの可能性が高い。


「ひ、非常に不愉快だけど仕方がない。話だけですからね」

「さすがに態度が不遜すぎるだろ」


 とっさに嫌味が出てしまった。いやね。なんだかんだで楽しそうなこいつを見ていると腹が立つわけですよ。僕は悪くない。


「で、話って何よ? 僕らこれから攻略に行こうと思ってるんだけど」

「――トウマさんさすがにちゃんとしましょうよ。ね?」

「リーダー。いくら何でもまた巻き込まれたからと言って八つ当たりをするなんて大人げないですよ。ちゃんとしてください」


 そう言って、軽装の鎧の少女と見るからに魔法職らしい少女が男のほうを宥めにかかった。ダメ男じゃないか。


「……さすがに悪かった。二度目となると運命を呪いたくなるもんさ」

「二度目って言うと、例のアレに巻き込まれたことがあるの?」


 モアが食いついた。なるほど、とりあえずまず会話をしなければ話は進まない。まずはある程度打ち解けよう。心のスイッチをある程度切り替える。


「ん? ああそうだね。じゃあついでに自己紹介と行こう。僕の名前はトウマ。東條真からトウマだ」

「リアルネーム明かす奴初めて見た……」


 お前がゆうなヤヨイ。お前リアルネームでプレイしてるだろ。いや、珍しいけどいないわけじゃなさそうな名前という点では否定しないし、そもそもリアルネームとの境界線上にありそうな名前だから意外とわからない。絶妙だなぁ。


「いいよ。前の事件の時に一度新聞に載ったし。知ってる人は知ってる。一応双肩の英雄の片割れって呼ばれてる」

「片割れはどこ行った?」

「今は何してるんだろう。一応このゲームをやってることは確かだし、フレンド登録もしてるけれど、特に連絡って取ってないなぁ」


 はぁ~、つっかえ。

 そんなことを頭の中で考えながら、彼らの後ろのパーティメンバーに目を向けた。結構キレイどころそろえてるじゃないか。これで僕のことを言えたものだ。


「あっ、ついでにメンバーも紹介しておこう。ええとね。魔法使いの子が彼方、身軽なのがクイナ、ちびっこいのがタマ、そこの双子の赤いのが(ほむら)白いのが(そそぎ)だ」

「私たちも。私はモア、そっちの指揮棒もちは魔法職のライター、そこの派手なのはナナちゃん、小さいのがヤヨイちゃん、最後におとなしそうな男子が不知火」


 一通り自己紹介が終わった。さすがにこの人数が一つのテーブルに座るのには無理があるので、何人かに分かれてテーブルに着くことにした。

 本題を話すのはモア。それに付き添う形で僕。相手のリーダーであるトウマとおとなしそうなクイナ。この四人でテーブルを囲み、他はヤヨイとナナと双子ちゃん。タマちゃんと彼方さんとライターという感じだ。

 ここのテーブルだけ雰囲気がまるで違うのは本題というものを抱えているからだろう。


「私たち、ギルドを作ろうと思ってるの」


 直球に彼女はそう告げた。そうするとトウマは眉を上げて大体察したと言わんばかりの表情を見せた。


「つまり、現状の女性プレイヤーはぶをどうにかしたいという解釈でいいの?」

「話が早くて助かるわー。そういうこと。それを成すにはあなたたちと話すのがいいってリョウカさんから聞いたの」

「なるほど」


 トウマはちらりとこちらを一瞥した後、すっと視線をずらしモアに向き直った。クイナはそんなトウマを見て一瞬むくれた後、こっちを見てごめんなさいとアイコンタクトを送ってきた。大丈夫。謝るのは君じゃなくてあの馬鹿のほうだと思う。というか気づいてないのかあいつ。いつか刺されるぞ。他のメンバーはどうなのだろうか。いや、まさかな。

 ぞっとしない話だと思った。まぁ彼が刺されてくれるならそれはそれで面白そうな話ではある。もちろんリアルで刺されてたら同情する。


「うちもこのメンバーだからなぁ。まぁ、相談相手としてはよかったんだろうなぁ……。で、君は?」


 突如こっちに話題を振ってきた。正直お前の今後起きるだろう悲劇について考えていたよ。別にお前のこと嫌いとかじゃないけどなんというか、苦労人の臭いするの。だからそのにおいを僕に移そうとするのはやめてね。そういう気配あるよ。というかこれがもう厄介ごとか。大変っすね。


「正直、迷惑ならこっちとしても無理に頼み込むわけにはいかない。でも現状僕らには金もコネも場所も、ついでに言うなら経験もない。ライト層の人間だからね僕ら」

「まあ経験については僕らもエンジョイ勢だからどうこう言えるわけじゃないけど……まぁこちらには一応時間があったから資金もコネもある。だから頼れって意味だったんだと思うけど、こっちとしてはただでというわけにはいかない」


 それ相応の対価を用意しろということか……。なら正直こいつにギルマスやってもらえばいいんじゃね? だって金まで出してもらうわけだし、一番いいそうしよう。権力というものはいつだって男の憧れだからね。お飾りの僕とは違う。


「じゃあさ、ギルマスのポジションってどう?」


 さらっとお飾りの長というポジションを捨てて彼に譲り渡すことにした。そうすれば僕は晴れて自由の身だ。


「いや、さらっと面倒なこと押し付けようとしないでくれよ。僕は別に権力がほしいわけじゃない」

「じゃあ、対価ってなんだ? うちが現状用意できるものといえば限られている。それは初心者だからだ。モアとライターも多分これから中堅に差し掛かるころだし、ナナと僕とヤヨイはほとんど始めたばかりのようなものだ」

「僕がほしいのは、現状お金とかじゃないんだ。君だよ」


 とっさにいらない意味で警戒を抱いた僕はきっと間違えていない。いや、相手の言葉選びが下手なんだろう。ほら、クイナが一瞬君を見た後にコーヒー飲んでむせて二度見したよ。不用意な発言はやめてくれ。


「男のパーティメンバーほしいでござる……」


 唐突なキャラ変更やめろ。でも、別に気にすることでもないと思うんだけどなぁ。


「いくらなんでもパーティメンバーが全員女って体面悪すぎるだろ」

「それ言ったら僕のところもなんだが!?」

「直結厨だと思われるの嫌だし……」

「僕のところもそうなんだけど? ねぇ、こっち見て言おうよ。僕別にいいよ? 慣れてるから」


 彼女たちと過ごしていて街中で何度か絡まれたことはある。そのたびに弟ですと言って、ナンパ野郎どもに僕の許可を求めてくるのね。いやだめだよ。何で行けると思った。つまり彼は周りからの視線に耐えかねているということだ。


「もう三年経つんだよ……いい加減男のパーティメンバーほしい。準レギュラーでいいから!」

「お前いい加減にしてくれない!? 僕別に困ってないんだよ!しかもお前のところのメンバー絶対身内ネタしか振ってこないだろ! 三年間固定でやってたら新しく来るメンバーなんてそうそうないよ!」

「だからギルド設立するのに金とか融通するって言ってるじゃん! 幸いアイテムなんて腐るほど持ってるんだよ! お前がパーティに入ってくれれば何の問題もないんだよこんちくしょー!」


 話のらちが明かない。仕方ない一回落ち着こう。


「まぁ今のは冗談として、だ」

「冗談じゃないんだけど……」


 未だ食い下がってくる彼の泣き言を黙殺し、僕は話を無理やり進めることにした。というかこいつ役に立たねえな。おい。


「さすがにまだこのゲームの仕様に完全に慣れてないっていうのもあるし、うちも基本的に固定メンバーでやっていく予定だから人材云々って話は無しの方向性で行きたい」

「他の要求を出せということか。正直さっきの以外に切羽詰まった要求ってそうないんだよなぁ」


 どんだけ男に飢えてるんだお前は……とはあえて言わなかった。言ったら泥沼になるし、気持ちは分からないでもなかったからだ。


「お金がいらないとは言ってもギルドの設立にお金はいる。そのお金を出すわけだから、ギルドの純利益からギルドの設立費と利息、あと一定金額の報酬金ということでどうだろう。今後お金が必要になる事態が増えるかもしれない」

「ん~、やっぱりその辺に落ち着いちゃう?」


 現状の女性や子供プレイヤーをこの町に隔離するにあたり一番大事なのはお金である。もしヘタに女性プレイヤーが攻略に乗り出そうとするなら、行く先々でぼったくられる可能性がないわけではない。『この程度の額も払えないなら町へ帰ることだな』と。そうなれば、ギルドで溜めておいたお金にものを言わせて買うという手段もできなくはない。

 僕と彼のパーティの特徴は自分以外のメンバーは女性ということだ。そこで足元を見られるようになったらおしまいだ。そうならないようにするためのギルドであるし、そうなってもいいようにするための寄り合いでもある。今後彼らが単独パーティで行動するならその辺の心配はするべきだろう。


「でもそれだけなら、僕らは自分で稼げばいいだけだよね?」

「いや、そうはならないのを知っているはずだ」


 MMOというゲームは基本的にリアル寄りにしたゲームだ。某RPGみたいに一体倒せばほぼレベルアップできるモンスターなんてそうそういないし、ことVRに限ってみれば、逃げ足の速いモンスターを相手するにはそれなりの準備が必要だ。ようは割に合わない。いらない素材を売る、そんなことをしないと基本的には回せなくなる。いや、そうしても回せなくなるだろう。


「僕とお前のパーティでは足元を見られる、ぼったくられるのが落ちだし、何より直結厨といううわさがより広まるだけだ」

「うわっ、それは嫌だなぁ……」


 声音は本当に嫌そうだが、顔はうれしそうなものになっている。こいつ自分を餌に試しやがったな。


「まぁ、ここは不知火に免じてその提案に乗らせてもらうよ。それにしても、結構なかなか考えるじゃないか」

「旧世代ハードのゲームとか昔のMMOとかについて調べたりプレイしていた時期があったからな。詳しいとはいかなくても基本的な構造は理解しているつもりだ」


 頑張って当時のプレイ動画を漁ったりした。それで簡単にMMOについて勉強したりしていたのだ。


「これからよろしく」

「ああ」


~~~~~


「私たち空気でしたね」

「まぁいいんじゃない?」


 すっかり忘れてました。


この小説は基本的に前作とキャラやストーリーがつながっている部分がありますが前作は読まなくてもいいです。設定などはその都度説明しますし、知っていればより楽しむことができる程度に抑えてあります。

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