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第九話 ギルドってなんだ

 というわけでギルドを作ることになりました。

 意味わかんねぇ……なんでこうなった。

 いや、なんか女性オンリーギルド作ろうみたいなノリだったはず。リーダー僕だけど。私がリーダーです。名前だけだけど。


「で、ギルドって何するの?」

「何って……ナニでしょ?」

「君ら一応女子だよね?現役女学生だよね?」

「ネットの波にさらされたら男も女も関係ないよ」

「せやな」

「せやかて工藤……いや、なんでもない」


 いや、僕が女子に幻想を求めたのが悪かったんだ。モアとライターに至ってはなおさらだ。お互いにリアルを知る身としては看護の世界で嫌というほどそういうものに触れる。内臓を見て食欲なくすどころかレバー食べたいなんて人種もいなくもない。いや、人間の内臓を食いたがってるわけではなく。


「単なる言葉遊びを声に出してするとここまで恐ろしいことになるんだなぁ」


 心の中で少し、女子がそういう話をしているのを考えてぐっときているのはここだけの秘密だ。耳かきボイスは俺のジャスティス。この心のオアシスは悟られてはならない。


「じゃ、掲示板に張り出してくる! 先に宿屋に戻ってて!」

「あっはい」


 そういうと、モアとライターは走っていった。元気がいいなぁ。


「というわけで。ナナ宿屋まで案内お願いしても大丈夫?」

「はいよ。ヤヨイ……姉もどう?」

「ゲームの中だしヤヨイでいいよ」

「じゃあ、ヤヨイもどう?」

「ん。せっかくあんたもいることだし、私もついていく。あの二人とも仲良くしておきたいし」


 えっ。個人的には仲良くしてほしくないんだけど。学校とプライベートは基本的に分けて考えている。いらぬところで学校の関係者と日常の関係者が情報を交わし合うという状況が嫌だ。彼女たちには日常を知られたくないし、こいつらには学校での出来事を必要以上に知られたくない。


「いや、彼女たちは……その……ねえ? あまりこっちと連絡を取りたくないんじゃないかなぁ?」


 とりあえず、脳内会議の結果。ゲームの中だけの関係にとどめておかせることにした。ゲームの中でリアルの情報に触れるのはご法度だ。少なくとも全体チャットでやるなんて言うのはなおさらだ。

 だが、問題は人の口にとは立てられぬということだ。具体的にはナナは恐ろしい。あいつまだネットリテラシー浅いからなぁ。最近はネットでも割とそういう部分は触れたとしても悪用しない程度の良識はできてきたが、警戒させておく分には何の問題もない。

 良識ができたといっても、未だ未成年を巻き込んだ犯罪というのは一定数ある。

 ネカマができないといっても穴がないわけではない。VR機能を誤作動させることで設定性別、もしくは外見を女性にすることも不可能ではないからだ。方法こそ知らないが割とポピュラーな手段らしい。


「あ、あいつらはまぁおおっぴらには言えない行為ではあるけどネカマなんだよ。だからな? 変な誤解を与えかねないからやめておけって……」


 あとで不利益を被るとしてもその先にあるプライベートの安寧だけは守ろうと必死になった。


「「あっ? 誰がネカマだって?」」

「あっ、二人ともお帰り。どうだった?」


 二人の話をし始めたところで、件の人物がやってきてしまった。


「うん。とりあえず、掲示板に書いてきた」

「で、とりあえずこれでひと段落ね。で、誰がネカマだって?」

「えっ? 何のこと? 知らないな。僕だってMMOをやらないわけじゃないんだよ? でもね、その中にはネカマだっているわけで。別に誰とは言わないけれどネカマの二人組がいたってだけだよ」


 そして全員が口をそろえていった。「無理があるだろ」と。うん、まぁそうだよね。明らかに君ら二人の内容だったもんね。


「さすがにゲームでリアルの知りあい同士がつながりを持ってるのは嫌なんだよ。もうこの際あきらめるけど」


 殺すなら殺せー!

 覚悟を決めると右肩にヤヨイが、左肩にモアが手を置いた。

 後ろを振り返るとそこには笑顔の二人が僕に語り掛けてくる。


「リアルはリアル。ゲームはゲーム」

「私たちがそんなことをすると思う?」


 僕はこの子たちのことを勘違いしていたのかもしれない。彼女たちは僕が嫌がることを本気でするような子たちではない。きっとそうなのだ。


「まぁ――」

「連絡先は交換するんだけどね」


 前言撤回。こいつらは愉快犯だった。


「で、このゲームでのギルドの仕様を教えてくれ」


 これ以上話が脱線していたら本当に話が進まないうえに本筋を見失いかねない。現在女性限定ギルドを作ろうとしている。その会長取締役が僕。あとはこのゲームの世界でのギルドの位置づけだ。クランと言い換えてもいいだろう。他のMMORPGでは大体はその手の部分は『単なる集まり』程度として認識している。あとはプレイスタイルか。その辺を重視する人たちが集まってできている印象だ。

 僕らのギルドなら、女性を積極的に受け入れるということだ。メインは保護を優先だ。


「実際今後起こる女性プレイヤーとの格差を実質的にほとんどなくすための一ギルドって感じの位置づけね。プレイスタイルは基本ほのぼの重視の人たちが集まると思う。それでも結構人がいると思うけど」

「でも、男性プレイヤーは入れないの?」

「不知火みたいな女性プレイヤーに囲まれてプレイしている輩もいないではないだろ。場合によるでいいんじゃない? 一応、男性がギルドに入ることは禁止してないだろ?」

「まあね~。その辺をそんな風にしちゃったらヌイヌイにヘイトが向かう上に男性プレイヤーとしていることが変わらないでしょ」

「それもそうですね」


 本当に僕は空気だなぁ……。一応名前だけだし彼女たちが運営すると言っているのだから、それで問題はないだろう。さて、僕もレベル上げでもしに行こうかなぁ。

 そういえば、VRって結構面白そうなのあったよなぁ。折角だし、生産でもかじってみてもいいかもしれない。


 ちょくちょくその手のサイトを確認して、どんなキャラを育成しようか考えるのだが、この世界のDEXの扱いは武器の補正の恩恵。クリティカルなんかに作用する。ただ、一部の職業には絶対DEXの数値が必要なのだ。DEXが高いことで魔法攻撃の固定値が上がったりする。例えば、倍率1.5の魔法があったとする。ダメージ固定値が300ダメージだとするならDEXが上がることでダメージ固定値が10上がったりする。この世界のダメージ計算式は分からないし、完全にポリゴンのHPバーで表示されるので、表立ってはその仕様は分かりにくい。だが、ある程度のレベルの生産職と魔法職の攻撃力の差が大きく出てしまった。その二人のステータスを見るとDEXに差があったらしい。この仕様はほぼ間違いないとのこと。


 DEXというのは器用度や俊敏性。つまり、数値的な補正の割合を大きくするというのがこのゲームでの存在だ。なので、魔法職の人間が生産を齧って少しでも魔法の威力を水増ししたりというのはそれなりにあるらしい。

 逆に生粋の生産職となると、ステータスを上げると大体の職業は歯が立たないレベルの魔法火力になるらしいのだがそこまでの生産職となるとそもそも戦線に向かうことが少ないらしい。なので実力は未知数と言える。


 こうしてみるとなかなかにいろんな楽しみ方があるゲームだ。生産してもいいし、魔法職に就こうが近接職に就こうが割と楽しめる。ただ、某モンスター狩りみたいな楽しみ方をするのはちょっと驚いたが。


「折角だし、なんか生産職でもやってみようかなぁ」


 ちなみに生産職は生産レベルが上がっていくと作るものの難易度が下がったり扱える素材が増えたりする。生産職魔法職と括っているもののやはり、魔法寄り、鍛冶寄り、消耗品寄り等々簡単な括りとしても結構ある。前のFPSオンラインの時の職業の幅狭さや自由度が思いのほか狭かったことから由来しているのだろう。数値の計算なども前よりも複雑とのことだ。


 正直、そこまで力を入れるくらいならバグやハッキングの対策に力を入れろと言いたい。いや、まぁ前作の割と自由度の低いあのオンラインでバグが起きるほどと考えると、今回のハッキング事件も致し方がないのか。

 まぁ、個人的にはかわいそうとしか思えない。今頃運営の会社も『なんでだよ……またかよ……』となっていることだろう。巻き込まれているこっちが一番苦労してるのだが。

 しかも前の事件の関係者も結構いるっぽいし、実際のところはなるようになってみないとわからない。


「えっ? ヌイヌイ生産職やるの?」

「う~ん。いや別に。生産はサブでメインは別だよ。折角忍び刀とかあるし忍者とかでも面白そうな気がする」

「へぇ~。忍者ですか、兄貴らしい」

「そのセリフを言ったのは兄のほうだし対象は弟だ」


 セリフを丸パクリですかあいつらしい。あと忍者に納得する要素があったのか。ナナに詳しく聞きたい。


「でも忍者って言っても何をするんだ? このゲームで」

「基本忍んで戦える盗賊だよね。罠解除から薬草から回復薬を作ったり敵アジトに潜入してスパイとかできるんじゃない?」

「このゲームって基本需要のわりにその手のRPのプレイヤーって少ないよね」

「目立たないし仕方ないんじゃない?」

「そもそも忍者だから目立たないようにロールプレイしている可能性だってあると思います」

「まぁ、目指すなら好きにしろとだけ言っておく。あと、不知火」

「何?」

「私があんなロールプレイをしていると誰かに漏らしたら……」


 あーはいはい。ぶっ殺されるんですね。恒例恒例。そんなことされるまでもなく誰にも言うつもりはないから気にしないでほしい。


「お前の学校の女子にお前のオネショの写真送り付けることになる」

「お前リアルとゲーム分けて考えるっていう話で決着ついただろ。しかもそのいかにも苦肉の策っていう顔やめろ。本当に洒落にならないから」


 この見た目ロリは早めにキルしたほうがいいかもしれない。このゲームクリアしたら一回暗殺チャレンジしてみよう。


「まぁ、それは今度個人的に送ってもらうとして」

「聞き捨てならないしまじでやめろ。――やめてくださいお願いします。おっと続きはいらないぜ。感じで分かる」

「ええと、質問いいですかね?」


 ナナが挙手をして話し出した。言葉遣いはおそらく呼び捨てでもいいと言われたが年上だとわかっているからだろう。ネットって相手の年齢わからないからいいところがあったけど、現状VR技術的にはヘッドギアの関係で顔はほとんどそのままでしか使えない。必要以上にいじると鏡などを見た時にSAN値が減る。ほぼ無意識にだ。理由は割愛させてもらう。


「私たちギルドを作るのはいいんですけど、どこに集まるとかそういうのってないんです?」

「今しばらくは知り合いの場所を使わせてもらおうかなぁって思ってる」


 モアがそのように答えた。ちょっと後ろめたさそうな提案の仕方だな……。なんかあるのか?


「知り合い?」

「うん。普段はゲーム内でお店を経営してるんだけど……」

「何それ凄い」


 このゲームではお店の経営もできるのか。ゲームのジャンルを軽く間違えていないだろうか。いや、まぁバーチャルリアリティーだから何でもありと言ってしまえばそこまでなのだが。だが、お店を経営してるのか。なら場所を占領するという話になるかもしれないとなれば後ろめたいか。


「ちょっといろいろ話してから向こうに行く旨を伝えるから待って」

「わかりました」


 モアはナナにそう返して空中をカタカタし始めた。おそらく連絡を取ろうとしているのだろう。通話とメールの機能が実装されているのはこの一週間で確認した。メールは特に急ぎの用がない場合には非常に便利なのでフレンド間でのやりとりでは意外と困らない。


「……よし、じゃあ行くよ」


 そう言ってモアはこっちだよと言いながら僕らを案内し始めた。

 どうやら、モアの知り合いはこの町で店を経営しているらしい。常に新規のプレイヤーがいるこの町だと、初めてのクエストで狩って手に入れたゲーム内通貨で遊びたいを思うプレイヤーは結構多い。

 だからゲーム内でおいしいものや楽しい遊び。結構きわどいのは賭け事などをする。

 ちなみに運ゲーをやらせると軒並み確率が低いほど割とあたりを引くことの多い僕はソシャゲーのガチャは常にドキドキで満ち溢れている。少なくともガチャアイテムを全損することがないので程よく最高レアが当たるので楽しい。

 そんなことを考えていると大通りからちょっと外れたところ。人はまちまちと言ったところだろう。そこにちょっとレトロな雰囲気が漂ういい雰囲気のお店の看板があった。

 結構見た目の雰囲気は好きだ。


「ねえ。ライターは会ったことあるの?」

「ううん。私もモアに誘われてこのゲーム始めたから」

「でも二人のレベルってほぼ同じくらいだったよね?」

「まぁ、そのころの私は暇だったからちょくちょくレベル上げしてただけ」


 さらっとライターの廃人の素質を垣間見た気がした。そのあと改めて店のドアに向き直る。

 新たなる出会いに少しドキドキしながら、僕はモアの開いたその木造のドアをくぐった。



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