03田舎路線、車窓にて
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過ぎゆく車窓からの風景には、大海原と白いカモメが見えた。
田舎鉄道だ。
洋館をでて、およそ半日。いくつもの国鉄を乗り継いで向かった先は、彼が住んでいた街を上回るほどの田舎だった。現在は、ひなびた海沿いの路線を走っている。
「……あのさ」
「なに?」
モグモグ。と。
隣で駅弁を頬ばる少女に、浅霧はうろんげな目を向けて、
「ちょっと遠くに行く――……。って話だったよな。で、アンタは俺の最初の依頼人として、わざわざ俺を連れ出したわけだ。こんな田舎くんだりまで」
「そうね。肯定よ」
「どこに行くつもりだ?」
やっと、聞いた。
昨日、彼女は押しかけてきて、近くのホテルに泊まった。翌日に備えるため、という理由だったが、翌朝には出発して、こんな遠い鉄道まできている。長旅になることは知っていたらしく、彼女は駅でやけに弁当やら道中のオヤツを買い込んでいた。
彼女も、夏休みらしい。
一般の高校――特に公立校では、七月の最初は授業しているところが多い。彼女の高校を聞いてみると、『星蘭学院』という有名なお嬢様校だった。
「どこにいくって。そりゃ依頼主の場所だけど?」
「……? ちょっと待て。依頼主?」
「そ」
弁当を頬ばりながら、口の中でころころ転がす。どうやら好物だったらしく、「ん~」ともだえるように歓喜の声を上げていた。イモ飴だった。
「お前が依頼主じゃないのか?」
「違うわ。話してなかったかしら? 今回の依頼主、正式には私じゃなく――私のお友達なの」
「ぜんっぜん! 聞いてない!」
「あら。それは失礼」
彼女は、惜しむように自分のイモ飴を頬ばり。それから、ふと浅霧の弁当にも目を向けてきた。
…………こっちには、まだ彼女の好物が残っている。
「ちょうだい」
「いいけど」
箸が伸びてきた。
「これから向かう土地はね、戦時中に陸軍が作戦展開していた土地。その崖にある森よ。ずっと国が保有している資産だったんだけど、終戦後にある財閥に払い下げがあって。そこに別荘が建っていたの。モノ自体は古いんだけど、なかなか魅力のあるところよ」
「なんだそれ……? つまり、俺たちは客としていくのか?」
「ええ。一ノ瀬グループっていう。国産のスクーターから半導体技術まで研究している財閥。そこのお嬢様のところよ」
「……な、なに?」
浅霧は目を丸くした。
ちょっと待ってほしい。一ノ瀬って、あまり電子メーカーの『王者』として名高い自動車工場の大元ではないか。企業に詳しくない浅霧でも聞いたことがある。世界の一ノ瀬電工。そんな場所に向かって、しかも別荘の所有者を『お友達』なんて言ってしまう、この少女はいったい何者なのか。
どう考えても、ただの女子高生とは思えなかった。
「……? あれ。もしかして、まだ『私』のこと分からない?」
「知るか。なんだよ、有名女優か何かか?」
「違うわよ。今井、今井。ってずっと言っているでしょう? 『今井』凉下って」
「だから。どこの今井さんなんだ。いっとくが、うちの近所でも三軒は今井さんだからな。今日もその三つ子の腕白坊主に寝起きを邪魔されたばかりだ。今井なんて全国、いくらでもある名字だよ」
「今井グループよ。ほら、お昼のCMの」
彼女は歌ってみせた。
とても覚えのあるメロディだった。耳ついている。さっきもテレビで流れていたし、昼のドラマどころか、夜のゴールデンでもスポンサーになっている企業だ。日本有数のお菓子メーカーとして名が響いていた。
「お前……!? 今井って、そんなとこの令嬢だったのか?」
「やっと気づいた。まあ、私が、こんなにも親しみが持てて? 博識で? ちょっと幼馴染み系のオーラを出している女の子だから? 分からないのも仕方ないけど」
「オーラ、なさ過ぎるぞ!?」
指折り数える彼女に、浅霧は叫んだ。彼女は心外そうに「なによ!」と噛みついてくる。
第一、あんなにスムーズに駅の改札をくぐったではないか。それに玄関のドアを破壊しながら入ってくる。
そんな暴力女を、誰も『いいとこのお嬢様』なんて思わない。
「ま。とにかく。そんなわけだから。依頼の子の件。くれぐれもよろしくね。向こうは私と違って、本当に世間慣れしていない箱入り娘なの」




