7体目:勇者人形の性能とは?
というわけで、休憩を挟んだ俺達は、メイドさんズに案内されて、中庭の片隅にある練習場とやらにやって来た。
……流石に、皇帝様が住むお城というものである。中庭の片隅といえども、かなり広いものだった。
練習場と言われている建物についても、俺が住んでた2階建ての家よりも広いんじゃないだろうか? という物だった。
そのまま練習場に入ってみると、まるで体育館のような場所で、広さもバスケットボールのコート2面分程度の広さはあるんじゃないだろうか。
――あれ? ここって、こんなに広かったっけかな? 外から見た時は、ここまで広い建物には見えなかったが……?
「フフッ、驚かれましたか?
ここも魔導技術を部屋の内部の空間に作用させる事によって、外からの見た目よりも大きな練習場となっておりますわ。更に、中でどれだけ暴れても、音などが漏れる事は無いのですわ。」
「おお!? それは凄いな!
それじゃあ、異次元収納が出来る鞄とか、あったりするのか?」
「えぇ、ございますわ。
鞄やお金を収納する為の小袋、他にもポーチなどがございます。マキナ様の技能の一つに、【異次元収納】というものもございますわ。」
「え? そんな魔導技能もあるの?」
「はい。その魔導技能は、マキナ様の左手に備わっておりますわ。
収納したいものがありましたら、左手を添えて、収納と唱えていただくか、心の中で念じていただければ、収納する事が出来ます。逆に出す場合は、搬出になりますわ。」
「マジか? 凄ぇなぁ。
んじゃ、試しに……。」
俺は近くにあった練習用と思われる大きな両手剣を左手で掴み、収納と念じてみた。
そうすると、左手に持っていた大剣は瞬時に消え、左側の視界からゲームのようなウィンドウが現れ、「収納」という枠の中に、「バスタードソード×1」と表示されていた。
「これは凄いな。何か、ゲームのシステムウィンドウみたいなもんが出てるぞ?」
「はい、それが格納された物になりますわ。ちなみに、その表示が邪魔だと思われましたら、非表示と念じていただければ、隠れるようになっておりますわ。」
「魔導技術って凄いなぁ……。」
「いえいえ、マキナ様達の世界に存在するゲームの方が凄いですわ。
あのような幻想的な魔法が巻き起こる世界、見た事がございませんでしたわ。」
いやいや、あんたらファンタジーな世界に住む人達が言う事じゃないですよ?
俺達にとっては、今まで巻き起こった事実の方が、十分幻想的ですからね?
「……そうですか。
それで他には、どういう機能が備わってるんですかね?」
「はい。他にも、先程も見ていただきましたが、まずは【魔導感知】ですわ。
「あぁ、さっき見たやつだな。
視界にレーダーディスプレイみたいのが映るやつだな。」
「そうですわ。基本、視界には何も表示される事はありませんが、マキナ様が【魔導感知】で監視を行おうとしたり、私達に敵意や殺意を持った方が、半径500メルト以内に近づくと、マップと共に赤い光点が表示されます。」
「成程ね。それで、いきなり視界にレーダーみたいなのが現れて、赤い点が表示されてたのか。
それじゃあ、点滅してたのは何だったんだ?」
「それは、その者が何らかの行動を起こそうとしている事を表しているのですわ。点滅が早くなれば早くなる程、動き出す事が近い事になりますわ。」
「へぇ、随分と色々な情報が分かるんだな。」
「はい。微弱な魔導力の波動を全方向に放ち、その反射した人物の温度、動き、呼吸の速さからレーダーディスプレイの表示内容を変えているのですわ。」
「ふぅん……まぁ、とりあえず凄い、って事で良いか?」
「はい、それで結構ですわ。」
あ、良いんだ。
難しい話をペラペラとするもんだから、科学者的な気難しい所があるかと思ったけど、そうでもないんだな。ここまで空気も読めて、、頭も良く、美人、とまで揃っているのに、あの残念気質は何なんだろうか?
いや、やめとこう。
考えたらキリがないな、次行こう、次。
「で、次は?
そろそろ、戦闘系のスキルとかも教えてくれると嬉しいんだけど……。」
「そうですわね……それでは、戦闘系の魔導技能について、ご説明致しましょう。」
「あ、ごめん。
その前に、この世界には魔法って無いの? 魔導技能って、凄いもんがあるくらいだし、皇女様も使えるんじゃないのか?」
「いいえ、マキナ様が想像される魔法というものは、この世界には存在しません。その代りにあるものが、先程から話題にあがっております、魔導技能になるのですわ。」
「そうなのか……。」
それは残念だ。
魔法を使う、っていうのにも憧れがあったんだけどなぁ……。
まぁ、無いものは仕方ない、か。
「マキナ様の世界にある想像のお話のように、魔力を使って何かを発生させる、という事は出来ませんが、それと似たようなものが、この世界にはございますわ。
ですが、この世界の住人には、潜在的に魔導という不思議な力が宿っております。その魔導を解放する事によって身体強化を行ったり、身体の怪我や欠損部分を回復させたり、光線を放ったりできますわ。」
え、光線?
「光線、だと?」
「はい。それでは、試しにお見せいたしましょう。
ふうぅぅぅ…………【魔導砲】っ!」
皇女様が繰り出した掌から、青白い光線が放たれた。
皇女様の手から伸びる光線は、打ち込みの練習用と思われる人形に勢いよくぶつかると、「ドバンッ!」という派手な音と共に光が弾けた。
光が収まり、そこを見てみると、人形のあった辺り一遍が凍っていた。
「このように、練度を上げますと、属性を付与する事も可能になりますわ。ちなみに、何も属性を付与しない場合は、白い光線となり、物理的なダメージを与えますわ。」
「うおおぉぉぉ、凄ぇっ!!」
凄い、凄い! 手からビームですよ!!
「更に錬度を上げますと、スキル名を無詠唱で実現させる事も出来ますわ。例えば、このように……かめ○め波っ!!」
次に皇女様は、某漫画の通りに技の名前を張り上げながら、両手の手根部を合わせながら突き出す。すると、その掌からは、白い光線が放たれる。
そして、その光線は、そのまま練習用人形にぶつかり、「ドオンッ」という爆音と爆発をおこして、人形を吹き飛ばした。
「……よく、そんなものまで知ってるな。」
「はい! マキナ様の世界は、ほんっ…………っとうに、素晴らしいですわっ!! 科学技術も然る事ながら、何といってもアニメの文化は、奥が深くて、凄すぎますわっ!
この間なんて、2日間ぶっ通しでアニメを見てしまいましたわ。あの筋肉美。そして、ぶつかり合う漢と漢の肉体とプライド。それはもう、たまりませんでしたわ。それに、あの台詞!
――お前は、もう、死んでいる!」
あぁ、胸に七つの何とやら。
「見たのって、それかよ!?
だから、あんたのチョイスはおかしいっていうか、偏りすぎなんだよ、おい!」
「えぇー?」
まぁでも、リアルでかめ○め波を打てるなんて、夢があるわぁ。
いやまぁ、その昔、自分も出せるんじゃないか、なんて夢見てた時期もあったりなんかして……ほら。皆だって、あるだろ? そういう時期ってやつがさぁ。
……話が逸れたな。
さっさと次に行ってもらおう。
「ところでさぁ、この世界の人達は魔導っていうもんを使って技を使う事が出来る、ってのは理解したんだけど、やっぱり使えば消費するよな? 回復とかってどうやるんだ?」
「はい、マキナ様のおっしゃる通り、魔導技能を利用すれば、体内にある魔導は消費してしまいますわ。ですが、この世界には空気と同じように、魔素というものが漂っておりますの。
その魔素を体内に取り込む事によって、体内の魔導を回復する事が出来るのですわ。」
「ふぅーん、少しずつ回復してく、って事?」
「はい、そうですわ。
但し、マキナ様の場合、吸収効率がかなり上がっていますので、魔導技能を頻繁に利用されても、足りなくなる、という事は、まず無いと考えていただいて問題ありませんわ。」
「凄ぇな。
って事は、MP切れはおきない、って事か?」
「そうですわね。無茶な使い方で無ければ、という制限が付くかとは思いますが……。」
「いや、それでも十分すぎるような気がするけどな。
で、さっき皇女様がやってた【魔導砲】って、俺にも出来るのかな?」
「はい、勿論ですわ。」
おぉ、マジか。
それじゃ、指先に力を集中させて……。
「よし、はあぁ…………○貫光殺砲ぉっ!!」
俺が勢いよく突き出した二本の指先からは、白い光線が放たれ、射線上にあった練習用人形にぶつかる。そして、先程皇女様が放ったものよりも大きな爆音と爆発をあげ、人形を四散させた。
「流石はマキナ様! ○貫光殺砲とはやりますわねっ!」
何が?
「感動するポイントが良く分からんが、この身体の性能がとんでもない、っていう事は良く分かったよ。
んで、これでお終いかな?」
「いえ。まだ、ありますわよ。
マキナ様に搭載されている魔導技能は、他に、【魔導斬】、【魔導戦力強化】が、ございますわ。」
「ほうほう。名前からして、【魔導斬】は魔導の力で生み出す剣で、【魔導戦力強化】は身体を強化して、腕力や脚力を倍加させる魔導技能ってとこか?」
「はい、まさしくその通りですわ。
【魔導斬】は、マキナ様のイメージしたものが形となると考えていただければ問題ありませんわ。但し、魔導力を元にして形を成しておりますので、集中が切れてしまうと霧散してしまいますので、ご注意下さいませ。」
「そうなんだ。それじゃぁ、武器が無い時の短期集中型で考えた方が良さそうだな。」
「そうなりますわね。
【魔導戦力強化】も同様に考えていただくとよろしいかと思いますわ。」
「分かった。そこは肝に銘じておこう。」
「はい、よろしくお願い致しますわ。
では最後に、マキナ様の装備品について、説明してお話は終わりといたしましょう。」
「おう。」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。