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5体目:人形の性能を確認しよう

「マキナ様? 一体……?」

「あぁ、なーんか、さっきから気になる事があってなぁ……っとぉっ!?」


 そう言うと同時に、マキナは瞬時に壁の前に迫る。


 うぉっ!? ちょっと踏み込んだだけなのに、もう壁前かよ!?

 危うく、壁にぶつかる所だったじゃねぇか。びっくりしたわぁ……思ったよりも、身体の動きが軽すぎるな。これは、練習場とやらで調整するしかないか。


 ……んでもって、ここには何がいるのかなっ?


 そこには、魔導具なのか、魔導技能(マギスキル)なのかは分からないが、壁に擬態していた人間が居たようである。マキナは、その人物の喉元を右手で掴み、片手で軽々と上に持ち上げた。


「ぐぁっ!?」


 うひょーっ!? 人ひとり持ち上げてるのに、全っ然、重く感じないわぁー。今の俺の腕力ってどの位なんだろうかねぇ? 普段の生活での力の込め方とかについても、要確認と調整だな。


「がっ、なっ……!?」

「まぁっ!? こんな所にまで……。」


 ん? こんな所にまで?

 普段からこういう怪しい野郎から、つけ狙われるような事をしてるって事なのか? まぁ、怪しげな開発やら皇女様しか知らない部屋がある位だから、狙われるのもしょうがないのかねぇ……。


 あ、そういえば、この人って皇女様(・・・)だったっけか。王族だからこそ、狙われる事もあると考えた方が良かったかなぁ?


 ……まぁ、どっちでもいいか。


「なぁ、姫さん。さっきから、視界にレーダーみたいのと、色々な光点が見えるんだけど、これ何?

 あ、あとこいつ、ずっと赤くって、段々点滅も早くなってきたから、怪しく思って捕まえてみたけど、何なの?」

「それは、マキナ様に用意された魔導技能(マギスキル)の1つの【魔導感知】(マギレーダー)のスキルになりますわ。

 それに、赤い点滅は強い敵意、殺意の現れですわ。」

「ふぅーん。これも、魔導技能(マギスキル)ってやつなのか……ちゃんと、後で説明してくれよ?」

「えぇ。後程、説明させていただいますわ。」

「あぁ。とりあえずは、先にこいつだな。」

「ぐえっ!?」


 あ、やべぇ。力入れすぎだったかしら? 忍装束みたいな格好だから、いまいち顔色が分かりづらかったけど、わずかに見える目元辺りの色が紫っぽくなってやがる。


 ちょっと力を抜いてあげよう。


「ごほっ、ぐほっ。」

「あ、わりぃわりぃ。力入れすぎだったみたいだな。ちなみにさぁ、お前の狙いって皇女様なのかな?」

「…………。」

「だんまりか、よっ!」

「うがああぁぁっ!?」


 俺は忍者君(勝手に命名)の両肘を掴み、一気に握り潰すと「ゴキュ、バキャ」という硬い物が機械でプレスされて潰れる様な音が聞こえた。

 どうやら、忍者君の肘関節辺りの骨は、粉々に潰れたようだ。かわいそうに。


「とりあえず、これで下手に身動きはとれなくなった……。」

「くっ!」

「おろ?」


 忍者君は両腕の痛みを堪えて、扉へと走り出した。

 まさか、あの状態で走れるとはねぇ……流石、鍛えているだけはあるっていう事なんだろうか?


 だがしかーし。


「ほいっ!」


 ゴキャッ、グキョッ


「ぐぎゃぁっ!?」


 俺は忍者君の前に回り込み、両膝の間接辺りを狙って素早く蹴りを2発放り込んだ。しかも、的確に両膝の膝蓋骨(しつがいこつ)を狙い撃ち、砕く事に成功した。

 ……あ、膝蓋骨(しつがいこつ)っていうのは、膝の皿の部分の骨の事ね。


 ここまでやれば、流石の忍者君でも身動きはとれなくなったようだな。


 ……でも、やりすぎたかなぁ?

 忍者君は、その場に前のめりに倒れていて、しかもピクピクと痙攣してるな。


 ま、生きてるから良しとしよう。


「やっと大人しくなったな。

 それにしてもさぁ……何で、アンタは皇女様を狙ってたのかな?」

「…………。」

「また、だんまりかよ。

 じゃあ、次は……。」

「マキナ様、そこまでする必要はありませんわ。」


 皇女様に声を掛けられて、俺は振り上げた手を止める。


「ん? 何か心当たりでもあるのか?」

「ありすぎて、分かりませんわ。」

「ありすぎんのかよっ!?」

「まぁ、そんな冗談はともかく…………これは、お父様の仕業、と考えて間違いありませんわ。」

「はぁ?」


 お父様? って事は、王様……じゃくて、帝国だから皇帝か。

 じゃなくて、何で父親が娘の命を狙う必要があるんだ?


「何で?」

「その証拠に……リオナ。」

「はい、姫様。」


 そう言って、皇女様の隣にスッと現れたのは、いつも目を瞑っているように見えるメイドさんだった。

 確か、皇女様の専属メイドだったっけかな? いつも傍に付いていた筈だ。あ、ちなみに、紅茶を入れてくれたのもこの人だよ。


「いつものをお願い。」

「はい……【沈黙看破】(ペネトレーション)

「…………。

 あぁ、そうだ。俺達、闇の帳(やみのとばり)を雇ったのは、皇帝様だ。まぁ、直接雇い主として交渉してきたのは、宰相と言われる禿爺だったけどな。

 っ、なっ!? 何ぃっ!? 何をしたっ!!」


 お、すげぇ。何か急にペラペラと喋り出したぞ、こいつ。

 これも【魔導技能】(マギスキル)の一つって事なんだろうな。さっきの身のこなしもそうだけど、こんなスキルを持ってるなんて、流石は皇女専属メイドって所か。


「とまぁ、このお方が喋っていただいた通り、お父様が私を亡き者としたくて動いているのですわ。

 メイベル、サーシャ、いつもの通り、この者をよろしく。」

「はぁーい、承知しましたわ、姫様ぁ!」

「姉さん、口調!」

「はいはい……。」


 軽っ!?


 ……いや。逆にその位、頻繁に起きる出来事、だという事なのかね?

 手慣れたように姉妹と思われるメイドさんの2人が軽々と忍者君を抱え上げ、部屋の外へ連れ出していったが……彼奴どうなっちゃうのかねぇ?


 まぁ、タダじゃ済まない、か。

 いやぁ、それにしても……。


「……よくまぁ平然と言えるな、そんな事。」

「そうですわね。

 しかし、お父様と言っておりますが、私にとっては義理の父なのですわ。

「義理?」

「はい。私の父は、前皇帝。即ち、今の皇帝の兄にあたりますわ。

 ……そうですわね。まずは、そこを含めてお話しさせていただきますわ。それでは、この世界について説明の前に、私の立場をご説明させていただきますわ。」

「あぁ、頼む。

 所でさぁ、何で弟が皇帝になってるんだ? そもそも前皇帝には、マリア皇女様っていう娘が居たわけだろ? まさか、この国は男じゃなきゃ皇帝になれないとでも言うのか?」

「そんな事はございませんわ。私の父が亡くなられたのは、私がまだ3歳の頃の事でございますの。皇位を継承するには、10歳以上の皇家の血筋である必要がありましたので、私がその時点では継承する事は不可能だったのでございます。」

「そう、か。

 それじゃあさぁ、この国の皇帝に相応しくない、って事で交代する事なんて……。」

「はい。出来る事は出来るのですが、私が成長し、事を全て知るには遅すぎたのです。既に前皇帝派の者達は全て廃されてしまい、周りの要職に付いている者や、騎士団の者も含め、現皇帝派の者が犇めいてしまっているのですわ。

 私自体、皇位を付ける歳を過ぎれば、命を狙われるであろうと考えておりましたので、出来る限り表に出ないようにしておりましたが……まぁ、このように刺客を向けられておりますのよ。」

「……何て言うかさぁ、この状況に慣れすぎれるからか、何とも思っていないのも不思議でしょうがないんだけど?」

「そんな事はございませんのよ?

 本当のお父様が私のために用意して下さった、このメイド達3名のお陰で、私が刺客に狙われているという事を知る由もなく、全て何事も無かったかのように過ごす事ができたのですわ。」

「姫様、勿体なきお言葉でございます。」

「いいえ、本当に貴方達のお陰だと思っているわ。リオナ、メイベル、サーシャ、本当にありがとう。」

「ハッ。」


 皇女様がそう言うと、3人のメイドさん達が素早く頭を下げた。まぁ、確かに普通のメイドさんじゃないだろうなぁ、とは思っていたけど、護衛まで兼ねていたとはね。


 ……いやまぁ、俺だってさぁ、「こいつ、デキる」なんて感じる事ができるような達人、ってわけじゃないんだけどね? 言っといた方が良いかなぁ、と思って言ったわけですよ。

 えぇ、言った方が良いと思ったんです。


 大事な事なので2度言いました。


 ……まぁ、そんな事は置いておいて、話に戻るか。


「という事は、皇位を継ぐには十分となった前皇帝の娘は、自分が蹴落とされる原因となりかねないと考えて、ご丁寧に表に分からないように殺しにかかっている、って事か?」

「そういう事ですわ。」

「はぁ……随分と肝の小せぇ皇帝様だねぇ。」

「……ですが、お義父様も以前は、権力を欲すような事無く、兄であるお父様の力になるように努めていたそうです。それに、子に恵まる事も無かったそうですが、私達にも優しかったと聞き及んでおります。」

「うーん……そうそう簡単に人の性格が変わるもんかねぇ?

 言うのは酷かもしれないんだけどさぁ……それだと、本性を隠してた、って方がしっくりとこねぇか?」

「そう……かもしれませんわね。」


 そう言うと、皇女様は憂鬱な影を漂わせ、顔を俯かせる。

 ……あー、いくら命を狙われているとはいえ、血の繋がった人の悪口は拙かったかねぇ? でも、命を狙われているって、すんなりと答えるような皇女様が、こんな事で落ち込むもんかな?


 ……それとも、別の理由か?


「なぁ、皇女様。

 もしかして、皇帝様の心が変わってしまった理由っていうのを知っているのか?」


 俺がそう尋ねると、皇女様はハッと驚いたように顔を上げて俺を見つめる。

 そして、表情を和らげて喋り出した。


 どうやら俺の予想は、「ハズレ」ではないようだな。


「流石はマキナ様ですわ。

 私が一目惚れしただけはありますわね。」

「……そのフレーズは必要か?」


 何か、素直にそう言われると照れるものがあるなぁ。何というか、性格には難が見られるのだが……姿形は、眉目麗しい皇女様だからなぁ。好意自体は、ありがたいものと感じてしまうよ。


「まぁいいや。

 で、理由っていうのは?」

「いえ。理由を知っている、というわけではなく……調査を進めた所、ある時点で性格が一気に変わってしまったという証言をいくつも集めているのです。」

「ある時点?」

「はい。それは、お父様と弟の現皇帝が魔人国との境界線にある村々を視察していた所、お父様が魔人国の謀略により暗殺されたのです。その時から、現皇帝の性格が変わったと言われているのですわ。」

「ほぉ……そんな事件があったのか。

 でも、そんな事件が起きて、復讐の為に性格が変わった、っていうのであれば……皇女様が狙われるわけないもんなぁ。やっぱり本性を隠してたのかねぇ?

 それにしても、暗殺、ねぇ……。」


 随分とまぁ、聞けば聞くほど、現皇帝に都合の良い感じ事件にしか聞こえないね。自国の中に、こんなとんでもない敵がいるんじゃあ、皇女様があんな顔するのも無理は無いような気がするな。


「で? 勿論、皇女様には何か考えがあるんだよな?

 俺を呼んだのも、そういう事なんだろう?」

「はい。その通りですわ、マキナ様。

 これからの私の計画についてもご説明致しますが……それでは、少し休憩を挟みまして、先にこの世界についての説明に移らせていただきますわ。」

「はーい。お願いしまーっす、先生。」

「あら? もしかして、マキナ様はヤンデレではなく、女教師物がご趣味……。」

「そういう事じゃねーよっ!!!!」

お読みいただき、ありがとうございます。

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