4体目:自分の名前を考えよう
頑張ってご機嫌取りをして数十分。何とか皇女様のご機嫌を直した所で、やっと俺の名前の話に戻る事になった。
「……それでは、お名前はどういたしましょう? 普段、お呼びする名前が無いのは厳しいですわよ? 春介様とそのままお呼びするのは、どうかと思うのですが……。」
「まぁ、確かにな。」
「この際ですから、イチゴウとかでどうでしょう?」
「いやいやいや、だから落ち着けって! そんな名前じゃ嫌だっ!」
「そうでございますかぁ……それでは、何か良い案でもございますか?」
「そうだなぁ……。」
何か無いか?
更に変な名前でも付けられたら、たまったもんじゃないからな。ちゃんと考えないと……人形……魔導……機械仕掛け……お? そういえば、こんな演出技法だったか、何だかの名前があったな。えーっと……。
「……デウス……デウス・エクス・マキナってのはどうだ?」
「まぁ。素敵なお名前ですこと。
それでは、今後はデウス・エクス・マキナ様……では長いので、マキナ様、でよろしいでしょうか?」
「そうだな。長すぎるのも面倒だから、それで良いよ。」
「…………まぁ!? マキナ様は博識でもいらっしゃいますのね? このお名前は、マキナ様が居た世界では、「機械仕掛けの神」という意味があるのですね?」
「おぉっ!? そんなの、良く知ってたなぁ。」
「はい。たった今、私の魔導技能である、【異世界の目】を使って調べさせていただきましたわ。」
「魔導技能?」
「はい……魔導技能につきましては、マキナ様のものも含めて、後程、纏めてご説明させていただきますわ。」
「あぁ、分かったよ……けど、魔導技能とやらで、俺の世界の事を調べられるなんて、随分と便利なものを持ってんだなぁ?」
「はい。この、【異世界の目】は、私個人の固有技能となりますの。ですから、私だけですのよ? 異世界の事を調べられるのは。」
「ほぉ!? そいつは凄いじゃないか……。」
「えぇ。このスキルと合わせて、春介様の世界のインターネットを利用して調べているのですわ。」
えぇーっ!?
異世界の知識は、ググった結果でしたか。そうですか。
……いや、確かに凄いよね。ネットで出てくる知識量ってさ。ちょっと調べれば、色々と分かるもんね。
まぁ、何が正しいと判断するのかは、本人の知識次第だけどさ、もうちょっと何か、ねぇ……。
「……それでも、よく、こんな人形なんて作る事が出来たな。
あっちの世界の知識を調べただけじゃ、こんなもん作れるとは、到底思えないんだがね……。」
そう言って、俺は手を握ったり、身体を動かしてみたりする。指先まで繊細に動くし、人形とは思えないほどに滑らかかつ、自然にに動く身体だった。
それに、俺が人間だった頃との違和感も全然感じない。寧ろ、今の身体の方が軽く感じる位だ……うん、何だろう? 今なら、陸上の世界記録なんて、余裕でクリアできそうな気がする。
うん。やっぱり、ここまでこの身体にしっくりくるっていう事は……。
俺って、選ばれた人間……って事なんだろうか?
「なぁ、ちょっと教えてくれないか?」
「えぇ、どうぞ。」
「あの広い地球という世界の中で、俺を選んだ理由って何なんだ? やっぱり、この人形と波長が合う魂じゃないとだめだった、とか? もしくは、シンクロ率が一番高かったとかか?」
「はい、仕事無し、親無し、子無し、パートナー無し、の条件に当てはまる方から、適当に選別させていただきました。」
…………え?
まぁね? 確かに、両親は事故で無くしているし、他に頼れる親戚もいない。兄弟もいなければ、恋人や妻もいないから、当然子供もいるわけがない。
友達とも最近、全く連絡とっていないから、俺が急に居なくなったとしてもすぐ気付くどころか、気にすらしてもらえる事もないだろうな。
そして、リストラもされたばかり、と。
……うん、条件に当てはまるね。
でも、その中から適当に、だと?
何だろうね?
段々腹が立ってきましたよ?
「……おい。そんな理由で、俺を呼び出したのか?」
「いいえ。あとは、そちらの世界を覗いた時に……そのぉ、あまりにも春介様がですねぇ……素敵だったもので……一目惚れでしょうか? キャッ。」
そう言うと、皇女様は紅潮した顔を見られないように両手で顔を覆い、そのまま顔を左右に振りだした。
まさか、そういう風に見られていたとは思いもしなかったよ。まぁ、美少女ではあるからなぁ……こんな姿を見てしまうと、可愛いと思ってしまうよ。
「あー……。」
何て言うか……そういう風に思われていたとは思ってもいなかったな。
だってさぁ、呼ばれて直ぐに「ドスッ」だよ? 俺としては、毛嫌いされてんのかと思ってたよ。扱いが雑っていうか、何て言うかさぁ……。
ん?
「……って、ちょっと待てぃっ!! どうして、そういう感情が芽生えているのに、俺の魂を移す行動がアレだったんだよ?
どう考えても、人を刺すっていう行動に辿り着かないだろ?」
「ですから、ヤンデレ……。」
「シャァラァップッ!! だから、それはもういいって言ってんだろうがっ! 何かよぉ……もっと、こう……何か無いのかよ? 普通に甘えてくるとかさぁ、好意がありつつも、ちょっとツンツンしてみるとかさぁ……。」
「それでは、普通すぎてつまらないではないですか。
初対面なのに、ヤンデレという二律背反するようなこの感じ……ゾクゾクしませんこと?」
ゾクゾクしません。
そんなのは、あなただけです。
「いや、だから、俺にはそんな趣味は無いっちゅうねん……。」
結局、俺は四つん這いになって、削り取られた精神力を回復させるしか無かった……。
~ ~ ~ ~ ~
「マキナ様? そろそろ、そのお身体に秘められた能力などのご説明をさせていただきたいのですが……。」
「あんたが疲れさせたんでしょうが……まぁ、いいや。それで?」
「はい。説明させていただきたいのですが……実際、お身体を動かしながらの方が良いかもしれませんわね。お茶を飲んで一休みもした事ですし、練兵場の方へ向かいましょうか?」
「練兵場?」
「えぇ。普段は王宮勤めの騎士達が訓練する場所ではありますが、今は結界を張っております。今であれば、誰にも邪魔される事なく身体を動かす事ができましょう。」
「……邪魔?」
「はい。その件につきましても、後々ご説明させていただきますわ。」
「ふぅん……色々と、一筋縄じゃいかないんだな?」
「えぇ。」
「……まぁ、その前に片付けなきゃいけない事がありそうだな。」
「え?」
本当、皇女様の言う通り、来て早々仕事が一杯みたいだねぇ。
そんじゃ、自分の実力ってやつを見てみましょうか?
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