3体目:その名は勇者君壱号
そういえば俺が召喚された場所って、王国のお城、いわゆる王城ってやつなんだそうだ。
いやぁー、それにしても、流石は国のお偉い方々が住んでいる城だね。広すぎて、移動するのも疲れるよ……うん。俺の身体は人形だから、疲れないだろ? って言いたいのは分かるよ。まぁ、気分的なもんなんだよ。
そんな俺達は、会議室とやらに向かっているのだが、ただ無言で移動するのも暇なので、移動している間、まずはこの城の事について皇女様に教えてもらう事にしたんだ。
俺が召喚された部屋や、俺の身体が保管されているのは地下の部屋だったようだ……皇女様が言うには、地下の重要な部屋については、魔導による制御で皇女様以外の人物が容易く入れないようにしているそうだ。
それにしても、何で皇女様だけなんだろうか? って思わなかった? 俺は気付いたよ。でも、その事については、会議室に着いてから説明してくれるんだそうだ。
はぁ……まぁ、助けを求めて俺を呼び出したくらいなんだから、これから色々とあるんだろうね……。
おっと、話が逸れたな。とりあえず俺が教えてもらった王城について、ざっくりした説明だが、こんな感じだ。
まずは、地下1階について。ここは、大きい城の割には狭い敷地になっているんだが、そういう風に見せるようにしているらしい。まぁ、召喚する為の場所やら、大事な物を保管する部屋が多く揃えられているって事で、簡単に入れないどころか、そもそも視えないように施されているんだそうだ。
元々、地下は避難場所として作られていて、部屋数としても数える程度しか無かったんだそうだ。そして凄い事に、さっき言った召喚部屋とか、俺の身体が保管されている場所とかは、皇女様が魔導の力で作ったんだそうだ。しかも、この王城に住む人々に知られる事の無いように。
魔導って凄いんだねー。
次に、地上1階にはダンスホールと会食場という場所があるそうだ。まぁ、お客さん(?)が入って来れる大きい場所っていう事なんだろうさ。後は、厨房、メイドさん達の休憩所、そして王城直属の騎士団の詰め所があるんだって。
その次は、地上2階だね。謁見場……あの、よくゲームとかで見る場所だね。王様と王妃様が椅子に座ってて、赤い絨毯があって、「よくぞ来た、勇者よ!」とか言ってる有名な場所だね。
後は、内政担当の人達の執務室とか、5~60人は入れる大きな会議室から、4人程度しか入れないような小さな会議室があるんだそうだ。ちなみに、今向かってい会議室っていうのも、そこにあるんだって。
あ、勿論セキュリティがしっかりしてる少人数の会議室だってさ。
次は、地上3階。
……何か、説明ばっかりでごめんね。俺も飽きてきたから、この辺にしとこうかね?
嘘です、最後まで説明させていただきます。
で、地上3階なんだけど、この王城に住み込みで働いている人達の住居区なんだって。マンションみたいな構成になっているみたいで、家族ぐるみで住んでる人達もいるんだそうだ。
……王城に一般市民が普通に住んでるって、どうなの? これが普通なの? それとも、この世界の常識ってやつかしら?
最後が地上4階です。はい、やっと終わりですよー。
ここには、王族の住居区があるんだそうだ。だから、SPみたいな厳つい人達が見回っていたり、4階に上る階段などには門番よろしく、お強そうな方達が見張っているんだそうだ。
まぁ、ざっくりな説明だけど、この王城の内訳はこうなりますわ。
「……勇者様。こちらのお部屋へどうぞ。」
「お? やっと着いた?」
「はい、お待たせ致しました。」
「いやぁ、遠かったなぁ……流石は、お城だよなぁ。広いわ。」
「そうですわね。一応ここは、この国の首都でございますので、一番の広さではあると思いますわ。」
「成程ねぇ……。」
会議室の中に案内される。
小さな会議室と言ってはいたが、それでも、10人程度は入れるんじゃないだろうかね? うちの会社……元、うちの会社でも、この位の部屋なら、中会議室とか言われてるんじゃないかなぁ?。
座席に案内され席に座ると、対面の皇女様が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「まずは、春介様。
改めて、この私の願いを聞き入り、この世界へお越しいただき、ありがとうございます。」
「……あぁ、そうだったね。何か、今までの出来事のインパクトがデカすぎた所為で、すっかり抜け落ちてたわ。」
「それでは、春介様の今のお身体について、説明を……と、その前に、お飲み物を用意いたしましたので、どうぞ。」
皇女様がそう言うと、お付きのメイドさんが、ティーカップに入った飲み物を出してくれた。
お? 良い香りだな。しかも、この香りは紅茶みたいだな。
紅茶って、この世界にもあるんだ。
……あ、そういえば。
「……なぁ。この身体って、お茶とか飲んでも平気なのか?」
「問題ございませんわ。体内に取り込まれた異物は、人間の身体でいう所の胃の部分により、魔素によって素早く分解、消化致しますわ。」
「異物扱いかよ……ん? じゃあ、味覚とかは?」
「五感についても、しっかり感じ取れるようになっておりますわ。もう既に、視覚、聴覚、触覚、嗅覚については感じているとは思われますが……。」
「確かに、全然違和感を感じなかったな……それにしても、良い香りだし……味も、元の世界の紅茶にソックリなんだな?」
「勿論ですわ。春介様の世界の紅茶の作り方を勉強して、我が国で作っておりますのよ。茶葉の揉み込み、発酵過程なども春介様の世界のものと同じですのよ。」
「それは凄いな。
……もしかしてさぁ、食事事情なんかも、そんなに違和感が無い感じなのか?」
「えぇ。恐らくご認識いただいております通り、この世界の食事事情は春介様の世界と大体同レベルの食事が用意できますわ。」
「ええぇっ!?
……って事は、よくあるファンタジー物みたいにパンだけ、って訳じゃなくて、ご飯とか、ラーメンとか、うどんとかも食べられるのかっ!?」
「はい、そうですわ。」
「マジかあああぁぁっ!? 何て素晴らしい世界だっ!!」
まさか、異世界に召還されたというのに、ご飯が食べれるとは思わなかった。
しかも、大体同レベルっていう事は、刺身定食とか、カツ丼とか、牛丼とかも食べれるって事だろ? ヤバい。小説でよく見る異世界召喚とはワケが違うじゃないか。何て恵まれた世界なんでしょう!
……あれ?
ちょっと待てよ。
「……皇女様。食事事情は良く分かったんだが……五感がこの身体には、あるっていうのは分かったんだけどさぁ、「食事を食べたぁ」って感じるあの瞬間っていうか、満腹感、っていうのは……?」
「はい。必要性がありませんので、そのような感覚はございませんわ。」
な……何、だと?
「そもそも、そのお身体の原動力は、外気に含まれる魔素を取り込む事で魔導エネルギーとして稼働しております。なので、特に食事を取る必要性はございませんし、そのような満腹中枢という機能はございませんのよ。
この、外気からエネルギーとして変換するという機能の部分が、一番難しい技術を使っておりますのよ。春介様の世界でいう太陽光発電のシステムからヒントを得まして、外気に含まれている魔導力の元となる魔素を皮膚の部分に使っています、シルバードラゴンの皮膚………あら?
春介様? 聞いていらっしゃいますか?」
せっかく異世界に来て、どんな料理とかがあるのかを楽しみにしてたのに……。
それどころか、元の世界の料理も普通に食べれるとか、どんだけ、「俺、ラッキー!」と思った事か……。
それなのに、食事をする意味が無い? 満腹感を感じない?
俺のさっきのテンションを返してくれっ!!
俺の人生の楽しみが……。
「春介様? 机に突っ伏されてどうされました? 聞いてますか?」
「あ、はい。生きてます。」
「は?」
「あ、いや、ごめん。聞いてます。
でもさぁ、せっかくの食事事情だっていうのに、この身体じゃあ有効活用できないじゃん? 何て勿体ない……。」
「そんな事ございませんわよ?」
「えっ!? 何々? この食事事情を楽しめるような機能が付いてるのかっ!?」
「はい。食事自体は楽しむ事が出来ませんが、春介様のそのお身体には、一流の調理スキルが備わっておりますわ。ですから、春介様が思うとおりの料理を……。」
「そんな機能、いらんわあああああぁぁぁぁっ!!」
~ ~ ~ ~ ~
「……あぁー、取り乱して悪かったな。」
「いいえ。春介様が、そんなに食にこだわりをお持ちとは、気付きませんで大変申し訳ございません。」
「あぁ。まぁそこら辺は、今後に期待、って事で。
ところで、この人形っていうか、俺の身体についての解説っていうのは?」
「そうでございましたわね。
それでは、改めまして……今、春介様の魂が乗り移られました、その身体。我が世界の魔導技術の結晶、そして春介様のおられました異世界の化学技術の知識を集結させて作り上げたのが、この魔導人形……その名も、勇者君壱号ですっ!!」
えぇっ!?
何、その名前? ダサくて嫌なんですけど?
っていうか、困ってそうだし、手伝いに異世界に行ってみようかな? なんて善意(?)で飛び込んだ人間の魂を抜き取って、そっちが用意した人形に放り込んだ挙句、名前が「勇者君壱号」だぁっ!?
ったく、何なんだろうかねぇ。顔は紛れもなく美人だし、スタイルだって文句が出ないくらいに凄いのになぁ。
それなのに……性格も残念なら、名前のセンスも残念なのかいな?
こっちの世界を覗いて、興味を持った内容もヤンデレだしなぁ。
はぁ……残念だ……。
本当に残念だ。」
「……そんなにでしょうか。」
「……え?」
「そんなに、私のセンスは残念なのでしょうか?」
「あ? え?」
あれ? 皇女様が、目元に涙を浮かべた状態で、プルプル震えながらこっち見つめてるぞ。
……声に出てた、だと?
これはやばい……。
「えーっと……俺、何か言ってた?」
「はい。グスッ、性格も、残念なら……の所からで、ございますわ……。」
「あぁ、マリア様……。」
「お可哀そうなマリア様……。」
はい。誤魔化すのも無理ぃー。
お付きのメイド共も、ヒソヒソと俺を指差しながら話すんじゃねーよっ!
あぁー、もぉー、どぉーしよぉー。
「いや、あのな。それは……。」
「わ、私……私はぁ、春介様の……グスッ、お気に召しませんでしょうかぁ……?」
「いやいや! そんな事無いからっ! 俺が悪かったから、泣くなって!!」
「でもっ、グスッ、本当にっ、残念だ、って……。」
「本当にそんな事無いからっ! いやな、ただ、皇女様って美人だし、スタイルも凄い良いのにギャップが凄すぎて、ビックリしたって言うか、何て言うか……。」
「……本当ですかぁ?」
「あぁ、本当だって。ごめんな、変な事言って。」
「……それなら、良いですわ。許しますわ……。」
…………
はぁ、やっぱり女の涙は苦手だわ……。
ご閲覧いただき、ありがとうございます。