1体目:異世界からのお声掛け
新しい連載を始めました。
閲覧いただき、ありがとうございます。
不定期な更新となってしまうと思いますが、よろしくお願い致します。
「えっ!? リストラ、ですか……。」
俺こと、水嶋春介は何故かこんな最悪な一言から、一日をスタートさせる事になってしまった。
22歳で大学を卒業し、それなりに大手の会社に入社した、しがないサラリーマンではあるが、エンジニアとして8年間真面目に働いてきた。
2年前位からはプロジェクトも任されるようになり、プロジェクトリーダーとして、案件をしっかりと成功するように、頑張ってまとめてきた……まぁ、多少なりとも火が付いた事もあって、他のチームにも迷惑を掛けた事もあるが。
それでも、業績としては努力した結果、全て黒字になっている。なので、結果はそれなりに出していたんじゃないか、と自負していたつもりだった。
そんな俺がリストラ? 世の中は世知辛いですなぁ……。
「本当に申し訳ないっ!」
リストラの事を告げてきておいて、今現在、全力で謝っているのは、俺の直属の上司である佐々木部長だ。
この人は、俺が入社した頃から世話になっている人で、俺から見たらとても恵まれた上司だった。こっちのミスについては、多少は叱られるが、部長が代わりに責任を持って対応してくれるし、俺達のような下っ端でも手柄を立てれば、その事について差別無く評価してくれる人なのだ。
付いていくならこの人しか居ない、と思えるぐらいの出来た人間なのである。俺が女性だったら、間違いなく惚れてたな……いいか? 女性だったらだぞ! 俺には、そんな気は一切無いからなっ!
「えーっと……一体何があったのか、っていうのは、説明してもらえたりします?」
「当たり前だろう。」
「それで……。」
「あぁ。新しく就任する次期社長からの命令で、水島を含めた数名がリストラの対象として挙がったんだ。
しかし、その挙がった数名が全員、ウチの会社のエースとして活躍しているメンバーばかりだから、殆どの上役は説得したのだが、聞く耳も持ってもらえず、どうしようもなく伝えているわけだ。」
「え? マジですか……それで、一体誰なんですか? そんな事言い出した次期社長っていうのは……。」
「永田一也って覚えているか?」
永田一也? 永田……永田……あぁ!? 思い出したっ! そんな奴居た!
でも、永田って……。
「あぁ、あの初日から遅刻してきて、大した事もしてないのに上から目線で発言してきて、でも仕事振っても言い訳ばかりして何もしなくて、仕事終わってないのに定時時間を過ぎたらサッサと帰る。
トドメに、いつの間にか来なくなって、その所為でみんなが迷惑受けた上に、納期に間に合わせるために火が付いた状態なのに、全員でフォローしまくらなくちゃいけなくなった、あいつですか?」
「何ていうか……ある程度、報告は受けていたが、そこまで大変だったのか……。
まぁとりあえず、その永田だ。」
「そいつがどうかしたんですか?」
まぁ、この流れでいくと……よく、あるよね?
ほら、ドラマであるようなパターンでさぁ、こいつが取締役の息子だ、とか言い出してきて、過去の出来事に対する嫌がらせで、リストラに……とかの流れっぽいけど、現実で本当にあるもんなのかね?
「そうだ。永田は……実は、社長の息子でな。」
あったよーっ!
現実に発生したよーっ!! 嘘だろー?
ん? でも社長って……。
「……あれっ? でも、社長と名字が違いませんか? 社長の名字って「上杉」ですよね? それに離婚もしてないから、奥様側の姓ってわけでもないですし……」
「あぁ。実は社長夫妻には子供がいないんだよ。で、永田っていうのは、どうも社長が若い時に不倫した時の相手の子供らしくってなぁ。認知もしているそうなんだ。
社長から見ると、可愛い息子なんだそうだ……。」
「そういう事ですか……仕返し、っていう所ですかね?」
「間違いなくそうだろう。リストラ対象となっているメンバー全員が、永田の面倒を見ていた経験がある。」
「どこでも問題児だった、ってわけですか……でも、そんなのが次期社長って、大丈夫なんですかね? 失礼かと思いますが、先が知れてますよね。」
「あぁ。大体のメンバーは、お前と同じ答えに辿り着いているよ。しかし皆が皆、フットワークが軽いというわけでもなくてな。
次期社長の言動は諦めて、それ以下のメンバーで何とかしようという考え方の者も多いのが現実なんだ……。」
そうだよなぁ。
俺みたいに独り身ならまだしも、家族を養っている人達や子供が小さい人達が、潰れるってわけでもないのに、そうそう簡単に会社を辞めるわけにはいかないもんなぁ。
「まぁ、納得はいきませんけど……そんなのが上に立つんじゃ、ここに残ったとしても、俺達には何もメリットは無いですね。
大人しく、退職させていただきます。」
「本当にすまない。」
「いやいや、佐々木部長は何も悪くないですよ。あの時に目を付けられてしまったのは、運が無かったんでしょうね。
それじゃ、私はこれで失礼しますね。」
「あっ、ちょっと待ってくれ! お前の実力だったら引く手は数多だと思う。だが、良ければ俺の知り合いの伝手がある会社を紹介しようと思うんだが、どうだ?」
「……いえ。せっかくの申し出はありがたいのですが、暫くゆっくりしてから次を探そうと思います。」
「そうか……そうだな。休める時に、休む事も大事だな。分かったよ、だが、困ったら連絡をくれよ。取引先や懇意にしてくれる所は結構あるんだからな。」
「はい、ありがとうございます。それでは、失礼致します。」
~ ~ ~ ~ ~
そのまま俺は部署に戻って、荷物をまとめる。これから先、もう、ここに来る事もないだろうしね。
その後、世話になった人達に挨拶をして、家に帰る事にした。
挨拶してる時に、泣いてくれてた後輩の女の子とかがいたけど、もしかして……べ、別に、か、勘違いしてるわけじゃないんだからねっ!
……おっと。動揺して、ツンデレ口調になってしまった。
そんな訳無いじゃないか。期待するだけ無駄だ、大人しく帰る事にしよう。
「……ハァ。」
って、やっぱ溜息しか出ねぇよなぁ。辞めさせられる理由が、昔扱かれたからって、ありえねぇよなぁ。
裁判でもやれば勝てるんだろうけど、時間も金も勿体無いしなぁ……まぁ、とりあえず貯金は結構あるから、職を探しながらも、しばらくはゆっくりしようかなぁ。
あ、そういえば、ここ数ヶ月ほど休みらしい休みも全然取ってなかったし、旅行に行く、ってのもありかもしれねぇなぁ……。
――サマ――
ユウ――マ――
「ん? 何だ? 耳鳴り、かな?」
――勇者様
「マジか!? 俺、幻聴まで聞こえるようになっちまった。
えーっと……ここら辺で、良い病院ってあったっけっかなぁ?」
そんな事を独り言ちながら、スマートフォンを取り出して、地図アプリで病院を検索する。
――幻聴などではございませんわ、勇者様。どうか、私めの願いを聞き届けていただけませんでしょうか?
あ、また聞こえた。
何か、幻聴じゃないとか言ってるし……頭に直接響いてくるような声なんて、怪しい以外に何も感じないんだけど? まぁ、このままだと何も進まなそうだし、とりあえず話を合わせてみるか……。
「願いって何? っていうか、あんた誰?」
――はい。願いとは、私達の住む世界、エヴァンガルドへお越しいただけませんでしょうか? そして、私に力をお貸しいただきたいのです。
「あれ? もう一個の質問……まぁ、いいか。
何だろ? それって、異世界召喚ってやつかい? 本当にそんなもんがあるのか?
何か、嘘くせぇけど……まぁ、いいや。会社もクビになっちまったし、特に今はやる事も何も無いから乗ってみるか! いいぞ! で、何を手伝うんだ?」
――ありがとうございます!! それでは、これよりお招きさせていただきます!
だから、もう一つの質問に答えろっつーの……あ、辺りが白くなってきたぞ。それに、何か意識もボーっとしてきたなぁ……本当に異世界召還ってあるんだなぁ……。
でも、目が覚めても全然違う世界じゃありませんでした、って話だったら恥ずかしいわぁー。
そしたら…次の仕事……がんば、って、探さなく、ちゃ…………。
~ ~ ~ ~ ~
こうして俺は、めでたく異世界に旅立つ事になったんだ。
……え? 勿論、今でも後悔してるよ。
何で、こんなにヤケになって、こんな話に乗っちまったのか……。
「……様、勇者様!」
「……ん? ここ、は?」
「勇者様。よくぞ、私めの呼び掛けにお応えいただきました。」
目の前に佇んでいたのは、とんでもない美少女だった。
髪は綺麗な黄金色で、肩の下辺りまであるサラサラのストレートヘアーだ。そして、眼の色も髪と同じ黄金色で、透き通るような白さの肌とマッチしている。
最後に、皆も気になるボディラインについてだが……出るところは出ていて、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいるという、グラビアアイドル並みの戦闘力を持っているようだ。
俺の観察眼で見たところによると……間違いなく、Eはあるだろうな。
「……どうされましたか? 私の胸に何か付いてましたでしょうか?」
「あ、ごめん。美少女が目の前に現れたうえに、素晴らしいものをお持ちだったもので、つい、目の保養をさせてもらってました。」
「まぁ、勇者様ったら……。」
俺を呼び出した少女は、両手で胸を隠しながら顔を赤らめていた。
流石は美少女、絵になりますねぇ。ホンマにかわええやないか……って思わず、嘘臭ぇ大阪弁が出てしまった。
「所で、俺を呼んでいたのは君なのかな?」
「はい! その通りでございますわ、春介様。私があなた様をお呼びしたのですわ。
あ、名乗り遅れて申し訳ございません。私は、この帝国の第一皇女のマリア・フォン・メンフィスと申しますわ。」
おおぅ、この見目麗しい美少女は、皇女様でしたか。
……いや、ちょっと待て。気になる所は、そこじゃないだろ。
この皇女様は、何で、俺の名前を知っている?
「……俺、名乗ってないよな? 何で皇女様は、俺の名前を知っているんだろうか?」
「それは、この世界にある【魔導技能】(マギスキル)のお陰ですわ。」
「まぎすきる?」
「そうですわ。私には、【固有魔導技能】(ユニークマギスキル)の【異世界の目】(アウターワールドセンス)というものがありますのよ。これで、春介様の世界を見て、知る事が出来たのですわ。」
「ほぉー、やっぱファンタジーな世界は違うねぇー……。」
「はい、こちらの世界につきましては、後程ご説明させていただきますわ。」
「あぁ、分かった。
んで、呼ばれたは良いけど、俺は一体何をすれば良いんだ?」
「そうですわね。それでは、早速……。」
そう言いながら、俺に歩み寄ってくる皇女様のその手には、銀色に輝く杭のようなものが握られていた。
いつの間に、そんな物を持っていた? いや、それよりも、そんなデカい物、どこから取り出したんだ?
そんな疑問を思い浮かべながらも、歩み寄ってくる皇女に目を奪われ、身動きがとれない。
静かに歩み寄る皇女様。
えっ? それで何す……。
トスッ
「死んでくださいまし。」
えっ? 何? 俺…………刺されたっ!?
刃物を人を突き刺すには、相当な勢いか、腕力が必要になるはずだ。それも、胸を刺して背中まで貫通させる程に突き刺すとなると、余程の力が必要になるだろう。
お世辞にも、目の前にいる皇女様の細腕からは、容易くそれをやり遂げる怪力などあるようには見えなかった。
しかし、目の前の女性は、いとも簡単に春介の身体を貫いたのだ。
そして、皇女様は何事も無かったかのように、突き刺した杭をゆっくりと引き抜いた。
刃物が抜かれた瞬間、俺の身体から血が吹き出す。
血っ、血がっ!? こんなに沢山っ!!
痛い! 痛い、いた…………くない? あれ? 痛くない、な。
何故だ? 身体を杭で貫かれたのに……貫かれた部分を見てみれば、ありえない量の血が吹き出しているじゃないか。
それなのに、何故、痛みを感じない?
余りの出来事に、痛みすらも感じていないのだろうか?
そうだよ。呼び出されたと思ったら、急に刺されたんだもの。
頭が追い付いていないんだ。きっとそうだ。
あぁ……意識が、薄れて、いく…………でも、痛みを感じずに、死ねるのなら、まだマシなのかもしれない……な…………。
そこで、俺の意識を途切れる。
俺の人生は、ここで終わった。
2015/12/26
世界、国の名前を修正
・ラ・クルース→エヴァンガルド
・マリア・フォン・ヘシュキュア→マリア・フォン・メンフィス