006 一つ目のユニークスキル
無事完食した俺らは明日以降に備えるために装備を整えることにした。マップを開いて場所を確認する。ほとんどのゲームは作業効率をあげるために宿屋、武器屋、防具屋、それとアイテムなどを扱う商店などが密集していることが多い。
例にもれずアールさんもそうであり、プレイしていたことろと配置は微塵も変わっていなかった。
「武器と防具あるけどマーはどっちから買う派?」
断然俺は防具派。別に慎重な性格をしているわけではない。防御力が高い方が継戦能力が高いと思っているからだ。まあ攻撃力が高ければ戦闘が長引くこともないのだろうけど。検証したことがないのでどっちが効率がいいのかは知らない。ただ、なんとなくだ。
「武器」
「まあそんな気はしていたけどな」
最悪俺は装備一式揃わなくていいと思っている。序盤にしてはかなりの高STRを持つマーがいればほとんど無双状態だろう。ここに武器のSTRも追加されればグリーといえど目ではない。
マップを閉じて歩く。武器屋はものの数秒でついた。
早速扉を明けて中に入る。中に入ると金属の匂いがした。無造作に立てかけられている安物の武器の間を縫って店主のいるカウンターまで進む。雑に扱われているのはSTRが一桁くらいのなまくらだ。自分にあった武器と流派の確認をするのはいいかもしれないが、それも最初だけだ。
マーはベテランだし自分の獲物くらいとっくに決まっているのだろう。迷うことなく店主に話しかけた。
「いらっしゃいお嬢さん。何かお探しで」
「……メイスはある?」
「ああ、メイスね! 最近極上のもんを買い取ったんだ」
そういうと店主はカウンターの奥に消えていった。おそらく倉庫にでもなっているのだろう。入ったことがないので何とも言えない。
「よいよいは?」
「俺はソロだったし片手剣と盾をメインに使ってたな」
攻守ともにバランスがとれているこのスタイルはソロにぴったりだった。その実バランスが取れているということは器用貧乏でもあるのだが。まあ、俺にそこまで強さは必要なかったから困ることもなかった。
「でも今回は違う武器を使ってみたいな」
「おまちどうさん」
店主が奥から戻ってきた。手に抱えている鈍く光るメイスをカウンターに置いた。
「……これは?」
「あんたら龍巣の洞窟って知ってるか」
もちろんと二人でうなづく。
シーリュスの町の近くにある洞窟の名前だ。その洞窟には龍が住むと古くから伝承にある。無謀な若者がその洞窟に入り、帰ってこないということで、町の人間で有志を募り、そのだ洞窟に行くことになる。しかしそいつらも帰ってこないということで旅人であるプレイヤーに安否をたしかめてほしいとクエストが発生するのだ。
龍はもちろんいない。序盤で発生するクエストに最高クラスの強さを持つ龍がボスとして登場するのはさすがに卑怯だ。
龍の正体は何万匹という蝙蝠型のモンスターのせいだ。二か月に一回くらいほとんどの蝙蝠――バーディアスが洞窟から出る。何万匹が洞窟から飛び立つその景色が龍に見えるのだろう。
当然蝙蝠が飛び立つときに洞窟を攻略しないと何万匹のこうもりに囲まれてあっけなく死ぬことになる。
一体一体のステータスは大したことはないのだが、数の暴力と確率は低いもののランダム状態異常付与が地味にうざい。ゲームが発売された当初はこのサブクエストの攻略に半年くらいかかっていた。今では情報も共有されて初心者でもなんなくクリアーできるみたいだけど。
「このメイスはその最奥で拾ったものらしいんだ」
「らしいとは」
「言ったろ? これは買い取ったものなんだ。売ってきたやつの受け売りさ」
「……あやしい」
「とりあえず手にもって見てみれば?」
マーはメイスを手にもつと、まじまじと見つめ始めた。
「……STR200だって」
「ほー! 結構な業物じゃん」
多くのプレイヤーは初期ステータスは一つの項目約五十前後だし、武器も五十前後だ。つまり序盤ではSTR,DEFそれぞれ百もあれば十分やっていける。それを踏まえるとかなり好調な出だしだ。
メイスを俺も見てみる。マーから受け取ると俺も持って動かしたりしてみる。
ポップアップウィンドウが現れた。
「……よいよい?」
バーディアスのメイス
ーーーーーーーーー
STR 200
エンチャントスキル
ランダム状態異常 2%
ボーナスSTR +50
ーーーーーーーーー
「STR250じゃないのか?」
「いや200」
「それは武器自体のSTRだろ?」
「……もしかしてよいよい。エンチャントスキルまで見えてる?」
「ああ、見えてるけど……あれ、ふつう見えなかったっけ」
「鑑定してもらわないと無理。さっき右目が右目が赤くなってた。なんかのエーアレストスキルが発動したのかも」
早速スキル画面を開き、マーと一緒に見る。すると一番上の???が消え、代わりに名前が刻まれていた。
森羅の緋眼 すべてを見通す。
「説明ふわふわしすぎだろ。なんもわからんわ。知ってるかこれ」
「……ううん。察するに鑑定関係のスキルみたいだけど」
「どうせなら戦闘系のスキルがよかったなー」
「こればっかりはね」
「そうなんだけどさ。……それで、武器はそのメイスにするのか?」
「……申し分ない性能」
まあ、確かに。序盤じゃ攻略できないダンジョンのアイテムを売ってくれた人さまさだ。いわゆる掘り出しものというやつだ。このゲームの武器屋や防具屋では品揃えが変わらない固定武器と乱数で調整されている掘り出し物というジャンルしかない。
プレイヤーが店に売ってもそれを他のプレイヤーが買うことはできないはず。プレイヤーの持っている武器が欲しい場合には直接トレードを申し込むか、バザーを介してやりとりしなくてはならない。
だからダンジョンの最奥で云々の話はこの武器の設定なのだと思う。
「それで、いくらなんですかこの武器」
「五千ギルカだ」
「たっか」
さっきの食事代でいくらから飛んでいき、今の全財産は8500ギルカ。今日一泊で3000ギルカ飛んで行く。これを買うと残るは500ギルカになってしまう。なんてさみしい財布になるのだろう。ちなみに最初の町の武器やら防具の相場は二桁だ。
「言っておくがびた一文まけねえからな」
そう言っておっさんは眼光を鋭くする。家計が火の車なのかあるいは買いとり値が高かったのか。間違いなくまけてくれなさそうだ。しょうがなくその価格で買うことにした。モンスターを狩ればなんとかなるだろう。
「……鑑定もしてもらわないと」
「ああ、そっか」
森羅の緋眼とやらを持っている俺は鑑定してもらわなくてもエンチャントスキルの効果はちゃんと発揮されるだろう。でもマーが使うので鑑定してらう必要があった。
「鑑定料は500ギルカだ」
「……狙いすましようにぴったりだな」
俺たちの懐事情を知っているのではないだろうか。必要経費なので払う。鑑定を済ませたメイスを装備してもらい。俺たちは店から出た。
「今日の買い物はこれで終わりだな」
野宿するというなら話しは別だが。宿代にまで手をつけたくはない。
「もう六時だ。どうする? 食ったばっかだし夕飯は八時くらいにしときたいんだけど」
「……そうね。海岸とか行きたいかも。ちょうどサンセットが見える」
「あー確かに」
町の風景や森がやたらと赤い。見上げると、太陽が沈みかけていた。
「宿に帰るのはまだ早いし、海岸に行くか」