004 見よ、俺の魔力!
俺もあれから色々と試行錯誤しながらメニュー画面を出そうと試みているのだが、一向に出ない。
「……うーん。説明が難しい。意識しない意識? みたいな?」
「んだそりゃあ。全くわからんぞ」
「腕とか足とか動かすとき意識しないでしょ? ……あんな感じ」
「よくわかんねえけどフィーリングで生きているお前が羨ましいよ!」
おおおおお! と気合いにのせてメニュー画面を開こうとするが、やっぱり開かない。だんだんイライラしてきた。
「意識しちゃダメ。体を動かすとき誰も意識していないでしょ?」
「……つまり体の一部として扱えってことか?」
「そう……かな」
確かにこれから足を動かすぞおおお! と意気込むやつは皆無に等しいだろう。生まれたときから何気なく意識せずとも手や足は動かしていたはず。
しかしそれは生まれた頃からの言わば習慣みたいなもので、この年になってそれをやれというのは難しい。簡単に言ってしまうと手や足が一本増えたことと同義なのである。自分の体に腕がひとつ増えたからといってすぐさま動かせるやつがいるのだろうか。しかしやらねばステータスの確認もできないのでやるしかないのだが。
座禅を組んで雑念を追い払う。
思考をクリアに保ち、なんとかメニュー画面を出すことに成功した。といってもいつまでもメニュー画面を開くたびに座禅を組んでいる暇はない。戦闘中に開く場面に遭遇するだろうし。要練習だな。
「おお! よいよいも開けた」
「みたいだな」
とりあえずメニュー画面からステータスを開く。
【名前】 法月 やよい 【所属】 【種族】 人間
【レベル】 3 【状態】
【HP】 30 【MP】 40000
【STR】 25 【DEF】 40
【INT】 500 【VIT】 40
【AGL】 60 【DEX】 30 【LUC】 5
「……バグってんじゃねこれ」
インテンスの値の高さもさることながらMPとかもう0の数が多すぎて目を疑った。他のステータスは平均を少し下回るくらいだ。俺はやり直さないが、大半の人はこれが初期ステータスであったらもう一度キャラクリエイトから始めるだろう。
「……そもそもこのゲームは魔法が使えない」
「まじで?」
「……うん。このゲーム唯一の汚点と言われたくらい」
魔法一つあれば攻撃のパターンなども増えるだろうし、攻略班の方々は不満を持っても仕方ないのかもしれない。ただ俺は最初のシーリュスの町でスローライフをおくっていたので、魔法が使えればいいなあと思う場面に遭遇したことがない。そもそも魔法が使えないと初めて知った。
「じゃあMPとINTの項目はまるっきり無駄ってことか?」
「……そうなる」
「まじかよ」
せっかく高い値なのに。それを除けばただの雑魚になってしまう。
まあやり直すこともできないだろうし、しょうがないと割り切ることにした。幸い俺にはさつきと言うこのゲームの中でそれなりに名うてのプレイヤーがいる。
次は初期から持っているスキルを見ることにした。
スキルの画面を開くと???が三つ並んでいた。
「そういや発動するまでどんなスキルかわからないんだっけ」
確か初期から持つスキル――ユニークスキルは最大五つ。三つという数は極めて平均である。さっきのステータスと合わせてもTHE平均って感じだ。
「さつきはどうだった?」
「……一つだった」
「そりゃあ、なんというか。ご愁傷様」
スキル0はないので一つというのが最低の数と言うことになる。ちなみにスキルの数が少ないからと言って質が上がるようなものでもない。配られるスキルの数も内容もすべてランダムなのだ。
「さっさと???のスキルを発動させておきたいところだな」
「……そうだね」
「ふぅ。やっと人心地ついたよ。ありがとうな、俺を助けてくれて」
「おっさん」
やたらと荒い息遣いをしていたおっさんが復活したようだった。まだ肩で息をしているが、喋れるくらいにはなったらしい。
改めておっさんを見てみる。薄い質素な布で編んだ服を着ている。そういえばシーリュスの町でこんな商人を見たことあるような気がする。不思議なのは武器らしい武器がないことだった。持ち物といえば腰につけている布袋くらいか。
「なんであんなとこに居たんですか」
森の中は危機でいっぱいなのは町の人みんなの共通意識だ。そもそも森の中へ入るなと言ってくるのは町にいるNPCなのだ。言った本人が自ら破るとは。それに一人で入ったことも理解できない。町の自警団に幾らかの金を払えば護衛くらいはしてもらえる。さすがに遠出は無理だが、近辺の森に入るくらいならできるだろう。あるいは一人で入る必要があったのだろうか。
「いやあ、何。ちょっと落し物をしてしまってね」
「……落し物」
ぼそっとさつきが呟いた。知っているのかとアイコンタクトで問う。さつきは首を振った。
まあこのゲームはサブクエストもかなりの数になる。それぞれに発生条件が決められており、中には月、日にち、時間帯、場所まで事細かに設定されているものもある。攻略WIKIも十分ではないので知らないクエストがあったとしても不思議ではない。
それでもさつきが知らないのは稀なのだが。さつきはクランにも加入していたので仲間内の情報交換やらやっていただろうし。
「まあなんにせよ、一人であの森に入るなんて危ないですよ。餌になりたいんですか」
「いやーごめんごめん。そうだ君らの名前はなんだい?」
「えーっと、俺はよいよいって言います」
少し迷った。本名でいくかアダ名でいくか。ここはゲームなんだし本名というのもなんとなく恥ずかしいので結果的にはアダ名のほうにしておいた。本名は保月 やよいである。名前の最後の二文字をとり、なぜかそれを繰り返すアダ名である。
「……私はマー」
そうさつきはぶっきらぼうに言い放った。マーというのは確かゲーム内でよくさつきがつける名前だったはず。偽名と思われてややこしいことになりたくはないので俺もさつきのことをマーと呼ぶことにした。
「そうか。よいよいにマーね。よろしく。君たちはここになんの用で?」
「え、えー。観光、かな」
「それは珍しい。地元の人間からしてみれば特に珍しくもない町だと思うけどね。なんか変な噂でも聞いてきたのかと思ったよ」
「変な噂?」
「ああ。まあ眉唾ものだよ。そうだ、助けてもらったお礼にいくらかお金をあげるよ。観光の足しにでもしてくれ」
「いいんですか!」
正直お金は喉から手が出るほど欲しい。装備は整えたいし、野宿というわけにもいかない。それにうまいものも食べたいし。
「命に比べたら安いけど、遠慮なく受け取ってくれ」
「じゃあ遠慮なくいただきます」
おっさんは腰にくくりつけていた布袋から札を一枚取り出し、俺に手渡してきた。あまりゲーム内のお金などまじまじ見る機会がないので、これがいったいいくらの価値を持つお金なのかわからない。
「確か……一万ギルカだっけかこれ」
「……たぶん」
さつきもおぼろげらしい。中央に王様。その周りに稲が描かれている。ゲーム内のミニゲームであるクイズで確かこれが出たことがあった。そのとき一万ギルカであったはずだ。一食七百ギルカ~千ギルカなので一ギルカは一円という結論が出ている。つまり換算すると一万円か。
なかなか高額だ。俺がほくほくしているとおっさんは軽く挨拶すると立ち上がって町の中へ入っていった。
お一人さま一泊二食付きで二千ギルカくらいだった気がする。最初の町なので宿屋の設備も値段も大したことはない。
二人で四千ギルカ。普通に暮らすだけなら二日は滞在出来る計算になる。もっとも装備は買いたいので、外のモンスターを狩ってお金を稼がないといけないだろうが。
まあ、それも明日以降の話になるだろう。ここにきてから時間など気にしたことがなかったが、腕時計を見てみるともう五時だった。確かに太陽にも日中のエネルギーを感じない。夜になるのも時間の問題だろう。
俺があれこれ考えているとマーのお腹がぐうとなった。
「おい、今の」
「……なんのこと?」
そうか。なかったことにして欲しいのか。
「でもまあ確かに腹減ったよな。宿取るついでにそこらで食うか」
「うん!」




