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002 森のくまさん



 道を歩き始めたのはいいのだが、代わり映えしない風景に早速飽きだす俺。そういえばゲームの中も街道は基本的に道の役割しか果たさなかった。



 もちろん途中でサブクエストを受注できるNPCとかがいたりもするのだが、それは珍しい。基本的には移動中は見るものがなく、観光ではないのだ。敵の脅威から退けられればいいというのももっともな話であるが、俺にはいささか物足りない。




 暑いしせっかく二人してどはまりしているゲームの中に来たのだ。木陰で日も入らない森の中を歩こうとさつきに言った。



 マップがないのでなんとも言いにくいが、最初の町とはいえどちゃんとダンジョンはあった。よしんばそこも見てみたい。



 女子に草木を分けて先に進めというのもあれなので、先頭は俺が務めることに。腰ほどもある強靭なしなりを持つ草を払い、足でならす。小さな木などは容赦なくへしおって一応の道を作ることも心がけた。なかなか骨がい折れる作業だが、やることもなくぼーっと道を歩くよりは楽しかった。



 まあそれは男の悲鳴を聞いたことで吹っ飛んでしまった。




「……今のなに」


「さあ。行ってみるか?」



 さつきがうなづいたのを見て、俺は声が聞こえてきたであろう方を目的地にする。やることは変わらないんのだが、自然と作業に焦りが出てさっきよりもハイペースで獣道を作っていく。



 道が開けた。

 大きな切り株だけがある空間だった。いままであれほど茂っていた草もここだけ円状に刈られていた。

 ゲーム内でキャンプなども設置するために作られたスポットだ。



 観察していると一人の男が六匹のうさぎらしきものに迫られているのが見えた。



「ラービット、か?」


「……嘘」



 ラービットというのはアールさんの序盤に出てくるモンスターだ。モンスターのことが何もわかっていない初心者にとっては十分と脅威になりうる。まずあいつらは仲間を呼ぶ。そんなに音量はないのに叫ぶだけでどこからともなく二、三匹程度のラービットがやってくるのだ。次にラービットの脚力――AGLが以上に高い。



 人の背丈なんてゆうに越す脚力で上に下に右に左、散々攪乱したあげく背後からほかの個体が攻撃をを仕掛けてくるのがやつらの常套手段だ。初心者が相手取れるラービットの個体数は三体までだと言われている。それ以上はプレイヤーの処理能力が追い付かなくなるのだ。



「……どうする?」


「一人三匹か」



 といってもそれは装備がまともな時の話である。今は何も装備していないし、持ち物といってもスマホと腕時計があるだけだ。とてもじゃないが戦闘向きとは言えない。



「まあラービットを倒す必要はないもんな。最悪あの男を連れて逃げればいい」


「……と、いうことは」


「ああ。あのおっさんを助けよう。勝てないからって見捨てるのもやだしな。俺がおっさんとラービッの間に割って入る」


「了解」



 足がすくむがそれを気力でねじ伏せ、おっさんとラービットの間に割って入る。突然の乱入者にラービットは俺の方を敵意ある目で見てくる。逆毛だった真っ赤な毛並みと闇のような黒い瞳。普段のうさぎを知っている身からすれば異様にしか思えない。



 三匹ほど俺にかかってくるのが見えた。それを払うそぶりを見せればこいつらは一斉に襲い掛かってくる。



 無視しておっさんの手を引いてここから逃げることにする。



 一匹が俺の脇腹に食いついた。ラービットの牙が服を破り、俺の肌に突き刺さる。空いている手で首根っこをつかむと後ろに投げる。



「逃げるぞおっさん!」


「あ、ああ」



 勝てるかもと思ったわけではないが、それなりにやれるんじゃないかと思っていたが、どうやらそれは甘かったらしい。モンスターはモンスターだ。

 来た道をそのまま戻る。後ろにさつきが、そしてラービットの群れが近づいてきているのを感じる。



 必死に道を戻っていると、急に腕が重くなった。振り返ってみてみるとおっさんが石につまづいてこけていた。崩れたバランスをなんとか立て直し、おっさんもなんとか立たせる。



「あ、あれは」


「いいからさっさと立ってくれって! 後ろから追ってきているんだよ!」


「前を見てくれ!」



 おっさんが切羽詰っている声色で言うので、手を離し前を見る。俺が作ってきた獣道を横切る一つの巨体があった。

 腕は四本。二本の足でどしどしと踏み歩くそいつは初心者キラーとまで言われたモンスターだった。



 名前はグリー。どこかクマに似ているのだが、クマをはるかにしのぐ巨体。四本の腕から繰り出される手数の多さと一つ一つの威力の大きさ。



 ただ四本の腕なのでバランスが悪く、移動スピードは遅い。出会ったら一も二もなく逃げろとまで言われている。



「……よいよい。これはまずい」


「……ああ」



 グリーから目線を外し、ちらっと後ろを見る。ラービットにも距離を詰められていた。



 この獣道を避けて逃げるとおそらく俺たちはこいつらに追い付かれる。ラービットは体の小ささゆえ草木の影響は受けないだろうし、グリーもその巨体にとって草木という障害は障害に成りえないだろう。



 さっき俺の脇腹を食いついてきたあたりこいつらが愛玩動物ということもなさそうだ。



「戦うしかねえな」


「よいよい!?」


「しょうがねえだろ。倒せるとまでは言わないけど、道をどけないと逃げることもできない。俺がグリーをどかすまでなんとか耐えてくれ」


「……どうする気?」



 見慣れた灯台といい、ラービット、グリーといい。まるでゲームだ。最初こそ模型とも思っていたわけだが、動くラービットやグリーなどはどうやっても再現できないだろう。夢かとも思ったが、潮のにおいや汗が肌を伝う感覚、ラービットにつけられた傷の痛みが夢ではないと教えてくれている。



 非常に荒唐無稽な話になるが、おそらくここはゲームの中だ。

 どういう原理でこんな非現実的なことが起こっているのか皆目見当もつかないが、それはおいておく。



 ゲームの中であるならば、プレイしていた頃につかえていたスキルやアビリティは使えるはずだ。



「もしかして」


「ああ。アビリティで倒す」


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