018 女子の部屋だぜ!
木製の階段を登り、二階へ上がった。正面に俺達がここ最近泊まっている部屋がある。フランバーノさんの部屋は登ってすぐ右の部屋だと女将から聞いた。鍵穴に鍵をさし、ゆっくり回す。きぃ、と金具が微かになった。
中には当然、誰もいなかった。間取りも大して違わず家具も似たようなものだ。
少し狭いかな?
女将に聞いたところ今日はまだ清掃はしていないそうだ。朝の仕込みと昼の接客で普段から部屋の清掃やベッドメイキングは四時くらいから行うのが日課らしい。それを踏まえて見てみる。全然散らかっていなかった。
俺のベッドのシーツなんてぐちゃぐちゃなのに。これが性格の違いか。
しかし、普段からこうなのか。もしくは今日で出て行くから綺麗にしていったのか。そこら辺はわからない。
とりあえず部屋の中を歩く。方針としてはフランバーノさんが自分の意思で出て行ったのか知りたかった。万が一何者かの意思が介入しているのなら、フランバーノさんを助けることにやぶさかではない。知らない中でもないし。
その半面、自分の意思で出て行ったのなら俺はどうもしない。俺にはフランバーノさんの意思を歪めるほどの権利はない。知らない中ではないが、それでも出会って数日程度なのだから。そこら辺は弁えているつもりだ。まあ、挨拶くらいはして欲しかったが。
何かないかと部屋を散策する。感知スキルは動くモノを捉えているので、今回の捜索には役に立たない。森羅の緋眼も役に立ちそうになかった。
テーブルの机を開けてみたり、裏を見てみたりする。衣装箪笥を開けてみる。そこには一着もなかった。全部持ち出す暇があったのだとしら十中八九自分の意思でここから出て行ったことになる。あるいは最初っからなかったのか。
そういえばフランバーノさんの服装はワンピース姿しか見ていない。これはワンピースしかもっていなかったと考えても問題はあるまい。
「……俺の勘違いかね」
ひと通り見て回ってしまい、探す場所がなくなってしまった。勝手に入ったことに後で謝ろう。そんなことを考えて出ようとしたとき、部屋の片隅にある寝具に目がいった。いや、まずいだろ。仮住まいだとはいえ、女性のベッドを漁るなんて変態だと思う。
ちゃんとそういう意識はある。なのに俺は何かに引き寄せられるかのように、ベッドに近づいていった。
俺らの部屋にあるのと同じような固そうなベッドだった。シーツも整えられていて、ここで一晩過ごしたとは思えないほど綺麗だった。
生唾を飲み込む。とりあえず枕をどかしてみる。何もなかった。次はシーツをめくる。これにも何もなかった。
段々勘違いかな、という気持ちが強くなってくる。マットレスと木のフレームの間を見てみる。ここにもなかった。もうやけくそでベッドの裏を見てみる。ほこりもなく、清潔そのものだった。暗くて見づらいが、しろい何かがベッドのフレームにくっついているみたいだ。机の上から羽ペンを持ってきて、つついてみる。
結構手間とったが、なんとか取れた。落ちた白い何かをまた羽ペンを駆使して引きずり出した。
「なんだ、これ」
手紙、らしい。手紙は四重に折られていた。折られた一面には粘着性のある葉がひっついていた。葉をひっぺがして、明かりにさらしよく見る。何かで叩いたみたいで、青みがよく出ている。そして潰れた葉から白いねっとりした液体が出ていた。どうやらこれのおかげでベッドの裏にくっついていたみたいだ。
手紙に宛名はない。
が、おそらく女将に宛てたものだろう。最初にこの手紙を発見するのは女将にきまっている。何日この粘着質が続くかわからないが、ものの三日もすれば乾燥して落ちるだろう。普通の客はベッドの裏などまず見ない。見るとしたら掃除をする女将だろう。実際、ベッドの裏にはほこりなどなかった。
「……」
正直好奇心はある。が、さすがに見るわけにもいかないだろう。
後ろ髪をひかれる思いだが、必死にそれを振り切り、部屋から出た。
「おや、もう終わったのかい」
「うん。はいよ、女将さん。手紙おっこってた。後鍵ね。ちゃんと返したよ」
「あいよ」
一階に降りると、偶然女将と鉢合わせになった。
鍵と手紙を渡す。女将は手紙を広げて見始めた。
それを見届けて俺は踵を返した。また暇になってしまった。少し昼寝でもしようかな。
そう考えて階段に足をかけたところで、女将から呼び止められた。
「ちょっと待ちな。これあんた宛てじゃないかい?」
「俺?」
女将から手紙を受け取った。女将は客に呼ばれてどっかいってしまった。
一人残された俺は手紙を開いてみた。
急啓
こんな形でお手紙を残すことになったのをお許し下さい。
本来ならば直接渡すべきなのでしょうけれど、どうやら私にはそれができそうにありません。あなたまで迷惑がかかってしまいます。
さて。急ですが私はこの町を発つことにいたしました。理由についても詳しくは話せません。
私としても長くこの町に滞在し、色々なものを見たいと思っていたので残念です。
あなたとあったのが遠い日のように思われます。
今でも鮮明に思い出すことができます。夕暮れ、波の音。反射する海。そのどれもが私の大切な宝物です。
できることならあなたにひと目あっておきたかったのですが、何分急なもので無理でした。そのため、こうして筆をしたためる次第になりました。
最後に。素敵なお名前をどうもありがとうございました。一生忘れません。
草々
最後にかわいい文字で私の名付け親に渡してください、とあった。
よく女将さん俺だとわかったな。
「どうだったんだい」
接客から開放された女将が俺のほうに来た。
俺一人だと持て余す気がするので、女将にも見せてみることにした。手紙を渡す。
読む間、女将は一言も言わなかった。読み終わってぽつりと女将が漏らす。
「あんた……振られたのかい?」
「女将はそればっかだなあ」
苦笑いする俺。
「でも、どういうことだと思う?」
「あたしに聞かれてもねえ。この町を出る理由とやらに心当たりはないのかい?」
「ないんだなそれが。迷惑ってどういうことだろ」
「記憶を取り戻すためにどっかいくって話しじゃないのかい? あんたも自分の人生があるだろう。手伝ってもらうわけにはいかなかったのさ」
「……」
いまいち納得できないが、本人がいないのならいくら悩んだところで答え合わせはお預けだ。女将から手紙を返してもらいそれをアイテム欄にしまった。
女将は厨房に消えていった。とりあえず俺も宿屋から出る。今から寝ても部屋の掃除で追い出される。そんな時間帯だった。
マーと合流してもいいが、マーのいる地点に行くまでにゆうに数時間はかかってしまう。
俺はマーが帰ってくるまで砂浜でステータス上げをすることに決めた。




