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016 新しい力






「……」



 倒れたフューズ。アビリティのクールタイムが残る俺。そしてもう一人の男は動じることなく静観していた。



「……その男は思慮にかける。戦いとはカードを切らせたほうが勝つ。お前の流派は流骨拳法だな? 三つのアビリティしか存在しないデフォルトの流派。はっ、正直話しにならんな。なめているのか。武器は? 防具は? それが戦いに赴くものの身なりか」


「あ? 急にどうしたお前。突然説教なんてくれちゃって」


「お前の知らないところで世界は動くということだ。時代の奔流に巻き込まれないようゆめゆめ気をつけることだ。もう動き出しているぞ」


「だからなんのことだよ」


「時間をかけたくないということだ。もう一度だけ言おう。そこをどけ」


「しつこい」


「……そうか」



 男は上段にロングソードを構えた。青いエフェクトが剣からほとばしる。

 これはさっきみた。斬撃を飛ばす技。アビリティ名はプロウズ。剣が振り下ろされる瞬間、俺は横にはねる。これで十分対応できるとさっきので学習済みだ。



「!?」



 しかし予想に反して、俺が転んだ先に男は来ていた。剣を右上に構え、それを俺めがけて振り下ろす。

 距離は二メートル以上あったはず! 一体どうやって! 

 様々な疑問が胸に去来する。が、そんな疑問は腕を飛ばされた痛みでどこかにとんだ。



「~ッ!」



 燃えたぎった鉄板を押し付けられたような痛みとも熱さともとれる奇妙な感覚が腕の肘あたりから感じた。半ば転がりながら距離を取る。体制を整えると急いでシャツをめくり、腕の様子を確かめる。腕はあった。てっきり切られたかと思っていたが。それほどの痛みだった。



 ふと気づいた。右肘の少し上に赤い線がついていた。そこから先はまったく動かない。

 上の方にテロップが出ていた。

 右前腕欠損 復帰まで;10:00。次第にその数字は減っていく。どうやら十分で復活するらしい。



「……これでお前の利き手は封じた。アビリティはそろそろ戻る頃だろうが。まあ、そんなものは関係ない。次で決めさせてもらおう」


 

 HPゲージをみてみると半分以上減っていた。この均衡下でポーションを飲む数秒を作り出すのは困難だ。

 どくん、どくんと心臓が鳴るのを感じる。次第に呼吸が荒くなり、視界が狭まっていく。

 考えたことがなかった。この世界で死ぬとどうなるんだ? 死ぬのか? ゲーム時代と同じようによみがえるのか?

 


「……死を前に怖気ついたか? 安心しろ。死とは安寧だ。永遠の平穏だ」



 そうか、それが死、か。

 さぞ楽なのだろう。

 男が剣を水平に構えた。

 しかし。悪いが、まだ死ぬわけにはいかない。俺の帰りを待ってくれる人がいる。その人たちを悲しませるわけにはいかない。


 

 男が距離を詰め、アビリティを発動させた。右から左へ。俺の頭のラインをなぎ払いにくる。

 不思議なことに、俺は冷静にそれを見つめていた。

 男の動きが極めて緩慢に。剣が空気を裂く。剣に押しのけられた波を俺の右目は捉えていた。

 思考が加速し、瞬時にさとる。この右目――森羅の緋眼は情報を見抜くだけではなく、その情報を処理する役割を担っているのではないのか。多大な情報を処理するがゆえに思考が引き伸ばしになり、こんな事態になっているのではなだろうか。



 まあそんなことはどうでもいい。

 しゃがみ、剣線から逃れる。

 男の渾身の一撃は俺の上をむなしく通過していった。 



「!? 我が流派の中でも最速を誇るアビリティだぞ! 貴様何を!」


「俺にもよくわからんが! てめえをぶっ飛ばす!」



 男の慟哭。予想外のことで体がこわばったのを感じた。隙を逃さず、3連の克の構えを行う。

 右手は動かないので実質二連だが。

 男の空いている腹めがけてぶちこむ。



「ぐぅぅぅぅ!」



 しかし倒すまではいかなかった。男のHPゲージが一割ほど残ってしまった。



「さすがにダメかと思ったが! 運は私の味方らしい!」



 男が剣を振り下ろす。それはアビリティでもなんでもなく、ただの攻撃。



「くれてやるよ左手も!」



 左手を盾に剣を食い止める。がっという音と共に、痛烈な痛みが顔を歪めさせる。

 しかし俺のHPゲージはゼロになることはなかった。

 男の顔が恐怖に歪む。



「俺の勝ちだ」



 両手が使えない。頭突きを相手の顎にぶちこんでやった。

 男が地面に沈む。



「後は……あんただけだな」



 観戦を決め込んでいたネズミ男を睨めつける。

 男は尻もちをつき、ずりずりと後退し始めた。痛む体にむちうって距離を詰める。


 

「ひ、ひいいい! く、来るな!」


「あんたもこいつらみたいにしてやるよ」


「こ、殺さないでくれ! なんでもするから!」


「じゃあ約束しろ! 二度とじいさんにちょっかいかけんじゃねえぞ」


「ああ、ああ、約束する! 約束するからっ!」


「じゃあ行ってよし。そこの二人も忘れんなよ」


「あ? ああ、わかった」



 ネズミ男は俺がこの二人を殺したと思っていたんだろう。生きていると知ってネズミ男は驚いたようだった。

 気絶中の二人を引きずってネズミ男は帰っていった。

 緊張が抜け、力なくその場に座り込む。

 


「あっぶねー」



 とりあえずポーションを飲む。レッドからグリーンに色が変わる。右手も復活した。赤い線が消え、自由に動くようになった。

 感触を確かめるために右手を動かしてみる。特に欠損によるペナルティーとかはなさそうだ。今までとなんら変わらず動く。



 クエスト欄で進行状態を見てみるとクリアになっていた。どうやら一日でクリアする目標は達成できたみたいだ。

 


「……どうしよ」



 あれだけ騒ぎがあったのに出てこないところを見るとじいさんはまだ寝ているのだろう。それを起こすのはなんか悪い気がする。それに今の俺も相当荒ぶっている。日をおいて気持ちを沈めたいというのが正直なところだった。



「明日でいいか」


 

 流派を教えてもらうのは。

 落ちているロングソード二本をアイテムに仕舞う。俺が使うつもりはない。あいつらはガランゾ商会というギルドがあるグラッセという町から来たのだ。それなりにいい武器に違いない。売ったらいくらくらいになるのだろうか。



 未だに内心ばくばくしながら森に入る俺だった。





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