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013 その老人、ボケてます!①






 まずアイテムショップに行って少なくなったポーションの補充。それと昨日の戦利品をギルカに変えた。六回狩りをし、計23匹のラービットを狩った。ドロップアイテムの内訳は、ラービットの皮×10 ラービットの肉×8ラービットの牙×20。一体からのドロップアイテムは一個と決まっているわけではないので、複数出たりまた一個も出なかったりもした。



 とっておいても仕方ないのですべて売却。俺たちの全財産は残っていたお金も合わせて四千五百ギルカとなった。今日の宿代を考えると自由に使えるお金は千五百ギルカ。厳しいが、利益は出ている。



 アイテム屋の店主にお礼を言って、店を後にする。

 時刻は十時。一日はまだまだこれからだ。太陽もほぼ真上に来ていて嫌がらせのような陽光を地面に降り注いでいた。



「ふう。これからどうする。今日一日狩りに出なくてもなんとかなるけど」


「……でも狩りに行っといたほうがよさげ。グレイトファングとの戦闘もあるしレベルもステータスもあげておくべき」


「珍しく正論だな。まあ、そうなんだよな。でも個人的は無手の流派を新しく習得しておきたいんだよな。より戦闘むきの」


「……武器はまだ決めてないの?」


「しっくりしたのがなかなかねえ」



 アイテム屋による前に少し武器屋によって、それぞれの武器の素振りをしてみた。しかしこれといってしっくりくるものもなかった。ソロであったなら適当にでも武器を決めておかなければならない。無手と武器にはそれだけの実力差が存在する。だが、このパーティにはマーがいる。そのことが俺の武器選びの後押しを拒んでいた。もっとも最初の町なので、武器の種類も少ない。



 なのでしっくりくるものがない以上ムリに買うつもりはない。そもそも散財するだけのお金もない。そういう理由で俺は当面無手で行くことにした。



 基本的に無手とは武器を構えていない状態で戦闘になったときの最終手段だ。無手のアビリティで相手の隙を作って武器を構える。そういう使い方がセオリーだが、無手にも無手なりの戦い方がある。純粋な攻撃力は劣るものの、相手をブレイクしたり攻撃を受け流したりするアビリティが豊富で、一瞬で間合いを詰める歩法の類のアビリティも存在する。



 覚えておいて損はないのだ。といっても初期の無手流派――流骨拳法には三つしかアビリティが存在していない。さすがに心もとない。なのでここらで新しい無手の流派を習得しておきたかった。



「なんか知ってるか? 近場で習得できる流派」



 流派の習得はNPCから教えてもらうか、クエストのクリア報酬くらいでしか習得できない。レベルがレベルなのであまり遠出することもできないし、町が王都に近付けば近づくほどクエストの難易度はあがると一般的には言われている。



「うーん。クエスト『岬の先の白塔』とか?」


「なんだそれ」


「うーんと、」



 マーが言うには、この町ができた当時に建てられたと灯台に住むおじさんがそのクエストを発行している人物らしい。

 その灯台を指さしてもらう。くしくもこの町に灯台は一つしかなく、最初に街道から見た灯台だった。



「あそこに寝泊まりしてるのか?」


「うん」


「はー」



 灯台とは船にサインを送る以外になんのイメージも持っていなかったので、寝泊まりできるスペースがあることにちょっと衝撃を受けた。まあ、冷静に考えてみれば人が明りをともす以上居住スペースはあってしかるべきなのかもしれない。この町の人口を考えるに交代制ともいかないだろう。数日単位で交代するのがベストなのかもしれない。



「んで、そのおじさんからもらえる流派は使えるのか?」


「もち。序盤にしては必要なアビリティは全部そろっている。歩法も相手の体制を崩すブレイク技も、受け流す系も。しかも衝撃を伝える発剄もある。その反面、それぞれのアビリティの威力は弱め」


「それで威力も高ければバランスブレイカーだからな。上等だよ。おっさんに話しかければクエストが発生するのか?」



 アールさんのサブクエの発生条件はいろいろと面倒くさいのだ。特定のアイテムを持っていたり、ある月、日、日時まで決まっていたりと。偶然じゃ発見できないのも多くある。



「……おじさんに話しかけるだけ。でもどうするの? 狩りとかは」


「あー……」



 どうしよう。ステータスも伸ばしておきたいが、最悪今日の早朝やったみたいな方法でも伸ばせる。戦うだけが伸ばす唯一の方法ではないみたいだ。そういえば、アビリティを発動させるためには技のモーションをなぞらなければならないんだっけか。となると早めに慣れる必要がある。



「やっぱ流派もらいに行ってくるわ。クリアするまでに何日くらいかかるんだ?」


「さあ、やってないからわからないけど……。最初の町だしそんな凝っているクエストはあんまりないと思う」


「じゃあ気張って今日でクリアするのを目標にしようかな。マーはどうする」


「……うーん。どうしよう?」


「それを俺に聞くのか。まあ、個人的にはマーに狩りにでてもらいたいかな。ギルカも少ないし。分業作業といこうぜ」


「……一人でちゃんとできる?」


「できるわ! まあ、詰まったらまた相談するわ」


「うん。じゃあ私はまた森でラービット狩りする」


「ああ、気をつけろよ。HPもDEFもふつうなんだから。攻撃をもらう前に倒すんだぞ」


「昨日ので隠匿のスキルあがったから大丈夫」



 俺も昨日散々気配を消してラービット達に先手を取っていたので隠匿のスキルは2になっていた。索敵の感知のスキルも同じようにあがっていた。

 簡単に言葉を交わすと俺たちはそれぞれの目的地に向かう。マーは森。俺はもちろんここからでも見える白い巨塔。



 マップを開いて行き方を確認する。どうやら海岸の端、岬の先から行くみたいだ。その岬への行き方はいっかい村を出て森を通っていかなくてはいけないらしい。なかなか大変な道程になりそうだ。



 アイテム欄を開いて持ち物を確認する。といってもポーションしかないが、それだけがあればいい。一番ランクの低いこのパーションは一回使用するだけでHPを五十回復してくれる。今の俺には十分だ。ちゃんとあることを確認すると、俺は町をでて森に入った。





 ものの五分でお目当ての岬についてしまった。道中にラービット三匹を相手取ったが、大して苦戦することもなく撃破。着実に俺も強くなっている。



 ラービットは問題なかったのだが、岬に行く道がとても見つかりりずらかった。俺はてっきり森の中にあっても人が通るのだからいくらか整備されているものだと思っていたのだが、そんなことはなかった。手入れされてる気配も微塵もなく、草の丈もかわらない。ここ数年レベルで手入れされていないのかもしれない。



 なんとか草をかき分け進み、やっとそれなりに舗装されている道に出た。道を目線で辿った先には白くそびえる巨塔があった。灯台だろう。



 道を歩く。舗装されている煉瓦も半ば朽ちていて、隙間からぺんぺん草らしきものが生えてきていた。灯台って漁業の生計を立てているこの町にはかなり大事なものではないのか。扱いがぞんざいすぎる。



 たかってくる小虫を手で払いながら塔の扉らしきものの前にたった。木製で白いペイントを施されているそれはなんとも優しい色合いだった。しかしそのペイントも風でかなり剥げていた。地の茶色が見えている。扉についていた金属製のドアノックハンドルを打ち鳴らす。



「……。おいおい。いないのか」


 

 かんかんと甲高い音がなった。ものの、誰かが出てくることはなかった。室内で誰かが動く気配もない。



 もう一度、さっきより強めに鳴らす。

 しかし、やっぱり誰も出てこない。出直すか、とおもって踵を返したときに気付いた。感知スキルを使ってみよう。別に居留守を疑っているわけではないが、ここまでくるのに少なからず苦労している。手ぶらで帰るにしてもベストは尽くしたい。



 意識を集中させる。イメージとしてはソナーを自分を中心に飛ばす感じだ。これもステータスを表示させるとき同様なかなか慣れが必要だった。今では手足のごとく、とまでは言えないが箸を扱うようぐらいには習得していた。自分を中心に不可視の波を発生させる。すると、俺がいるちょうど向かい側に誰かがいた。



 いることがわかるだけでなにをしているかはわからない。だが、そのシルエットはモンスターのそれではなく人のそれだ。それでも警戒しつつ、俺は塔の反対側へとまわった。


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