第1話
新しいものを書いてしまいました。よければ読んでいってください。
「…なさい、 目覚めなさい」
んぁ……、ま、眩しい。なんだか誰かに呼ばれてるような気がする。事故して気を失ってたのかな。でもどこも痛くないし。部屋も真っ白でよくわかんないし。
あれ? いつのまにかキレイなお姉様が目の前に。良かった、一人じゃなかった。
「あ、あのここはどこですか? 貴女は……っ!」
はっ!! まさか、誘拐された!? 目の前のステキなお姉様が私みたいなちんちくりん(友人談)を狙うなんて。しかも農家だし言いにくいけど高校の友達の家と比べたら貧乏だし。私を拐う旨味なんてないと思うんだけど……。
「フフッ、ようやく目覚めてくれたわね。安心して、誘拐とかじゃないから」
「えっ、じゃあどうして。いったいここは」
どこなんだ? もう、わかんない。とりあえず思考停止して、お姉さんでも見て落ち着こう。……うん、私と気が合いそうだな。何故かって? ハッキリとは言わないよ、でも一言だけ、あんなの脂肪の塊じゃないか! 無くても困らないしね!! ……ふぅ、スッキリした。
「うん、どうやら少しは落ち着いたようね。単刀直入に言うわ、貴女には地球とは違う星、つまり異世界に行ってもらうわ」
「異世界?」
いや、そんな穏やかに微笑みながらなに言ってんのかね、このお姉さんは。それはアレか、異世界転移しろってことかね。 ネット小説じゃあるまいし、ってことはもしかして私、死んじゃったの!? テンプレ的には私が間違って死んじゃって、神様にお詫びとして……とか? とりあえず説明が欲しいです!
「そうねぇ、まず貴女は死んではいないわ。ちょっとこっちに呼んだだけだから、心配しないで。う〜んなにから説明したらいいかしら、とりあえず貴女たちの住んでいる星、『地球』の説明をしましょう」
どうやら、死んでなかったらしい。そして、ここからは長いので割愛。
お姉様曰く、正式には『地球』ではなくて『管理圃場第ぬ−29番』と言うらしい。衝撃の事実、私たちの暮らしている地球は、畑だった。なんでも、生きとし生けるものには皆すべからく魂が存在していて、それを収穫し食す、ということらしい。ちなみに収穫するってことは死ぬってことなんだって。それに魂は皆等しく同じで、古くからの諺のように「一寸の虫にも五分の魂」らしい。
「え〜と、つまり私たちは家畜みたいな存在で、お姉様たちのご飯ってことですか?」
「そうね、まあ私たちからしたら、そういった存在であることには違いないわね。でも収穫と表現したけど、それは生命体が寿命を迎えた時にこちら側に集められるだけであって、私たちが直接生命体を殺してる訳じゃないのよ」
「は、はぁ〜そうなんですか」
普通だったら、人間を家畜扱いするんじゃない! って怒るんだろうけどさ、常識であるかのように淡々と説明されると、何も言えないね。
「あとは、そうねぇ……異世界の説明と貴女が転移する必要性を言ってなかったわね」
例のごとく割愛。
まず私が行くところは『管理圃場第ぬ−46番(特殊環境)』と言うところ。特殊環境ってのはゲームの設定なんかを組み込んでいるんだって、「レベル」とか「スキル」とか。特殊環境の圃場はそれぞれ組み込む設定は違うらしいけど、第ぬ−46番では「スキル」と「職」を採用しているらしい。
大陸の形なんかは地球と似てるけど、国も国境も違う。驚くべきことにエルフとかドワーフとか獣人とかもいるらしい。あと魔人とか魔物も。本当にゲームみたいだなぁ、なんてボケーとして考えてたら、死んでも生き返らないから注意してねって言われた。そりゃあそうだよね〜、ってあれ? これって私が行くこと確定してる? 私の意思は? まさかの拒否権無し!?
然り気無く私行かないよ? アピールしてみたけどすべて流されてうやむやにされてしまった。はぁ、もういいや、説明の続きプリーズ。
何故私が転移する必要があるのか。要するに、地球に存在する魔素が多過ぎるため別の圃場に移動させたい。たまたま魔素を濃くしようとしていた圃場、第ぬ−46番があった。でも移動させるためには容器が必要。そんなとき偶然目についたのがちんちくりん(友人談)こと、わたくし菩骨堂 芙蘭だったと。ちなみに読みは「ぼっこどう ふらん」です。
まあ、神様の気紛れって奴なのかな、そして私が転移することはこのお姉様のなかでは決定らしい。うん、腹を括らないといけないかもしれない。その前に1つだけ気になることが。
「あの〜もしもですよ、もしも私が転移したら、何かやらなきゃいけないことってあるんですか? 」
お決まりの使命みたいなね、魔王を倒せとか、虐げられている亜人を助けろとかさ。
「特にないわよ。だから心配しないでね。でも強いて言うなら、ひっそり生きずに思う存分やりたいことをしなさいってことね」
特にない、か。ていうか、さっきからお姉様の目が怖いよ。ぱっと見笑顔なんだけど、なんというか、「分かってるわよね。行くわよね。行かないなんて言わせないから」的な視線がビシバシ突き刺さってくるよ。もー! わかったよ、行くよ! 行けばいいんでしょ!!
「はぁ、分かりました。行きます、でも友達や両親を悲しませたくな――」
「ホントっ!? 良かったぁ行ってくれるのね、地球での調整は任せておいて。あっ、あと46番での貴女のスキルやらなんやらも、万事抜かりなく、向こうで困らないようにするわ。それじゃあ、さっそく気が変わらないうちに行きましょうか。よしっ、手続き完了。では、行ってらっしゃーい!」
「えっ!? ちょっ、眩しっ! 待って! ちょっと……ちょ待てよ!!」
いきなりかよ! びっくりし過ぎて恥ずかしながら、往年のものまねをしてしまった。つーかよー、この女、猫かぶってやがったな、チクショー! って、眩しいんだけど、なんだか眠く……なってき……た。
目映いほどの光が収まった部屋の中には、先程までいた筈の2人の女性が消えていた。代わりに赤い光を淡く放つ人型の発光体が1つ。
「ふぅ、やっと行ったわね。これでようやく29番の星勢回復が図れるわ……っ誰? 」
部屋へと侵入していた者は紫に光る人型の発光体。
「オレだよ、一応ノックはしたんだぜ? だからそんなに睨むなよ」
「……はぁ、次からは返事するまで待ちなさい。で、何の用?」
「いやぁ、お前んとこの29番を星勢回復するんだろ? オレの大好物なのによぉ、しばらく食えなくなるじゃねぇの、頼むからあと1万年くれぇよ、延ばしてくれよ」
「あら、そのこと? 無理に決まってるじゃない。もう上に計画書と申請書も出してるのよ。そう言ってくれるのは生産者冥利に尽きるけどね。まあ、あそこ程クセのある魂は他にはないものね。私の口には合わないけど」
「けっ、あと何億年待ちゃぁいいんだよ、あれほどの魔素を溜め込むまで。でもよ〜、よくあんな高濃度の魔素で満たされてんのに、濃度障害が起きねえな。なんかやってんのか? 」
「教えるわけないでしょ、まっ、ひとえに私の腕が良いのよ」
「へいへい、まあお前は昔っから品種改良と圃場環境の調整はピカイチだったからな。どうせそこら辺だろ。……それより、良かったのかよ」
「何のこと? 」
「さっきのちびっ娘のことだ。お前、あのちびっ娘の親とかどうすんだよ、星勢回復するんだったら生命体をリセットしねぇといけねぇだろ?」
「ああ、そのこと。別に嘘はついてないわ、いいじゃないの、十分すぎるほどの力を与えたし。知らぬは彼女だけで、気づくはずもないわ」
「お〜相変わらず怖い女だねぇ〜」
「うるさいわね、なにも説明しないで飛ばすアンタよりはマシでしょ! 私は忙しいの、出てってちょうだい! 」
「ケケケッ、ちげぇねえ。まあせいぜい頑張れや〜」
ヒラヒラと後ろ手を振り、どこか小バカにしたような声色を発して、去っていく紫の光。赤の光はといえばその紫の光をひと睨みすると、軽く深呼吸をし、手元の書類とモニターに目をうつす。
「チッ……ふぅ、まったく。46番に魔素はたっぷり撒いたし、あとは彼女による撹拌といじめだけね。まあなんとかなるでしょ、もとからそこまで期待してないものね。とりあえずは29番をリセットしなきゃね、巨大隕石発射っと。あーあ、埃が収まるまで休みを取りましょうかね。忙しくなるぞぉ〜っと」
部屋の扉が閉まりあとに残ったのは、今まさに地球へと隕石が衝突せんとした状況を映し出す小さなモニターだけだった。