それは、あまりにも紅く
またやってしまった、私は自分の手を見つめうなだれる。
手は紅色に彩られ、したたる滴は私の行いを責めるかのように手首から肘へと流れていく。こんなつもりではなかった、私は今更にそんなことを思い始めていた。
楽しかったはずの日常が、久々のはずの休日が壊れてしまったのはいつだろうか。それは、たった三〇分程度前のはずなのに、あまりに昔のことのように思えてしまう。
いくら見渡せど、その隔絶された空間にもはや味方はいない。大掛かりなファンや空調機の音の中、周りには捻り切ったものたちが散乱し、独特の香りが鼻をつく。
「そんな」
一緒にいたはずの彼も、隣で笑っていたはずの老夫婦も、まるで私を異質のものだというような目で見たあと、この場から消えてしまった。
白かったはずのワンピースも、今では無惨に染まっている。
「私は、悪くない」
悔し紛れに口にする。彼らが挑発したのが悪い、私に挑んだのが悪い。ことの始まりを思い出し、思わず奥歯を噛み締めた。少し酸味のある味が口に広がっていく。
「まだ、終われない」
少しの吐き気を覚えながらも、なおも出口とは反対の方へと歩みを進める。かき分けるように目標を探し、狩りつくす。今の私にはそうするしかないのだ。
もう戻れない戻らない。対価は払ってしまったのだから。
ふいに人の気配を感じ振り返る。
……いた。すべての現況をつくりだした彼らがそこにいた。忌々しくも、私を挑発しこんな結末へと誘った彼らは、こちらを嘲笑うかのように、それでも無邪気に口を開いた。
「なぁ、ねぇちゃん何個イチゴくえた?
一〇〇個? 一〇〇個いった?」
「ガキども! 見てろ、これで二〇〇個目だ!」
私はそういって、再びその紅い果実をむしりとった。
そう、これはイチゴ狩り。一五〇〇円を払った先にある、
あまりにも紅く甘い、私だけの戦い。