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勇者とその兄

作者: 白紙撤回

 周到に計算された組合せだったのだと、デイルは後になって理解した。

 戦士(男)と魔術師(女)。僧侶(男)と盗賊(女)。

 そして万能型の魔法剣士(女)。

 女が一人余る五人編成の冒険者パーティー。

 いや、余っているわけではない。

 魔法剣士には──シェリンには、初めから心に決めた相手がいたのだから……

 

 

「──いやァ、ホンマにウマいわァ、この魚のパイといいサラダといい」

「……ええ、美味しい……」

「なるほど、シェリンさんがいつも自慢するだけのことはあります」

「自慢というか、ほとんどノロケ話だよねっ♪」

 テーブルを囲んだ仲間たちの賞賛に、シェリンは得意満面だった。

「でしょでしょ? 宮廷料理人だった父さんから受け継いだ技に、この土地の食材に合った工夫を加えて」

 台所でシチューの鍋をかき回すデイルの背を、ちらりと見やり、

「ここでしか食べられないところに意味があるのよ。これは兄さんの受け売りだけど」

「俺というより親父の、な」

 デイルは皿に盛りつけたシチューをテーブルに運んだ。

 五人前を一度には運べないので二人分ずつ。

「土地に合わせた工夫も親父がしてきたことだ。俺はそれを真似ているに過ぎない」

 デイルは一見すれば戦士のように逞しい長身の男だ。

 だが、彼は生まれ育った村で父から受け継いだパン屋を営んでいる。

 ときどき村人から請われて父譲りの料理の腕を披露することもあるが、それを稼業とはしていない。

 旅人が訪れることが稀な小さな村で料理店という商売は成り立たないのだ。

 シェリンの生まれ故郷でなければ、名の知れた冒険者である彼ら一行がこの村へ立ち寄ることもなかったであろう。

「ええなァ、これぞ職人って感じやわァ」

「……シチューも美味しい……」

「故郷の村自慢にお兄さんの料理自慢。シェリンさんからいつも聞かされてるんですよ」

「おノロケそのまんまにねっ♪ ほかのどんなイケメンに迫られても相手にしないのにさっ♪」

「中身のない男には興味ないもの」

 シェリンは言って、にっこりとした。

「冒険者としては私のほうが上だし、男としては兄さんのほうが上よ、そこらの有象無象どもなんて」

「俺にとってもシェリンは自慢の妹だが……」

 デイルは言う。

「そろそろ身を固めてほしいとも思っている。冒険者同士の結婚は珍しいことではないのだろう?」

「結婚なんてまだ早いわ。だいいち相手がいない」

 口をとがらせるシェリンに、デイルは首を振り、

「守るべきものができたほうが冒険者としても強くなれるんじゃないか」

「相手がいないと言ったでしょ。一生のことに妥協はできないし」

「まァま、お兄さん」

 冒険者仲間たちが口を挟む。

「ワシらかて決めた相手がおらんワケやのゥても結婚まではまだ先のコトと思うとるし」

「……ええ……」

「シェリンさんは優れた冒険者であるだけでなく女性として魅力的です。いずれ相応しい相手が現れますよ」

「そうそっ♪ 今度はお兄ちゃんじゃなくて素敵なダーリンのおノロケを聞かされることになるのさっ♪」

「……だったらいいが」

 釈然としない様子のデイルに、冒険者たちは、くすくす笑う。

 シェリンも兄を見て、にこにことただ微笑んでいた。

 

 

 冒険者たちに母屋を明け渡し、デイルは納屋で寝ると申し出た。

 シェリンも一緒に納屋に泊まると言ったがデイルは拒んだ。

 母屋に寝室は二つ。それぞれ二人ずつ寝て、シェリンは余りの毛布を使って食堂で寝ればいい。

 そう勧めるデイルに、シェリンは不満顔だった。

「なら、兄さんも食堂で寝ればいいじゃない」

「俺は畑の世話もあるから朝が早い。お前は久しぶりの実家だ、ゆっくり休ませてやりたい」

「兄さんを納屋で寝かせて、ゆっくり眠れるわけないでしょ」

「どんな状況でも眠るべきときに眠れなければ一流の冒険者とは言えないんじゃないか?」

 デイルにそこまで言われてしまうと、シェリンは反論できない。

 だが、冒険者仲間がそれぞれの寝室へ分かれたあと、シェリンは納屋へデイルを訪ねて行った。

 藁束を床に敷いて寝床を作っていたデイルは呆れて、

「お前は食堂で寝ろと言ったろう?」

「寝る前に少し話をするくらい、いいでしょう? 久しぶりに兄さんと会えたんだもの」

「少し、だぞ。俺は朝が早い」

「わかってるわかってる」

 シェリンは藁束の上に腰を下ろすと、ぽんぽんと自分の横の藁束を叩き、にっこりとする。

 デイルはため息をつき、シェリンと並んで腰を下ろした。

「勇者シェリンとその一行……お前たちの噂は、この村にも伝わってくるぞ」

 デイルが言うと、シェリンは「あはっ!」と声を上げて笑った。

「勇者だなんて、私たちの冒険の半分は賞金が目当てなのに」

「だが、残りの半分は人助けだろう」

「いいえ、刺激を求めてよ」

「お前は昔からそうやって悪ぶるところがあった。本当は優しい奴なのに」

「ねえ、兄さん」

 シェリンはデイルを見つめて、言った。

「そろそろ、いいんじゃないかしら。母さんが亡くなって一年たったわ」

「……何の話だ?」

「父さんが早くに亡くなっていなければ、母さんも父さんも兄さんが旅に出るのを許してくれた筈」

「冒険……か。いまさら、だな」

 苦笑いするデイルを、シェリンはじっと見つめたまま、

「何を始めるにしても遅すぎるということはないわ。父さんの口癖だったでしょ」

「親父は四十まで独り身だったが、お袋と出会って宮廷料理人の地位を捨て、二人でこの村へ来た」

「空気と水と土に恵まれたこの村に、ね。慣れない手に鍬を握って、自分で育てた麦でパンを焼き」

「よく聞かされた親父の自慢話だ」

 微かに笑うデイルに、シェリンも、くすくすと笑い、

「そのおかげで胸を病んでいた母さんは健康を取り戻して、兄さんと私を産んでくれたのよ」

「そういう生き方もあるということだ。名誉よりも家族のためという生き方が」

 デイルはシェリンの顔を見た。

「明日、話そうと思っていたが……俺は来月、結婚する」

「え……」

 シェリンの笑みが凍りついた。

「兄さん、何て……」

「相手は風車番の娘のフィニスだ。子供の頃よく一緒に遊んで、お前も知ってるだろう」

「知って……るけど……」

「親父とお袋が死ぬまで暮らしたこの村に、俺も骨を埋める覚悟ができた」

「ちょ……待って、それおかしいわよ、兄さん……」

 動揺した様子のシェリンに、デイルは怪訝に眼を眇め、

「おかしいって、何が?」

「兄さんは母さんが亡くなったあと、古い言い方をすれば『喪に服す』意味で村に留まったんでしょ?」

 シェリンは笑顔をひきつらせて言う。

「なのに、来月にはもう結婚って、そんなのおかしいじゃない……」

「結婚はお袋が亡くなる前から相談していたことだ。無論、お袋も賛成してくれた」

「何よ……何よ、それ……そんなの聞いてない……」

「お前にも知らせるつもりだった。だが話がまとまってすぐ、お袋の容態が悪くなったんだ」

「母さんのお葬式には私も帰って来たじゃない!? そのときだって、兄さんは何も……!」

「葬儀の場でするような話じゃないだろう」

 デイルは言って、ため息をついた。

「それに、あのときお前は俺を旅に誘うことばかり熱心で、結婚の話を持ち出せる状況じゃなかった」

「私はッ! 兄さんとッ! 旅に出るのがッ! ずっとッ! 夢だったッ……!!」

 シェリンは声を荒らげて立ち上がった。

 デイルに向き直り、眼を吊り上げて顔を朱に染め、

「兄さんもそれが望みだった筈ッ!! 冒険者になって資金を稼ぎッ、いずれ自分の料理店を開くってッ!!」

「人にはそれぞれ役割というものがある」

 デイルは努めて穏やかに言った。

 兄の結婚話に、ここまでシェリンが激昂する理由はわからない。

 フィニスならシェリンも知らない仲ではないし、祝福してもらえるものと思っていたのだ。

 自分の預かり知らぬところで話が進んでいたことに拗ねているのだろうか。

 それにしては尋常ではない怒り方だが……

「お前は勇者として多くの人間を助けられる。だが、俺は剣術は並みの技量だし魔法の心得はない」

「私にとっては兄さんが勇者よッ! 私の剣術は兄さんから教わったんだからッ!!」

「いまでは実戦で経験を積んだお前のほうが上だろう。そんな俺でも身近な相手を守ることだけはできる」

 デイルは立ち上がり、シェリンと向かい合った。

 そうすれば頭一つ分、デイルのほうが長身である。

「お袋が倒れてからフィニスは毎日、パンの工房や家事を手伝ってくれた。お袋も感謝していた」

「私が家にいれば私が母さんの世話をしたッ! 赤の他人のフィニスに頼らなくてもッ!!」

「お前は勇者だ。お前にしか果たせない役割が他にあるだろう」

 デイルはシェリンをまっすぐ見つめ、

「それにフィニスはもう他人ではない。俺の許婚いいなずけだ」

「…………ッ!!」

 シェリンは、ぎりりと音が聞こえそうなほど歯を喰いしばり、握った拳を震わせた。

「……兄さんはッ! 私よりもッ……!!」

「シェリン……」

 デイルは寂しげな顔で首を振り、

「……お前は俺の結婚に反対なのか?」

「反対ッ!? ええッ、反対よッ!!」

 シェリンは叫ぶ。

「兄さんは自分の役割を果たしてないものッ!」

「俺の役割?」

「……父さんは母さんと一緒になるため宮廷料理人の地位を捨てた」

 不意に落ち着いた声音になり、シェリンは言った。

「でも、それは宮廷料理人として一度は名を成したから許されたこと。父さんは自分の役割を果たしたの」

「違う、そうじゃない。名誉を求める以外の生き方を親父が見つけたから……」

「いいえ、そうなのよ」

 シェリンは言って、にっこりとした。

 その笑顔を見て、何故だか背筋がざわつくのをデイルは感じた。

「父さんが兄さんに料理の技を伝えたのは何のため? この村でパン屋を続けるだけなら必要ないのに」

 シェリンは言う。

「剣の稽古を許してくれたのは何故? 一生この村から出ないで過ごすなら必要ないのに」

「確かに俺は冒険者を目指したこともあった。お前の言う通り、自分の店を開く資金稼ぎのために」

「父さんも応援してくれた夢よ。兄さんはそれを諦めるの? 父さんの期待を裏切るの?」

「親父ならわかってくれる筈だ」

「何を? 父さんから受け継いだ料理の技を埋もれさせることを? 兄さんの我がままで?」

「俺たちよりも、お袋のほうが親父のことはわかってる。そのお袋がフィニスと俺の結婚を喜んでくれた」

「母さんが知ってるのは宮廷料理人の地位を捨てたあとの父さんでしょう? そんなの父さんの一部分だわ」

 シェリンは、あくまで笑顔だった。笑顔のままデイルを責め立てた。

「この小さな村の中だけで生きてる母さんや兄さんにはわからないことがあるのよ」

「何がだ?」

「父さんが宮廷料理人の地位を手に入れるまでの努力を。私が勇者と呼ばれるようになるまでの苦しみを」

「…………」

 口をつぐむデイルに、シェリンは言葉を続ける。

「私は魔法の才能だけは兄さんよりもあった。だから頑張って勉強したわ。兄さんの手助けをするために」

「きっかけは俺のためかもしれない。だが、いまのお前は国中に知られた勇者として……」

「それだけの苦労をしたもの。でも、全ては兄さんと一緒に旅をするため。兄さんにお店を開いてもらうため」

 シェリンは微笑みながら小首をかしげてみせ、

「私、兄さんの料理が好き。料理を作ってる兄さんも好き。だから頑張れるのよ、兄さんのために?」

「……お前の気持ちはわかった」

 デイルは、ため息まじりに言った。

「俺と一緒に旅をするのを楽しみにしてくれていたなら済まないと思う」

「だったら」

「だが」

 デイルは語気を強め、シェリンの反駁を抑え込む。

「結婚は決めたことだ。フィニスを一年も待たせた。これ以上、先延ばしはしない」

「そう……わかった」

 シェリンは眼を伏せ、黙り込む。

 デイルも口をつぐんでいると、やがてシェリンは吹っきれたように笑顔を見せた。

「そこまで言うなら反対しない。兄さんが頑固なのは知ってるし、嫌われたくないもの大好きな兄さんに」

「……済まない」

 頭を下げるデイルに、シェリンは「いいのよ」と笑顔で首を振る。

「でも、覚えておいて。勇者シェリンのパーティーは六人編成なの。兄さんの気が変われば、いつでも歓迎」

「ああ……そうならないようにするつもりだが」

 デイルの返答に、シェリンはただ笑顔のまま頷いた。

 

 

「──フィニスさん」

 翌日、デイルがパン工房で仕事をしている間、シェリンは兄には何も告げずに彼の婚約者を訪ねた。

 風車小屋から出て来たフィニスは鼻の頭に小麦の粉をつけたまま屈託なく笑ってみせた。

「やあ、シェリン! 勇者様のご帰還だね!」

 村外れの丘の上に建つ風車はフィニスが父親とともに番をしている。

 風車の役目は小麦など穀物の粉を挽くことだから、パン屋のデイルとの接点は多いわけである。

「兄さんから聞きました、婚約のこと」

 にこにこと笑顔を見せながらシェリンは言った。

「ああ」

 フィニスは苦笑いして、

「その話のときはボクも同席したいと言ったのに、デイルってば何でも勝手に進めちゃうんだから」

「じゃあ……やっぱり兄さんと結婚したいということですね?」

 シェリンが笑顔のまま念を押すように訊ねて、フィニスは吹き出し、

「もちろんボクはそのつもりだけど……何だい? ボクの気が変わってないかデイルが心配してた?」

「兄さんもフィニスさんと結婚する気でいますよ。だから確かめておきたかっただけです」

「確かめる?」

 小首をかしげるフィニスに、シェリンはそれ以上は説明せず、小さな革袋を差し出した。

「これ……袋の中に」

「何だい?」

「御守りみたいなものです。結婚式の日まで、兄さんの眼には触れないように身に着けて下さい」

「いま開けても?」

「ええ、できれば着けたところを見せて下さい」

 フィニスは革袋の口を開け、中に入っていたものを掌の上に落とした。

 ペンダントだった。涙滴型の水晶に金の鎖がついている。

「綺麗……。冒険で見つけたお宝かい? これをボクが受けとっていいの?」

「そのつもりで渡したんですよ」

「こんなに素敵なアクセサリー、ボクに似合うかな……?」

 フィニスは照れ笑いしながら、嬉しそうにペンダントを首に下げた。

「どうだろう……?」

「よく似合いますよ」

 シェリンは、にっこりとして、

「くれぐれも結婚式まで兄さんの眼に触れないようにして下さい。御守りの効果がなくなりますから」

「わかった、服の中に下げるようにする。でも結婚式のあとはデイルに見せても? せっかく素敵だから」

「それはお任せします」

「ありがとうシェリン、本当に……素敵な贈り物で祝福してもらって」

 幸せそうに微笑むフィニスに、シェリンも笑顔で答えて言った。

「どういたしまして」

 

 

 フィニスと別れて、シェリンは風車の建つ丘から道を下っていく。

 すると丘の麓に冒険者仲間のうち二人──女魔術師と盗賊娘が待っていることに気づき、

「あら……どうしたの? 男性陣の二人は?」

「……猪を狩りに……」

「畑を荒らす猪がいると村の人から聞いて、張りきって捕まえに行ったよっ♪ まるで子供だねっ♪」

「そうね。男の人たちなんて……」

 くすくす笑うシェリンを、女魔術師が、じっと見つめている。

 シェリンは微笑みながら訊ねた。

「なあに、どうしたの?」

「……《エルフの涙》……」

 女魔術師は口を開いた。

「……呪いのアイテムが手元から消えれば、わたしは感じるから……」

「渡したわ。兄さんの婚約者へ」

 笑顔のままでシェリンが答え、女魔術師は僅かに眉をしかめる。

「……渡した……?」

「ええ。素敵なアクセサリーだと喜んでくれた。肌身離さずに着けてくれるみたい」

 シェリンは、くっくっと声を上げて笑いだし、

「八つ裂きにされて死んだエルフの末期の涙の結晶を、素敵なアクセサリーとはね。知らないって怖いわ」

「……わたしは、あなたに借りがある……」

 女魔術師が言った。

「……弟を傷つけずに記憶を封じることは、黒魔術師のわたしにはできなかった……」

「忌まわしいことは忘れさせてあげたほうが幸せでしょ?」

 シェリンは言って、にっこりとする。

「泥棒エルフが一匹、眼の前で八つ裂きになって死んだとか、愛する女性が実の姉だったなんて、ね」

「……わたしが浅はかだった……あのエルフを殺すのは、弟の見ていないところでするべきだった……」

「済んだことよ。あなたは大事な冒険仲間、貸し借りなんて気にしないで」

「……ええ、だからわたしも……あなたが《エルフの涙》をどうしようが気にしない……」

「女の友情ってヤツだねっ♪」

 盗賊娘が、くすくすと笑いながら言った。

「あるいは利害の一致かなっ? 道ならぬ恋に生きる者同士のねっ♪」

「あなたは最初から、お兄さんと相思相愛のくせに」

 シェリンが揶揄するように言うと、盗賊娘は、ぺろりと舌を出し、

「あたしたちを引き離そうとした両親を魔物の仕業に見せかけて始末できたのはシェリンのおかげさっ♪」

「愛し合う二人の仲を裂こうとした無粋な人たちが報いを受けるのは当然だもの」

「お兄ちゃんが知ったら大変だけどねっ♪ あたしたちの関係が親にバレてたことすら知らないからさっ♪」

「愛ゆえの行ないに罪はないのよ。二人が幸せになることで全て赦されるの」

 シェリンは言って、にっこりとした。

「そうよ……この小さな村で一生を終えるより、私と一緒に旅をするほうが、よほど幸せだわ兄さんは」

 

 

 勇者シェリンの一行が新しい冒険を求めて、村を出発してから数日後──

 結婚を目前にしたフィニスが、何故か人が変わったようになったと村人たちが噂し始めた。

 態度が冷たくなった。

 挨拶をしても返事がない。

 仕事を頼むと面倒くさそうな態度。

 粉に挽いてもらうために渡した麦の量に比べて戻って来た小麦粉が少ない。量を誤魔化してないか?

 等々……

 噂はデイルの耳にも入り、心配した彼は風車小屋を訪ねて、フィニスに言った。

「何か悩みでもあるなら、俺に聞かせてくれ」

「何を言ってるんだい? デイルまでボクが変だと言うのか!? 帰れよッ! 帰ってくれッ!!」

 結婚生活への不安で情緒不安定になっているのだろうか。

 フィニスの親は結婚を延期することを提案してきて、デイルも同意した。

 それが逆効果だったか、フィニスは親に暴力を振るうまでになった。

「パパもママもッ……デイルもッ! みんな……みんなボクの敵だッ!!」

 もはや誰の眼にもフィニスの異常は明らかだった。

 そして、結婚式を挙げる筈だった日の朝。

 フィニスは風車小屋の挽き臼に自ら頭を突っ込み、頭蓋を砕かれて死んだ。

 

 

 婚約者を無惨なかたちで失ったデイルは、パン屋を閉めて家に閉じ籠もった。

 彼が故郷の村を離れて勇者シェリンの一行に加わるのは、それから間もなくのことである──

 

 

【終わり】

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった! 女の歪んだ友情とかよかったです!
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