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No,7

「今日は、久し振りに日本人と会話出来て・・・・親しくなれて楽しかったね」


ホテルの最上階【ラ・ペルゴーラ】でコースディナーを楽しみながら、紫さんが無邪気に微笑む。



「そうですね。あの伊倉物産の社長と知り合えるなんて、全く奇遇です」


魚介類のパスタに合わせて頼んだ軽いイタリアワイン【ラクリマ・クリスティ】を傾け笑い返しながら―――気配を探る。




――― 一人・・・二人・・・・三人? いや、二人か ―――





俺は元来、人の気配と云う奴に敏感だ。


もう随分昔の事になるが、親父(あの男)に、無理矢理、二十四時間の護衛(ガード)を押し付けられキレて、うっとうしいからやめてくれと、俺はこんな家とは何の関係もないのだと主張するために、本家に怒鳴りこんで行った事があった。


思えば、緋龍院家に俺の意志で出掛けたのは、あれが最初で最後だった。


・・・・まだ十歳にも満たない、小さな翠君と出会ったのはあの時だが、彼は覚えていないだろう。

あのリザと同じダークグリーンアイをキョトンとさせて俺を見ていたっけ。





あのイタリア男の差し金だろう。

全く、妙な奴に気に入られてしまったらしい。








俺は部屋に戻ると、紫さんをシャワーに追い立てネットブックを取り出した。




―――あのアレッサンドリって奴、兄貴(あいつ)と同じ匂いをしてやがった―――




それよりも何よりもあの「アレッサンドリ」という苗字。俺の記憶に間違いがなければ……嫌な予感に掻き立てられて、検索しリンクを重ねて最悪の結果にヒットした。あのワイナリーには「アレッサンドリ」の名前など前面に出ていなかったから、ついうっかり油断してしまった。いつもの俺ならば、絶対に犯さない痛恨のミスだ。

……やはり、“ハニームーン”という事で、知らぬ間に俺も浮かれていたのだろうか。



「・・・・ビンゴかよ・・・・」



・・・ジャパニーズマフィアの義弟が、新婚旅行先でイタリアンマフィアに出会いました・・・って、ホント、洒落にもなんねぇ。







・・・バスルームのドアの音が聞こえて、俺は慌てて笑顔の仮面を張り付けた。


「サッパリしましたか?」

ホカホカの紫さんを後ろから抱き締める。


「う~ん、良い匂い❤」

「京も入ってきちゃえば?」

「・・・ええ・・・・・」

「・・・京・・・・?」



いけない、紫さんに俺が変だと気付かれてしまう。




「・・・・・明日は、どこへ行きますか?」

「う~~ん、ローマはあらかた見尽くしたしね~」

「他も周ってみますか?ミラノやフィレンツェに足を延ばしても良いし」

「・・・予定通り、パリへって云うのは?」

「・・・いいんですか?」

「勿論だよ。ルーヴルが私を呼んでいるんだ」



珍しい紫さんの軽口に、少しへこんでいた心がたちまち浮上する。



「・・・・その前に【ピエタ】と【最後の審判】が、もう一度呼んでいるんじゃあありませんか・・・・?」

「・・・・理解る・・・・?」

「あなたの事なら何でも」

照れたような恥ずかしげな紅い頬に軽く口付けて。



「じゃあ、明日はバチカンとの名残りを惜しんで・・・明後日にパリに出発しましょうか」

「うんっ!」











そんな会話がローマの部屋で交わされている同じ日、日本では翠がリザの訪問を受けていた。


「今夜も京牙は遅いの?」


「うん、多分、午前様だと思う。出発までには仕方がないよ」


「しかし、ゴールデンウィークに海外へとは豪勢ね~♪」


「だって、ハニームーンだよ、ハニームーン!!

それを京兄ったら、のんびり温泉でも行こうかって。全くジジムサイんだからっ」


「・・・それ、本人に言ったらヘコむわよ。」


「うん、ヘコんだ」



こんなところにも翠の慎ましさが良く表れている。若さに似合わぬ所帯染みた、悪く言えばそれこそジジムサさが出ている(笑)

一条家所有の自家用ジェット機を使おうとせずに、金銭的にお得な航空会社の便を使おうとしているのだから。

だからリザもそんな翠の調子にノってあげているのだ(笑)

二回り若い花嫁をもらう悲哀を味わっているだろう京牙を想いながら、リザは今夜の訪問の本件を切り出した。



「・・・結局、見つかっていないんだって?」


「・・・え・・っ、・・・・・うん・・・・・・・」

今度は翠が一気にヘコみ、リザは慌てて本題に入った。



「優しいお姉さんが、せめてもの虫除けの御守りを持って来てあげたわ」


そう言ってLANCELの鞄から取り出したのは、翠も見覚えがある小箱。


「リザ姉、これ・・・・」


「ロードクロサイト。俗に言う、インカローズって云う宝石(いし)よ。

本来はピンクのものが多いんだけど、ごく稀に、そんな紅い色のものが出るの。

翠のイメージとは違うかも知れないけど、今回はこれで妥協しない?

あの男を薬指のリング(虫除け)もなしで海外に出すのは不安でしょう?」


「・・・っ!リザ姉・・・・、ありがとう・・・・・・・っ!!」


感激したように抱きついてくる、可愛い弟分をよしよしと慰め抱き締める。



―――ホント、京牙がいなくて良かったわ~。こんなトコ見られたら、コンクリ詰めで東京湾かも―――



妙な感慨に浸りながら、翠の泣きごとを聞いてあげる。




「ぼくっ、僕ね。

京兄に新婚旅行に行こうって言われた時、凄く嬉しかったのっ!


でも、でもね!

京兄って、あんなに素敵なんだもん、指環がなかったら逆ナンの嵐になっちゃう!


僕なんかが隣にいたって、ああ、弟さんって思われちゃうってスッゴイ不安だったの!!


でも、だからって、変なリングをプレゼント出来なくって・・・僕・・・っ!!!」




よほど不安だったのだろう。

誰にも相談出来なくて、こんなにストレスを自分から貯め込んでしまった。

ここ最近忙しくて、ゆっくり翠の話を聞いてあげられなくて、本当に悪かったと思う。


・・・・お節介が、間に合って良かったわ・・・・・







「・・・・ほら、もう、そんなに泣きなさんな。

可愛い翠を泣かしたって、私が京牙に恨まれちゃう」


「・・・うん・・・・あの、これ、ホントにありがとうっ、リザ姉!!」


「なんの。可愛い翠のためだもの」



やっと泣きやんでくれて、いつもの笑顔を見せてくれた事に安堵する。

離れて行く温もりを少々寂しく思いながら、すっかり冷めてしまった珈琲をゆっくり飲み干す。





「そうそう。それで、結局、どこに行くんだって?そのハニームーンは?」



満面の笑みで翠が答えた。



「ヨーロッパ!


十日間のパリの旅っ!!」





「・・・・・・・・・・・・・ヘ、ヘェ~~~・・・・・・・・・・」







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