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13/22

No,13

文中の『』の言葉は、フランス語です。

そして、五月一日。

遂に、超楽しみにしていたバレエ公演の日がやって来た。



毎日見ていた、あのオペラ座の中に入れる日がやってきたんだ!





こっちの公演開始の時間は遅い。夕飯を食べてから、

ゆっくり観られるように設定されている。

特に僕の宿泊先【グラン・インター・コンチネンタル】からは走れば一分で行けるかも知れない(笑)。四人でレストラン【ヴェリエール】で優雅にコースディナーを楽しんで、でも開演時間のかなり前に入場してしまった。少しでも長くオペラ座の中を楽しみたかったんだ。


ナポレオン三世の第二帝政時代に、シャルル・ガルニエの設計によって建てられた古典様式とバロック様式が取り入れられた豪華絢爛な劇場の傑作。大理石が敷き詰められた正面入り口の大階段だけでも一見の価値がある。そして金と赤を基調にした劇場内。天井画は有名なシャガールのものだが、僕はこの一点にのみ不満を持っている。

滝本さんが用意してくれたのはボックス席。まるまる一席をおさえていてくれたから、深水ンと紫さんが急遽一緒に行ってくれる事になった時、とっても有り難かった。開演までの間、僕はパンフレットだけ買ってロビーで四人で話をしていた。そこへ突然、フランス語で声を掛けられて驚いた。



『ムッシュー・フカミ!』


「ゲッ!!」


現れた白人男性を見た瞬間、深水ンは本当に嫌そうに顔をしかめた。

求められた握手も嫌々なのが丸分かりだ。








『この前は、本当に失礼した。フランス語なら出来るんだったな。また会えて嬉しいよ、フカミ』

『・・・・・俺は残念で堪りませんよ。

・・・・・・失礼と云うなら、現在進行形です。

俺の周りのネズミをどうにかして頂けませんかね?』

『ハハハッ!君は本当に面白い。

そこまで私に向かってハッキリものを言えるなんてね』

『変な遠慮はしないようにしているんです。

・・・・この再会は、偶然ですか?故意ですか?』



「私と雅さんがこの公演のチケットを取ったのは、もう半年近く前ですから、私との再会は偶然ですよ。

ですが貴方の出席を知って、この男が割り込んで来たのは、数日前ですから・・・・・」



「・・・・・・結局、故意と云う訳ですか」



フランス語でのアレッサンドリ氏との会話に割り込んで来た日本語は、当然の如く各務正哉氏だった。


「お久し振りです、深水さん」

「・・・・各務さん・・・・貴方からも何とか言ってやって下さいませんか?

もし万が一、どこかの配下のネズミが日本にやって来るようなら、俺は伊倉物産のワインは今後一切二度と購入しませんよ」

「それは困ります!!分かりました。私が責任を持って対処致しましょう。

もし今後、ネズミの存在を感じたら、その時こそ不買運動を開始して下さい」

「・・・・・本当に、お願いしますよ・・・・うんざりしているんです」



『おい!私に理解るようにフランス語で話してくれ』


蚊帳の外に置かれた男が不満も露わに再び会話に参加してくるが、この男とは話す事は何もない。

無視しようとしたら、厄介な奴がやってきやがった。



『お話し中、失礼致します。深水の連れの、緋龍院京牙と申します。

どうぞ、お見知りおき下さい』

余計な事を・・・!と思ったら、小さな呟きが聞こえた。



「Le diable de yeux rouges!」



・・・・なるほど、敵情視察は完璧と云う訳か。

この分だと義兄弟と云う事もバレバレなのだろう。

理解っていた事とはいえ、こうハッキリ知らされるとやはり面白くない。



「・・・・各務さん、やっばり明日から運動を開始して良いですか?」


「待って下さい!お怒りはごもっともです。今すぐ謝罪させます!」



そう言うと各務氏は、早速のようにアレッサンドリとイタリア語で口論を始めた。すっかり疲れてしまった俺は、

楽しそうに口論を眺めている奴を放って置いて、紫さんの姿を探した。

すると紫さんは、翠君とは勿論だが、あの伊倉氏と一緒にいるのには驚いた。

三人の男のパートナー同士が仲良くおしゃべりしている様は、何とも微笑ましいものがある。だがしばらくすると、ある事に気付いた。






―――見られている―――






日本人は、その肌の肌理こまやかさなどからも、

こちらの人間からは堪らない魅力に映る時がある。



例えるなら・・・・・




白磁の肌をし、栗色の髪を緩くオールバックにした優美な美貌の伊倉雅は

【ガニュメデス】



碧玉の瞳をした素直で眩い笑顔の少年 一条翠は、

さながら少年の【アポロン】



そして自分の愛しい人 加納紫は、

ニンフを惑わした美貌の少年・現代の【ヘルマプロディトス】






―――面白くない―――






他の二人は知った事ではないが、【彼】には自分と云う存在がいるのだと、

舐めるような視線を向けてくる輩に思い知らせてやらなけばならない。急かされる思いで彼らへの一歩を踏み出した。









翠達の元に急ぐ義弟の姿を眼の端に捉えながら、俺は興味深くアレッサンドリ氏と各務氏の会話を見守った。俺は昔から徹底的に言語の習得を義務付けられていて、最低限の英・仏・伊・独・西は勿論、そして最近では商売柄必要に迫られて、数種の中国語をマスターしている。

彼らも俺が内容を理解しているのを承知しているのだろうが構わずイタリア語でがなり続けている。アレッサンドリ氏と各務氏の力関係は微妙だ。京吾(あいつ)は二人は友人同士だと言っていたが、各務氏のアレッサンドリ家での立場は調査済みだ。それを証明するように、時間が経過するにつれ、アレッサンドリは各務に、やりこめられている。



―――面白い―――



翠の酔狂についてきて、こんな面白い見世物を見物出来るとは思わなかった。

彼らと出会った、あいつに感謝しなければならないだろう。・・・どうやら、話がついたようだ。彼らがこちらにやって来た。



「先程は、私の友人が貴方にも失礼な事を申し上げました。どうか、ご容赦下さい」

「いや、彼の立場としては、ある程度の事を調べておくのは、当然の用心だろう。

ただ、あいつは・・・深水は一般人だ。あいつにだけはキチンとした謝罪を求める」

「勿論です。彼は・・・・ああ、雅さんたちの処ですか。」

「ああ、自分の新妻が他人の視線にさらされるのも我慢出来ないみたいで、血相を変えて飛んで行った。」

「それでは、これから・・・・・・・・・・」




そこへ何ともタイミング良く、開演十分前のアナウンスが響いた。




「・・・・・何とも間が悪い。

申し訳ないが、謝罪は先送りさせて頂きます。」各務氏が盛大な溜め息を吐いた。



「それじゃあ、幕間の休憩時間にロビーのバーで会おう。Ciao!」








ボックス席でワクワクと開演を待ちながらも、今、出会ったばかりの人の事について興奮気味に話す。


「ねえ、伊倉さんて、あの伊倉物産の社長さんだったんだ!

深水ンとは、イタリアのワイナリーで会ったんだって。

驚いちゃったっ!!

あそこのワイン、美味しいですねって言ったら、伊倉さん、喜んでくれた♪」


「・・・・例の薬が入ってたワインも、そう言えば、あそこのやつだったな」

「・・・・っ!!もう、それは言わないでよ~~~///。あ、ほら、始まるよっ!!」


徐々に暗くなってくる場内に、僕の緊張は最高潮に達し・・・・・・・後は、陶酔の世界に身を投じた。







パリのオペラ座、行ってみた~い♡

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