マリーとにんじん
「ごちそうさまなのじゃ。
フェリクス、先に失礼するぞ。午前中のうちに城下町で買いたいものがあるのじゃ」
「お、そうか。
ん? マリー、まだ残ってるぞ」
フェリクスが指さしたのは、妾の皿の上に残ったにんじんじゃ。
「もうおなかいっぱいじゃ」
「そんなに量なかっただろ。残したら料理長が泣くぞ」
「うー」
フェリクスに顎で「食え」とやられて、妾はしぶしぶ椅子に座り直す。
皿の上には、温野菜に添えられていたにんじんが一つ残っておる。花の形にくり抜かれたにんじんは愛らしく、これが甘く煮てあるのなら食べられるのじゃが、今日のはなんの味付けもされていなかった。
「まさか、十歳にもなって、にんじんが嫌いなんじゃないよな?」
ぎくっ。
フォークでにんじんをつつく妾に、フェリクスが珍しくするどいことを言う。
「そんなわけなかろう。昨日の夕食では食べていたじゃろう?」
「そうだな」
昨日のにんじんは、一口大の細長い形に整えられ、肉の横にちょこんと乗っていた。甘い味付けがされていたし、ソースにからめて食べてしまえば、にんじんの味はしなかった。
しかし、今朝のはなんじゃ。ゆでただけとは、料理長の怠慢ではないのか?
「細切れにしてないで食えよ」
「わかっておる」
食べるふりをして、切り刻んでいただけじゃったのがばれてしもうた。フェリクスはじっとこちらを見ておる。これ以上はごまかしようがない。
意を決した妾は、息を止めてにんじんを口にふくんだ。そしてすかさず水で流し込んだ。
「全部食べたぞ! 今度こそごちそうさまなのじゃ!」
「おう、気をつけて行って来い」
手をふるフェリクスのにやけ顔が憎い。
くっそう、あやつめ、わかっておったな。
「土産はないからの!」
「わかった、わかった。昼には帰ってこいよ」
なんじゃと?
昼は城下町で好きなものを食べる気じゃったのに。
まぁ、よい。そう続けてにんじんばかり出ないじゃろう。
買い物をすませ、城に帰ってくると、にんじん尽くしの昼食が待っておった。
オレンジ色をしたにんじんのパンに、にんじんのスープ、にんじんのレモンあえに千切りにんじんのフライ。飲み物はにんじんジュースで、にんじんのゼリーまであった。
「……なんでじゃ」
「ばれてないとでも思ったか? 苦手な食いもんがあっちゃ、王族として困るだろう」
他国を訪問して接待を受ける際など、その国の料理をうまそうに食べられたほうが外交がうまくいく、とフェリクスは言う。
それはもっともじゃと思うが、だからといっていきなりにんじんだらけの食事を用意させることはなかろう。
「これはあれか、ヨウジギャクタイというやつか」
「阿呆、人聞きの悪いことを言うな。おまえのためを思って料理長が腕をふるったんだ。残さず食えよ」
向かい側に座ったフェリクスも、同じものを食べている。仕方なく妾もジュースに手を伸ばした。
うむ、これは甘いから大丈夫じゃ。たぶんりんごの果汁が入っておる。
パンはどうじゃ? 焼いたせいか、にんじんの青臭さはほとんどないの。
フライも、まぁ、衣の味でなんとか食べられる。ゼリーもよい。しかし。
「これは食べられぬ。フェリクス、食ってくれ」
「あぁ?」
レモンあえとスープを、ずいっとフェリクスの方へ押しやった。
「うまかったぞ? 食ってみろよ」
「一口は食べた。これ以上は無理じゃ」
「おまえなー」
だって、レモンあえはレモンの酸味のあとに生のにんじんの味がそのまま舌に残るのじゃ。にんじんのスープも花形のにんじんがいくつも浮かんでいて、どうがんばっても全部は食べられぬ。
「両方はだめだ。どっちかは食え」
「ううう」
なんて横暴な奴じゃ。
究極の選択を迫られた妾は、城下町で覚えたおまじないを唱えることにした。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」
「なんだ、それは」
「うるさい、黙っておれ。て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」
レモンあえとスープを、交互に指さす。
物事をどうしても決められないとき、こうすれば運命の一つがわかると教わった。庶民の知恵とはすごいものじゃ。
「……っと。こっちじゃ」
「ようやく決まったか。さっさと食え」
にんじんのスープが戻される。これが運命では仕方ない。妾はにんじんを細切れにすると、スープと一緒に一気に飲んだ。
「ごほっ、ごほっ」
「おいおい、無理すんな」
「誰のせいじゃ!」
「ちゃんと食べないのが悪いんだろ。にんじんなんて別に味なんかしないだろうが」
フェリクスはそういうと、妾が渡したレモンあえをぱくぱくと食べた。
ぐぬぬ……。
きっといつか仕返しをしてやるぞ!
それからも、毎食毎食、必ずにんじん料理が出た。
「あのな、料理長。こそ~っと、妾のだけ甘く煮てくれぬかの」
「姫さま、申し訳ありません。できるだけ素材の味でと王から命令されておりまして」
「うぅ……」
厨房での直談判もだめじゃった。それどころか、おやつまでにんじんを使ったものが出されるようになった。
今日のおやつは、にんじんチップス。薄く切って乾燥させたにんじんに塩をふっただけのもので、噛むほどに濃縮されたにんじんの味がして、とんでもないものじゃった。「これが一国の王女のおやつなのか!?」とフェリクスの執務室に駆け込んで文句を言ったが、「仕事中だ」とあしらわれてしまった。
かくなるうえは、今の状況がどんなに辛いか、フェリクスにわからせるしかない。じゃが、フェリクスに苦手な食べ物などあるのか?
妾はその足で窓際大臣たちの塔に行き、情報を乞うた。
「ふむ、そうじゃのう。王の苦手なもの……。思い当たりませんのう」
チェス盤をにらみながら、アナンドが首をかしげる。
対するのはモーフィ。盤上は、わずかながらモーフィが優勢じゃった。
「王手じゃ!」
「うぬぬ、待て、待て! あっ、そうじゃ!」
対するアナンドが、突如叫ぶ。
「なんじゃ。いまさら手は変えられぬぞ」
「違うわい。王の苦手なもの! 思い出したぞ。ほら、あれじゃ、あの魚の……」
「おお、そうじゃった。しかしこのあたりで手に入るかのう」
「なんじゃ、なんじゃ、魚? フェリクスは魚が苦手なのか?」
「魚そのものではなくての。
姫さま、耳を貸してくだされ」
「む?」
ごにょごにょごにょ
「お? そんなものが?」
ごにょごにょごにょごにょ
「ふむう、妾も食べたことがないの。うまいのか?」
ごにょごにょごにょごにょごにょごにょごにょ
「なるほど、わかった! 探してみるぞ!」
「ですが、姫さま。くれぐれもこのことは内密にしてくだされ。
王の弱点などが知られたら、我が国の存続に関わりますからの」
アナンドが、真剣な顔をして言う。
妾は決して口外しないことを約束して、城下町に出かける準備を始めた。
アナンドが教えてくれた品は、そう簡単には見つからなかった。侍女を連れ、城下町を足が棒になるほど歩いたのじゃが、収穫は0《ゼロ》じゃ。
もうあきらめるしかないのか。
そう思って帰りかけたとき、声をかけてきた者がいた。
「おうじょさま!」
振り返ると、以前城下町で知り合ったエミルがいた。当然、つないだ手の先にはウォルがおった。
「こら、エミル! 慣れ慣れしくすんなって」
「なんでー? おうじょさま、すきー。おはなししたいの」
「だめだ。王女さまってのはな」
「何をごちゃごちゃ言うておる。エミル、ウォル、久しぶりじゃの!」
妾から駆け寄ると、ウォルは目をそらしてぼそっと「よぉ」と言った。
「なんじゃ?」
「な、なんでもねぇよ」
「おにいちゃんはねー、おうじょさまにもらったハンカチ、すっごくだいじにしてるんだよー。
あたしには見せてもくれないの」
「エミル! 余計なこと言うんじゃねぇ!」
ごつっと、ウォルがエミルの頭にげんこつを落とす。エミルは「うえぇ」と泣き出した。
「これ、ウォル。妹をいじめてはいかん」
「こいつがうるさいからだよっ
それより、なんか探し物でもしてるのか? 俺でよかったら手伝うけど」
「おお、そうか! 助かるぞ!」
ウォルは、しばらく前から妾たちのことに気づいていたらしい。じゃが、自分から声をかけるのははばかられると思っていたところに、エミルが呼びかけた。
「妾はいつでも声をかけてほしいぞ。せっかく友達になったんじゃからな」
「友達って……」
「ところでウォル。こういうものを知ってるかの?」
ぽりぽりと鼻の頭を掻いているウォルの耳を引っ張る。そしてアナンドがしたように、ごにょごにょと耳打ちをした。
「あー……。それは確かにあんま見ねぇな。
どうしてそんなの探してるんだ?」
「それはな、フェリクスが」
そこまで言って、妾ははっと思い出した。
そうじゃ、フェリクスの弱点は口外してはならんのじゃった。
「王さまが?」
「フ、フェリクスが、それが大好きじゃからじゃ! こっそり探し出して、驚かせてやろうと思ってな!」
「そっかー、王さまが……。よし、商店街の知り合いに聞いてやるよ。
生のはないだろうけど、塩漬けならあるかもしんねぇ」
「そうか! 感謝するぞ、ウォル!」
ぴょんと飛び跳ねてウォルに抱き付く。ウォルは「あわわわわ」と手足をばたつかせ、妾を突き飛ばした。
「なんじゃっ」
「なんだじゃねぇっ
王女さまのくせにいきなり抱き付くな!」
「感謝の意を表したのではないか!」
「言葉だけで十分だよっ
き、きれいな服が汚れるだろ!」
「そんなの別にかまわぬわっ」
何をつまらぬことを言い出すのじゃ。
以前会った時はもっとざっくばらんに話ができたのに、今日のウォルはなんだかおかしいぞ。
「おうじょさまー。あたしもぎゅ~」
ウォルの理不尽な態度にむかむかしていると、エミルが手を伸ばしてきた。うむ、愛い奴じゃ。
「エミル、妾と一緒に探し物をしようぞ」
「うん!」
「おい、俺は」
「おぬしなんぞいらん」
「ちょっ、待てよ……っ」
エミルと手をつないで、商店街へ向かう。
ウォルはなんだかんだ文句を言いながら妾たちのあとを追ってきて、結局夕方までかかって目的のものを見つけ出した。
「おお、よかった、よかった! これで一泡ふかせてやれるぞ!」
「一泡? 王さまを喜ばせるんだろ」
「む? そそそ、そうじゃな。妾としたことが、言葉を間違えておったわ。
ウォル、エミル、ありがとうなのじゃ。商店街の皆にもよろしく伝えておくれ」
「ん。
なぁ、王女さま」
「なんじゃ?」
「はじめ、変な態度とって悪かった。
王女さまの兵士になるって夢、変わってねぇから。王女さまもずっとそのまま、変わらないでいてくれ」
「おう。城に来るのを楽しみにしておるぞ」
手を振るウォルは、あの日と変わらぬ笑顔を見せてくれた。
妾は今日の戦利品を手に、意気揚々と城へと戻った。
フェリクスは、仕事がたまっているとかで一緒に夕食をとることはできなかった。それなのに、料理長はまたもやにんじんづくしの食事を出した。フェリクスがいないときくらい、普通の食事を出してくれればよいのに、じゃ。
妾は、城下町の商店街で買ってきたアレを、「フェリクスの好物じゃ」と言って料理長に渡した。料理長は、「これは珍しい。早速今日のお夕食にお出ししましょう」と言った。
食後、執務室をのぞくと、フェリクスはまだ机に向かっていた。
「フェリクス。
まだ食べぬのか?」
「あぁ、これが終わったら食う。おまえはもう寝ろ」
「うむ。おやすみなのじゃ」
「あぁ、おやすみ」
背伸びをして、フェリクスの頬におやすみのキスをする。
そのまま素直に言うことをきくふりをして、妾はこっそりと廊下のかげに潜んだ。
寝るなんてとんでもない話じゃ。
そんなことをしたら、肝心の場面を見逃してしまうではないか。
しばらくして、フェリクスが出てきた。食堂に向かうのを確認して、裏口を回って厨房に忍び込んだ。料理長はびっくりしていたのじゃが、「フェリクスの喜ぶ顔が見たい」と言うとしぶしぶ隠れるのを許してくれた。
フェリクスの食事が運ばれていく。
妾が買ってきたものも添えられていて、フェリクスがどんな反応をするのか、扉の影からこっそりとのぞいた。
グラスに食前酒が注がれる。フェリクスがそれをぐいっとあおっている間に、前菜が置かれた。
グラスを置き、フォークを手にするフェリクス。いざ食べようと皿を見て、絶叫した。
「うああああああ!」
「王!?」
「どうなさいました!?」
使用人たちが、一斉にフェリクスに駆け寄る。フェリクスは飛び退り、壁際まですごい勢いで下がった。
「おおお、おい! 料理長! これはどういうことだ! なんでこんなものを出す!」
「は? いえ、その、姫さまが王の大好物だからわざわざ買い付けてきたとおっしゃって……」
「マリーが? あいつめえええええ! くぉら、マリー!」
食堂を飛び出したフェリクスが、妾の部屋のほうへ駆けて行く。厨房側の扉からのぞいていた妾は、してやったりと笑いながら顔を出した。
「ひ、姫さま。これは王の好物ではないので?」
「ん? いやぁ、妾もそう思っておったが、違ったようじゃの。はっはっは!」
「そんな……。王に、王に姫さまが私におっしゃったことをきちんと伝えてくださいませ!」
「ふむ、どうしようかの。これからにんじんを出すときは、妾の分は甘くしてくれるというなら、考えてみようかの」
「します! 甘くしますから、どうか……!」
料理長は、白い帽子を握りしめ、顔面蒼白になって涙ぐんでおる。このままじゃクビです、下手したら絞首刑ですとわめいておったが、妾ににんじん料理を出し続けた罰じゃ。しばらくは戦々恐々としてもらおうではないか。
「ほんとかの~? 妾がいくら頼んでもだめと言っておったからの~」
「姫さまあああああ」
料理長が、妾にすがりついてくる。
仕方ない、今日のところはこれくらいにしてやるかと腰に手を当てて言った。
「心配するでない。フェリクスにはちゃんと妾から話をする。
ところで、料理はどうした。まだあるのじゃろ。妾が食べる。出してくれ。にんじん料理ばかりで、ちっとも食べた気がしなかったのじゃ」
「はい、はい。今ご用意いたしますので、お待ちくださいませ。
姫さま、くれぐれもよろしくお願いいたします。王に必ず取り次いでくださいませ」
「わかったのじゃ。どれ、とりあえずフェリクスが食べなかった前菜を食べてやるか。
ほぉ、うまそうじゃのう」
皿の中央には、丸いパイ生地を土台として、その上にクリームチーズ、その上に薔薇のように丸められたサーモンが乗っていた。そして、サーモンの上には、宝石のように光る黒い粒粒が乗っていた。
妾はナイフで食べやすい大きさに切り分け、パイ生地とチーズとサーモンと粒粒を一度に口に入れた。
「おおっ、これは……!」
ほどよい塩気とぷちぷちとした食感、パイ生地のさくさく感とチーズのまろやかさが相まって、なんとも言えないうまさじゃった。
「料理長はこの食材を知っておったのか?」
「はい。めったに手に入らない珍味ですので、修業時代にたった一度だけではありますが……」
キャビアというらしいそれは、魚の卵なのにナッツのような風味がして、おもしろかった。
「うまいのう。もっと食べたいぞ」
「かしこまりました」
料理長は、今度はゆでたジャガイモにスライスした玉ねぎを乗せ、その上にキャビアを乗せて持ってきた。これもうまそうじゃと食べようとしたとき、フェリクスが戻ってきた。
「マリー! 見つけたぞ!」
「おう、フェリクス。そなたも食べるか?」
「うああああ!」
皿を持ち上げて見せると、フェリクスは真っ青になって逃げた。
「やめろ! それを見せるな!」
「何がそんなに嫌なのじゃ」
「何ってそれだ! その粒粒! うああ、気持ち悪ぃいいいい」
逃げ惑うフェリクスの話を要約すると、小さい粒粒がたくさん集まっているところが嫌じゃということがわかった。味とか匂いとかの問題ではなく、見るだけで鳥肌が立つのじゃと。
「意気地がないのう」
「うるさい! とにかく俺に見せるな、近づくな!」
「妾に無理矢理にんじんを食べさせるのをやめるか?」
「それとこれとは」
「ほぉら、フェリクス、うまいぞぉ。
食べ物を粗末にしてはいかんのじゃろう?」
「うああ、だから近寄るなってー!」
キャビアを手にフェリクスを追いまわし、妾はとうとう無理ににんじんを食べなくてもよいという言質をとった。
「味付け次第では食べられるのじゃから、よいじゃろう?」
「わかった。いい。食えるときだけ食え。
だからスプーンに乗せて差し出すのはやめてくれ」
「フェリクスがわかってくれてうれしいぞ。何事も無理強いはよくないのじゃ。フェリクスも、苦手なものを食べなくてはならない苦しみがわかったじゃろう。インガオウホウとはこのことじゃ」
妾がにっこり笑って言うと、フェリクスはこくこくとうなずいた。
こうして、妾は平和な日常を取り戻した。
長靴をはいて、手袋をはめる。髪はカーラに結わえてもらって、裏庭に作った畑に出た。
「姫さま、どうぞ」
庭師が、細長い種を手のひらに乗せてくれる。
「おお、これがにんじんの種か! 小さいのう」
庭師が作っておいてくれた畝に、ぱらぱらと種を蒔く。今日の日付を書いた木札を立て、水をやった。
「大きく育てよ」
妾とて、苦手な食べ物があるのはよくないと思っておる。そこで、愛情をこめて自分で育てれば、おいしく食べられるのではないかと考えた。
「収穫はいつじゃ?」
「そうですね。三か月後くらいでしょうか」
「わかった。楽しみじゃの!」
それから妾は毎日水をやり、太く育つよう間引きをし、葉についた虫を取った。こまめに世話をしたかいがあって、立派なにんじんができた。自分で育てたにんじんは、生のままかじっても甘く、うまかった。
「まったく、おまえには参ったよ」
籠いっぱいのとれたてにんじんを抱えて執務室へ行くと、フェリクスはそう言って苦笑いをした。その日はにんじんづくしの夕食となったが、どれもおいしく食べられた。
クビを免れた料理長は、ひときわ丁寧に妾が育てたにんじんを調理してくれた。
その後、キャビアがフェリクスの好物だという話が諸国に伝わり、ときおり親書とともに届くようになった。
「うああああ! くそっ、マリー!」
「はははっ、いい好機ではないか。フェリクスも苦手を克服すべく努力すればよいのじゃ。
なんなら、チョウザメを池で飼ってみるかの?」
「やめてくれ! 粒粒がたっぷり腹に入ってることを想像したら……うああああ!」
リーンハルト城は、今日も平和じゃ。
ただし、フェリクス以外……な。




