3話 半ゴブリン支援団体ノア
僕、誠一郎は気付かずにパラレルゲートというものを通っていた。
そしてこの世界に来た。
この世界には魔力が満ちており、魔法が使える。
説明用ビデオテープは多くのパラレルワールドが存在し、その世界ごとに魔力密度が違うらしい。
僕の世界は魔力が非常に少ないために魔法がほとんど使えなかったらしい。
こんな魔法を使える世界に来たら、普通ならドキドキワクワクしてもおかしくないと思う。
自分も魔法を使えるかもしれないと…。
だが、それ以前の問題が今の僕を苦しめている。
これから行くところは、それをなんとかする可能性がある…らしい。
僕はパトカーに乗せられて半ゴブリン救済をうたう人権団体「ノア」にむかっているらしい。
手錠をはめられて後部座席に1人、運転しているのは若い警官だ。
「もう少しで到着する。」
「はい、分かったっす。」
「…ちょっといいか?」
「なんです?」
警官は路肩にパトカーを止めて振り向いた。
「昨日、黒鳥警部が君のために行った行為は決して軽い処罰で終わるもんじゃない。」
「そうなんすか。黒鳥警部にありがとうと伝えて…くれますか。」
「で、だ。これは俺の独断で君に依頼するんだが、この子を見かけたら連絡をして欲しい。」
そう言って、1枚の写真を見せて来た。
「…この子、黒鳥警部に似てますね。」
「お子さんだ…半ゴブリン化して今は君がこれから行く赤のゾーンにいるらしい。君と同い年だ、急がなくていいから頼む。」
「いいですよ。僕が生きていたら、人間でいられたら、ですけど。」
「それでいい、後、内密にな。誠一郎君、俺の目をみろ。」
そう言われて、目を合わすと目の奥が痛くなった。
「うお!写真がまぶたの裏に!」
「警官が捜査で使う照合魔術の応用だ、しばらくしたら消えるがそれまでに記憶に残して置いてくれ、以上だ。」
そして、パトカーはなにもなかったように走り出した。
少し大きめのビルのそばにパトカーは止まり、若い警官に連れられて中に入った。
「では、ノア第二関東支部長シャイル殿、”セイ”の引受人として頼みます。」
「はい!万事お任せください!」
「それでは。…そういえば”ルー”はどうなりました?」
「申し訳ありません、あれから、いなくなったままです。まことに、まことに申し訳ありません。」
誠一郎は”セイ”と呼ばれることになったようだ。
”ルー”と言うのは黒鳥警部のお子さんの名前だ。
その世界の非情な掟…人権のなくなったモノには本名を名乗ることが許されない。
(あの人、なんとなく誠意のない謝り方だ。)
そのことに若い警官も気づいているようだが、それ以上は言わない…。
人権がない者は、どこでなにをされても文句は言えない、これもこの世界の非情な掟。
ぼくは若い警官と別れたあと、シャイルさんに連れられて小部屋に移る。
「まあ、セイ君今後ともよろしく!後はこれからくる桜子に聞いてくれ。」
そういうとシャイルはサッサと出て行った。
その対応は僕をとても不安にさせた。
落ち着かないので椅子に座らないで窓の外を眺めていると、扉が開いて女性が入ってきた。
僕の感覚では二十歳前後の美人、よくわからないけど服装は秘書っぽい。
が…眉間にシワがあって少し恐い。
「セイ君ですね、私は桜子です。あなたのことは警察から報告を貰って解析済みです…。」
そういうと桜子さんは私の手の甲に紙を貼った。
魔方陣らしきものが描かれてあり、微妙に色合いが変わる。
「中和効果はまだしばらく持つようです。この紙が赤くなったら教えてください。まだ夕方まで時間がありますから外にでも行きましょう。」
口調は丁寧だが、何故か事務的な感じがした。
僕の不安は強まるばかりだった。