2話 説明用ビデオテープ
ーーー逮捕されてから約2時間後 ーーー
「おおよそのことは、理解できたかい?」
僕、鈴木誠一郎に、自分を逮捕した警官…黒鳥警部…が声をかけて来た。
右横に座った黒鳥警部の方を向いて、僕はコクコクと頷く。
僕は今、どこかの警察署の中の一室…簡素な事務机と椅子2つしかない部屋にいる。
誠一郎の警察施設、というかこの部屋に対して唯一自分の知識と違ったところがあるとすれば、床の魔方陣だ。
警察署に魔法陣…あり得ない。
この現実を否定したかった。
だが、現実を知らせるモノ…ビデオテープを
ここにきて1時間くらいを見せられていた。
「便宜上君のことを誠一郎君と呼ぶ。
今の説明ビデオの要点をおさらいしよう…。」
…コクッと頷く。
そして、自分にとっては非現実的としか思えない問答が続いた…。
「誠一郎君、答えなさい。君はこの世界の人間か?」
「違う、…違います。」
「正解だ。」
「答えなさい。君はどうやってこの世界に来た?」
「…パラレルゲートというものをくぐったみたい…、だからです。」
「正解。」
「答えなさい。君の世界とこの世界の一番の違いは?」
「…ま、魔法?」
「正解。」
「答えなさい。君の世界とこの世界の同じ部分は?」
「…時間。あと地理と文明レベル?」
「うん、時間は正解。時間は完全に一致している。地理と文明レベルは酷似しているが違うことも多い、いいね。」
「はい。」
「答えなさい。君が先程気分が悪くなった原因は?」
「…世界に満ちている魔力密度が、低い世界から、高い世界に来た、ため?ええと、人体への魔力の、急激な流入、のせい?」
「正解。これが君の運命を左右する最大の要素だ!君は運がいい…と思った方がいい。」
「…さすがにムリっす。それだけは。」
「気持ちはわかる。しかし、コンビニ店員の女性が気を利かせて飲ませたあの中和剤がなかったら今頃君は死んでいた。…我々の手にかかって。」
「でも、でも!あの時殺されなかっただけじゃ無いですか!」
「…。」
「…すいません、大声あげちゃって…。」
「構わない、職業柄慣れているからね…。」
「では最後に答えなさい。君に人権は?」
「…あり…ません。」
「この世界に鈴木誠一郎は1人しかいない。だから君は、鈴木誠一郎を名乗れない。」
「その人にあったら俺は消えてなくなるとかあるっすか?」
「それはない。来訪者はそれを気にするようだが、過去に検証されている。君はこの世界の誠一郎ではない、別人だ。」
「…消えてなくなりたいっす。」
「君が人権を得る方法はビデオにあった通りだ…。
君の世界ではどうなのかはわからないが、我々警察は君を人間として扱えない。手伝うことも出来ない。
…明日、君を半ゴブリン人権団体に君を引き渡す。
上手くすれば、いい方に”進化”できる…可能性は高く無いが。」
「…。」
「どうした?」
「…諦めるなとか、いってくれないんすよね…。」
「13歳の君には辛すぎる現実なのはわかる…だが、職務中に君に同情的な言葉はかけられない…分かって欲しい。」
「…その言葉だけでいいっす。ありがとうっす。」
うつ向いた自分を置いて黒鳥警部は部屋を退出しようととびらを開け…振り向かずにつぶやいた。
「強力な魔力中和の魔方陣のある留置所を、人権のない君に使わせるわけにはいかない。ここが私の判断で使える部屋のなかでは1番魔方陣の力が強い。ここにいなさい、後で食事と布団を持ってくる。」
パタンと、音をたてて扉がしまった。
その途端、僕の目から涙が一気に溢れ出て来た。
しばらく、止めることは出来なかった…。