終わりなき日常
あっちゃんは、特撮ヒーローが大好きだ。とりわけ、日曜の朝にオンエア中の『仮面ライガー・ファントム』に夢中らしい。どれほど好きかというと、
「あっちゃんな、ファントムと結婚すんねん」というぐらい好きである。
これは、聞き捨てならない。僕は大人気もなく嫉妬の炎を燃やしてしまう。ファントムとは正確にいえば、主人公のイケメン俳優だろうが、あっちゃんのハートを射止めるとは羨ましい野郎である。
だが、そんな想いはおくびにも出さず、僕は真面目な顔つきで、
「あっちゃん、実はな、おじちゃんには、どえらい秘密があんねん。これは絶対に秘密やで。もしも他の人に知られたら、天地がひっくり返るほどの大騒ぎになってしまうんや。それぐらい、どえらい秘密なんや。あっちゃんは、秘密を守れるか?」
「守れる」と、あっちゃんは即座に言い切る。
「ホンマかなぁ。誰にも言うたらあかんねんで」
「ホンマや。誰にも言えへん」あっちゃんは断言する。
「ほな、あっちゃんを信じて、秘密を教えたるわ」僕は顔を寄せて、小声で伝える。「おじちゃんは昔、仮面ライガーやってん。ムチャクチャ強かってんで。悪いやつらなんかコテンパンや。けどな、運悪く大きな怪我をしてもうて、仕方なく引退したんや」
神妙な顔で聞いているあっちゃんに、僕は断言する。
「そやから、ファントムはおじちゃんの可愛い弟分や」
「そんなん、嘘や」
僕はニヤリと笑って、
「嘘ちゃうで、これ見てみ」そう言ってタブレットの画面を見せる。
映し出されているのは、昨日つくったばかりのAI画像だ。あっちゃんを喜ばせようと、少し前のライガーに僕の首をすげかえた合成画像である。ファントム役のイケメン俳優と僕が肩を組んで笑っている合成画像もある。
自分でもバカなことをしていると思うが、あっちゃんから尊敬の眼差しを受けるためなら何でもない。赤の他人からどう思われようと、僕は平気の平左である。あっちゃんの反応はどうだったかというと、
「おじちゃん、すごいわ」四歳児はコロリとだまされた。
だが、悪いことは長続きしない。翌日、妹から怒られた。
「お兄ちゃん、しょうもない嘘を吐くのはやめといて」
「嘘吐きや、嘘吐きや」あっちゃんも非難の声を上げる。
秘密を一日も守れなかったくせに、僕の脚にしがみついて睨んでくる。そんな表情も可愛らしい。僕は笑ってごまかすしかない。
けれど、これも日常である。父が亡くなっても、葬儀の段取りに奔走しても、諸々の後始末に追われても、日常は続く。終わりなき日常は続いていく。
僕たちは生きているかぎり、必然的に日常を送らなければならない。良いことがなくてもいい。特別なことが起こらなくでも構わない。たださりげなく、ごく自然な形で、ありふれた日常が続いてくれればと思う。




