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マジックアワーの島  作者: 坂本光陽
あっちゃんに首ったけ

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5/6

かわいさ100%


 僕たちは毎日、集中治療室に行き、父を見舞った。倒れてから意識不明の状態が続いているが、あいかわらず血色はいい。今にも目を覚ましそうに見える。


 担当の先生から、すでに病状に関する説明を受けている。脳梗塞はかなり深刻な状態らしい。意識が回復する可能性は限りなくゼロに近い。生命維持装置のおかげで生かされている状態である。いつまでもつのか、専門家にもわからない。だから、最悪な結果を覚悟しておく必要がある。


 母は気丈に振舞っているが、内心、動揺していることは明らかだ。だから僕は、しばらく実家で過ごすことにした。幸いなことに、僕の仕事はネットさえつながれば、どこででも働くことができる。


 東京では不規則な暮らしをつづけていたのに、島では自然と規則正しくなった。まず、午前10時に母と妹と一緒に、父のお見舞いに行く。看護師さんによると、意識がない状態でも聞こえていることがあるらしい。僕たちはかわるがわる、父に呼びかけたり話しかけたりした。


 その後、スーパーマーケットに立ち寄って、弁当や食材などを購入してから帰宅。みんなで遅めの昼食をとる。母と妹が後片付けや洗濯をしているうちに、僕はノートパソコンでひと仕事。それが済んだら、あっちゃんと遊ぶ。トランプをしたり、ボードゲームをしたり。


 陽が暮れる頃に、妹とあっちゃんは帰っていく。仕事の残りをこなしてから、母と一緒に夕食をとり、テレビを見ながら雑談。帰郷してから、アルコールは一滴も飲んでいない。風呂に入って、午後10時頃には就寝する。規則正しい生活のおかげで、すっかり健康になった。


 父の病状は予断を許さないけれど、僕たちはあっちゃんに救われていた。あっちゃんのくったくのなさ、元気いっぱいの姿は生命力に満ちている。まさに完全無敵である。明るい笑顔は重苦しい雰囲気を吹き飛ばしてくれた。


 あっちゃんは、フライドポテトが大好きだ。とりわけ某ファストフードのそれがお気に入り。可愛い指先でつまんでは、パクパクおいしそうに食べる。僕が笑顔で見守っていると、あっちゃんは一本つまんで差し出してくれた。


「おじちゃん、これ、美味しいで」ありがたく、お情けをちょうだいする。


 ただ、これがポッキーになると、いささか状況が変わってくる。どうやら、フライドポテトより大好きであるらしい。どれほど好きかというと、妹がおやつとして皆に均等に分けたのに、僕の分をこっそり横取りしてしまうほどだ。


「この子は何してんの。おじちゃんに返しっ」

 妹に怒られても、あっちゃんは平気だ。え、私に言ってるの、何のことかな、と素知らぬ風である。


 どうやら、四歳児のわがままは食欲に特化しているらしい。成長するために多くの栄養分を求めている時期なのだから、当然なのかもしれない。いつも笑顔をふりまいて、僕たちを楽しませてくれるのだ。ポッキーぐらい、喜んで進呈しよう。


 あっちゃんは大相撲が大好きだ。横綱や大関ではなく、宇良が好きという点には、大いに見どころがあると思う。妹の話によると、大相撲中継が始まると夢中になって見ているらしい。(淡路島出身の関取といえば、少し前に引退した照強(てるつよし)がいる。大量の塩を高々と投げ上げるので有名だった)


 見ているだけではなく、あっちゃんは相撲をとるのも大好きだ。もちろん、場所は土俵ではなく、我が家の四畳半である。

「はっけよーい、のこった」そう言って、もみじみたいな小さな張り手を繰り出してくる。


 普通の大人なら、わざと負けるなどの対応をするのだろうが、あいにく僕はそうではない。いくら可愛くても、勝負に情けは無用。相手が四歳児でも容赦しない。ひょいと両手首をつかまえて、小さな身体を軽々と引き上げる。大きく振り回してから、ゆっくり優しく床に降ろして、上から押さえつけてやった。


 僕があっちゃんに覆いかぶさった態勢である。見ようによってはドキドキしてしまう態勢だが、不謹慎な考えはあっちゃんの笑い声に打ち消されてしまう。

「おじちゃん、まいったぁ」


 ケラケラ笑うあっちゃんは、究極の愛くるしさだった。



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