かなわない
ほとんど毎日のように、あっちゃんと顔を合わせていた。一緒に遊んで、一緒に夕ご飯を食べる。今ではすっかり、親友のような間柄である。恋人でないのが、つくづく残念だ。
ある昼下がり、僕はあっちゃんと記念写真を撮ってもらった。母が撮ったにしては上出来である。僕の膝の上にチョコンと座り、あっちゃんの天使を超える微笑み。スマホの待ち受け画面に最適だ。見ているだけで、にやけてしまう。
ふと母から言われた。
「あんた、やっぱり、お父さんにそっくりや」
僕は即座に否定する。
「何でそうなるねん。全然似てへんやないか」
「いや、その写真とそっくりなやつがあるやろ。ほら、お父さんがええ顔しているからいうて、遺影に使ったやんか」
「そんなん、知らんわ。遺影って葬式のやつかいな。そもそも俺は、何で父さんとそっくりなんやって訊いとんねん」
母の話はいつも支離滅裂である。主語がコロコロかわるし、話の流れに関係なくあっちこっちに飛ぶので、まったく要領を得ない。
振り返ってみれば、遺影の中の父は確かに、にっこり笑っていた。頑固者で堅物の父には珍しい笑顔だった。その写真を遺影に選んだのは、母と妹である。だから、引き伸ばしてトリミングをする前のオリジナル写真を僕は見ていない。
「ほら、そっくりやろ」
母が差し出したオリジナル写真は、父が若い頃の写真だった。30年ほど前だろう。髪の毛が真っ黒な父が、満面の笑顔を浮かべていた。ずっと僕と折り合いが悪く、顔を合わせては喧嘩ばかりしていた父とは、似ても似つかない。いつも無愛想だったし、しかめっ面しか僕の記憶にはない。
笑顔の理由は、膝の上にあった。おさない頃の僕をチョコンとのせて、顔じゅうで笑っている。誰が見ても明らかだろう。父の笑顔は僕が可愛くて仕方がない、と物語っていた。
心の奥底から、こみあげてきたものがある。やばい。必死に我慢しようとしたのに、写真がぼやけてきた。葬儀でも、涙ひとつこぼさなかったのに。
僕は逃げた。30にもなって、母の前で泣くわけにはいかない。
「おじちゃん、どうしたん?」あっちゃんが心配そうに、後をついてきた。「何で、泣いてんの?」
僕はとっさに嘘を吐いた。
「何でも、あらへん。コンタクトレンズがずれただけや」眼鏡男子としては無理のある嘘だったけど。
折り合いが悪かったので、父とはずっと距離をおいていた。親孝行なんか一度もしたことがないし、考えすらしなかった。その上、顔を合わせないまま亡くなってしまった。
後悔するにも反省するにも遅すぎる。かつて僕が父親から受け取ったものは、もう返すことはできないのだ。だから、その代わりと言っては何だけど、同じものを可愛い姪っ子に捧げよう。
僕はあっちゃんを抱き上げる。頬ずりをしたり脇腹をくすぐったりすると、「キャッキャッ」と大喜びである。しかも、こんなことまで言ってくれた。
「あっちゃんな、泣き虫でも嘘吐きでも、おじちゃんのこと大好きやで」
ズキュン、ズキュン。ハートのど真ん中を撃ち抜かれてしまった。
僕の日常は、あっちゃん一色に染まる。可愛い姪っ子に心を鷲づかみにされ、はっきり言って、メロメロである。
ああ、やっぱり、あっちゃんにはかなわない。




