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マジックアワーの島  作者: 坂本光陽
フルーツショップの手提げ袋

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 私は島で生まれて、島で育ってきた。島と言っても、なめてもらっては困る。面積が約600キロ平米。淡路島は瀬戸内海で最も大きな島である。全国の離島の中でも4番目に大きく、約12万人が暮らしている。


 淡路島は気候が温暖なので、美味しいフルーツがよくとれる。イチゴ、ミカン、ブルーベリー。フルーツたっぷりのトロピカルジュースは子供のころから大好きだ。とりわけ、海やプールで遊びつかれたときに飲む一杯は最高である。


 三つ子の魂百まで。私は毎朝、フルーツジューツを飲む。ビタミンをとって健康になるためもあるが、勉強を頑張るために気合を入れる意味合いが大きい。東京の大学に合格して、島を出ていきたいと考えているのだ。


 母を残していくことに後ろめたさを感じないわけではない。女手一つで育ててくれたことには心の底から感謝している。だけど、子供は親を泣かせて成長するものだ、と割り切ることにした。


 私には母と同じ生き方はできない。生まれてから死ぬまで、島内で暮らし続けるなんて、とても我慢できない。自分の可能性を否定するなんて、年頃の女の子には無理な生き方だ。


 母のことは大好きだけど、性格はまったく違う。正反対といってもいい。母はわがままで、基本的にマイペース。だらしなく、物が捨てられないタイプだ。


 私が子供の頃に着ていたTシャツやら、縁の少しかけた食器セットやら、ゴミでしかないものをごっそりためこんでいる。私がいなかったら、かなりの高確率で我が家はゴミ屋敷になっていただろう。


 例えば、百貨店や専門店でもらった手提げ袋は、山のようにとってある。だから、私は休日のたびに訴えるのだ。

「ねぇ、物置に入れっぱなしの紙袋だけど、全然使ってないじゃない。長いものは十数年間そのままだよ。思い切って全部処分しよう」


「えーっ、どうしてぇ。桃ちゃん、勘弁してよ」

 母は若いころ、フルーツショップに勤務していた。だから、私に桃子という名をつけた。そんなシンプルさも母らしい。私は苛立ちながら、

「ほら、この手提げ袋なんか、数えてみたら38枚もあったよ。私が小学生のころに働いていたお店の袋でしょ」


 問題の手提げ袋は、白地に黒のデザイン、水車小屋が切り絵風のタッチで描かれている。袋本体には表面加工が施されているため、丈夫で持ちがよさそうだ。でも、だからといって、同じデザインの手提げ袋を38枚もとっておく必要があるだろうか。


 母は手提げ袋の束を抱きしめて、懸命に訴える。

「お願い、これだけは許してよ。この手提げ袋には、とっても大事な思い出があるの」

 若かりし頃の思い出話をたっぷり聞かされた。要約すると、せつないラブストーリー。なるほど、大事にとっておきたい気持ちを理解できないことはない。


 でも、手提げ袋は道具だ。使ってこその道具である。いくら言っても(らち)が明かないので、遠慮なく、お弁当の持ち運び用に使わせてもらうことにした。だけど、こうした些細なことが、人の出会いを誘うのだから、世の中はわからない。




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