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深淵の覇主  作者: aaaa


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第8章 失踪〔ギルド職員視点〕

ギルドの集計卓に、2件のファイルが重なっていた。


1件目。

「暁の刃」——Dランクパーティー、4名。

山域モンスター討伐依頼。出発から5日。

帰還報告なし。


2件目。

Cランクパーティー「灰狼」、3名。

近隣山域の依頼。出発から4日。

帰還報告なし。


担当のアミラは引き出しからペンを取り出した。

2件並べて処理できる案件ではなかった。


---


「副所長」


奥の事務机に座っていた副所長が顔を上げた。

「なんだ」


「少しよろしいですか」


アミラはファイルを2枚持って机の前に立った。

ヴァンはそれを受け取り、黙って読んだ。

1枚目。2枚目。


「……5日か」


「山域のモンスター討伐依頼です。

帰還期限は3日でした。2日過ぎています」


「Cランクパーティーは」


「別の依頼です。近隣山域のモンスター討伐。

帰還期限は2日でした。2日過ぎています」


「捜索じゃないのか」


「依頼は違います。

ただ——出発前に、リーダーと話していました」


「お前が声をかけたのか」


「はい。知っている人間だったので。

心当たりがないか、と聞いただけです」


「なんと言った」


「何も知らない、と。

——ただ、あいつらがクエストを放り出すとは考えづらい。

近くに行くついでに、周辺を少し見てくる、とも」


ヴァンは2枚を重ねてアミラに返した。

「依頼を出す」


「はい。案を作りました」


アミラはもう1枚の紙を出した。

ヴァンはそれを読んだ。


 種別:捜索・安否確認

 対象:未帰還冒険者 2組(計7名)

 現場:近隣山域(詳細は口頭にて)

 推奨ランク:B

 報酬:金貨15枚(生存者発見・状況確認時に加算あり)


「これでいいか、と聞いているわけじゃないな」


「はい。これで出します。確認だけお願いします」


ヴァンは少し間を置いた。

「向かったとは限らない」


「……はい」


「実績のある連中が消えた。それだけだ」


アミラは何も言わなかった。


「問い合わせが来たらBランク以下は断れ。理由は言わなくていい」


「分かりました」


「出せ」


---


依頼書はその日の夕方に掲示板に貼られた。


翌日、2件の問い合わせがあった。

1件はCランクの2人組。断った。

1件はBランクの単独。現地状況が不明な以上、単独は通せなかった。断った。


翌々日の昼前、4人連れが窓口に来た。

全員Bランク。パーティーとして登録されている。


「例の件、受けたい」


アミラは依頼書を出した。

「確認事項があります。現地状況は不明です。

現場まで徒歩で丸1日。下手をすれば戦闘になります」


「分かってる」


「帰還報告は3日以内。連絡がない場合は——」


「分かってる」と再度言った。「もう一件、未確認のダンジョンがあるとかで、

そっちを本番にしたいというのが本音だがな」


アミラはペンを止めた。


「ダンジョン調査が目的であれば、

依頼の目的外になります」


「分かってる。あくまで捜索だ。

ついでに確認してくるかもしれん、という話だ」


アミラは紙に署名欄を出した。

「捜索依頼です。それだけお願いします」


4人が署名した。


受注処理を完了させた。

ヴァンの机に控えを置きに行った。


「出たか」


「はい。本日受注。Bランク4名組です」


「3日以内か」


「はい」


ヴァンは控えを受け取って引き出しに入れた。


「数えておけ」


言葉の意味を、アミラは問わなかった。

分かっていた。


5日と4日。

合わせて9日分の沈黙が、依頼書1枚になった。


窓の外は、いつもと同じ昼の街だった。

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