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第5話:安住の地 ※挿絵追加

挿絵(By みてみん)


「―――フム」


翌朝。

俺は、「喫茶らぶろあ」のバックルームに置かれている

パソコンと睨めっこをしていた。


―――ポチッ


電源ボタンを押す。


「・・・・。」


しかし、ウンともスンとも言わない。


「……フーム」


『なんかわかりそうか?』


如月さんが状況を聞いてくる。


「まだ、なんとも……」


『ふーん…。

やっぱ壊れてんじゃねえのか? コレ』


「うーん……。もうちょっと、見てみますね……」


……さて、

あの後でなんで俺が

こんなふうに朝っぱらからパソコンと睨めっこをしているのかと言うと、

それは、昨日の夜にまでさかのぼる。


ーーー

ーー


『……す、すまん』


「ごめんなさい…。」


俺と如月さんは、

青髪の美少女に、そろって頭を下げていた。


『あはは…。

まあ、生きてればそういう事もあるよ…ね』


柚月さんはそう言いながら、

照れ臭そうに頬を指で掻いていた。


……いや。

生きている内に風呂を覗かれるような経験は、

もはや、いまのご時世となってからは珍しく、

経験できるカテゴリの中から除かれる側だと思うのだが…。


「・・・・」


『・・・・』


『・・・・』


―――シーン


再び、夜の店内に気まずい沈黙が降りた。


『……あ! そ、そうだ! さっちゃん。

マミヤくんにまたお布団出してあげて』


やがて、沈黙に耐えかねたのか、

柚月さんが空気を変えにかかった。


如月さんは

『あいよ』

と、短く返事をして、二階へ続く階段の方へと向かっていった。


『あ、あとね!』


柚月さんが思い出したように声を上げて、

こちらに目線を合わせてきた。


『マミヤくんにお願いしたいことがあってさ!』


「は、はい……?」


『マミヤくんパソコンって得意かな?

お店のやつ、なんか使えなくなっちゃってね。

みんな困っちゃっててさ!』


「あ…、ああ。

さっき、なんか如月さんからちょっと聞きました。」


『そうなの!

その…ね? だから、まだ、他が決まってなかったら、

よかったら、ウチで…働くのも、なんてどう…かなぁ。…なんて』


柚月さんが畳みかけるように言葉を紡ぐ。


「・・・・」


『あ、もちろんスグじゃなくてもいいよ!

ゆっくり考えてもらって大丈夫だから。ね』


「は、はい……」


俺は……口を噤む。


……なんで俺は、

相手に気を使わせてしまってるんだ。

なんで、そんな申し訳なさそうに、俺に言ってきてくれるんだ。


……俺は、

俺は、また施してもらうのを待っているだけなのか?


泊めてもらって、

飯を食わせてもらって、

風呂まで借りて…。


今度はなんだ?

寝床と一緒に、仕事まで恵んでもらうのか?


「―――待って! …ください。」


俺は、静かに、でも聞こえる強さで言った。


その声に、

階段を上りかけていた如月さんの足が止まった。


『ご、ごめんね! 急だった……よね』


柚月さんは、俺の語気に少し動揺したのか、

慌てたように言った。


俺は一度、息を吸って

呼吸を整えた。


「ちゃんと…、自分の口から、言わせてください…。」


眼前の青髪の少女を見つめる。

柚月さんは、それをじっと黙って答えてくれた。


……言葉を出そうとするも、

喉の奥が詰まる。それでも言わなければならない。


「ここで……、

働かせてください―――!」


俺は深く頭を下げ、

テーブルに額をこすりつけた。


―――数秒の沈黙


それから


『……いいよ』


柔らかい声がした。


顔を上げると、

柚月さんはにこっと笑っていた。


『ようこそ。喫茶らぶろあへ』


如月さんはふっと息を吐いてから、

再び階段を上りはじめた。


それから、

少し騒がしい夜は、

ちょっと騒がしい夜へとなって、

さらに更けていった。


ーーー

ーー


そんな過程を経た結果、

俺はいま、この動かなくなったパソコンと目下、格闘中というわけだった。


―――ガコッ。ポチッ


側面のカバーを外し、

再度電源ボタンを押す。…が、やはり反応がない。


「……なるほど。」


『なんかわかりそう…?』

挿絵(By みてみん)


俺の左隣りから、

柚月さんが少し身を乗り出しながら、期待を込めた瞳で覗き込んでくる。


……ち、近い。

そして、昨日の出来事が脳裏をよぎり、

ゴクリ。と、思わず喉が鳴ってしまった。


俺はその豊満な双子山から視線を無理やりケースの中へと戻し、

何事もなかった様な顔を作ってから、口を開いた。


「せ、先日までは普通に使えてたん…ですよね?」


『そうなの! こないだから急につかなくなっちゃったの!』


「ふぅむ…。」


俺はパソコン内部を見ながら、

何処に原因があるのか、目で確認する。


『だから騙されたんだって、店のやつに。』

挿絵(By みてみん)


俺の右隣りから、

如月さんが、少し身を乗り出しながら呆れたような視線で覗き込んでくる。


『そんなことないもん! こないだまでちゃんと使えてたもん!』


俺を挟む形で、

柚月さんが如月さんの方をむっと睨み返した。


「・・・・。」


俺は二人の小競り合いに、

もう少しだけ耳を傾けていたい気持ちを抑え、

思考の隅へと追いやってから、まじめに作業へと意識を引き戻した。


……実際問題。

このパソコンをここでどうにか出来なかった場合、

俺の雇用自体が白紙に戻されてしまう可能性がある。

それだけは…何とかしたい。


「・・・・。」


俺は思考を巡らせた。

せめて、

直せないまでも、故障の原因だけは掴んでおきたいところだ。


現状を整理する。

電源ボタンを押したのに、マザーボードのLEDは沈黙したまま。

点灯すらしていないと言う状態だ。


「……ふむ。となると…」


この状況で考えられるとしたら、大きく分けて二つだろう。

マザボの問題か、電源ユニットの問題か。のどちらかだと思われる。


俺はしばらく無言で考えながら、

どちらの方が可能性が高いのか考えつつ、

内部の配線を目で追い、たまに線を軽く指で押し込んで

接触不良がないか、潰していく。


……が。

その時、真宮に電流走る―――!


「・・・・。」


嫌な予感が、ふと脳内よりはじき出された。


「……いや、まさかな…。」


俺は若干の苦笑いを浮かべつつ、

本体の背面へと手を回す。


指先が探り当てた、小さなスイッチ。

それをカチリと押し込み、

もう一度、電源ボタンに指を伸ばした。


ポチッ。

―――パッ


数秒も経たないうちに、

モニターにデスクトップ画面が映し出された。


『『おぉおおおおお!!!?』』


左右から、ほとんど同時に歓声が上がった。


柚月さんは身を乗り出し、

『すごぉい! ついた! ついたよ!』

挿絵(By みてみん)


と目を輝かせていた。


如月さんはと言うと、画面をまじまじと睨みつけたまま

『ば、バカな……』

と、バトル漫画みたいなセリフを吐いていた。


『これは……、何が悪かったんだ…?』


如月さんが興味津々といった感じで、

疑問を投げかけてきた。


「えぇと…。パソコンって、電源ボタンとは別に、

背面に、主電源のスイッチがあるんですけど、それが……オフになってました」


『ほぉー…』


俺の回答に対して、

如月さんは感心したように頷いていた。


『はぇー…』


柚月さんはたぶん、わかってない。(確信)


「どれどれ…」


俺は念のためパソコンの状態を確認しながら、

システム画面を開いた。


「あれ……、このパソコン。結構性能良いですね」


いまでこそ型落ちだが、

スペックとしては三世代くらい前の性能を持っていた。


『でしょ!? ほらねぇさっちゃん!

やっぱいいやつなんだよこの子!』


うんうん。と、柚月さんは、

まるで自分が作ったかのように誇らしげに頷いていた。


『いや、中古ショップの店員に流されて買っただけじゃ―――』


『ほめてっ!』


ずい、と柚月さんが如月さんの懐に踏み込んだ。

その姿には、

褒められると決めたら、何としてでも褒められてみせる。

スゴ味があった。


『……うわあ。すごいすごーい』


如月さんは目を細めながら、

棒読み気味に手をぱちぱちと叩いた。


その賛辞に満足したのか、

柚月さんは『ふんす』と鼻を鳴らしながら、

どこへ行くともなく、誇らしげにバックルームを出ていった。


「・・・・。」


その退場姿に見とれながら、

俺は、如月さんに一つ、

胸に引っかかっていた疑問を投げかけた。


「あの……。その、雇って貰った身分で言うのも失礼だと思うんですが…」


『…ぁん?』


「ここって……、大丈夫…なんですか…?」


『ぁ?

……ああ。潰れるかってことか?』


「は、はい……。その―――」


二日前の夜、初めて喫茶らぶろあを訪れたときに、

柚月さんと如月さんの二人がホールで話し合っていた内容について、

聞いてしまったことを正直に打ち明けた。


『……あぁ。そういう事、か。』


如月さんは俺のことを一瞥すると、

自分の中で何か腑に落ちたように小さく息を吐いた。


「はい…。

その、僕なんかを置いておける余裕、ないんじゃないかって…」


如月さんは、

『んっ』と顎でバックルームの端を指した。


その先には、

キレイに整頓されていた掃除用具に並んで

二日前までは確か無かったと思われる、汚れた感じの段ボール箱が積まれていた。


「……なんですか? アレ」


『…わからん。あたしも聞きたい。』


俺は段ボール箱に近づいて、

その中の手前のもの一つを選び、箱のふたを開けた。


「……おぉう」


そこには、何に使うのかわからない

用途不明のガラクタがぎっしりと詰め込まれていた。


「……なんですか? コレ」


『…わからん。あたしも知りたい。』


―――つまり、こういうことらしい。


どうやら、柚月さんには拾い癖があるらしく、

道端に落っこちているものを見ると、ついつい拾って持ち帰ってしまうらしい。


「……男子小学生か」


『まだ使えるはずーって、言って、ほっとけないんだと。

そのパソコンとか、あそこのソファとかもそうだ。』


つまり、

あんなもん(ガラクタを)置いておく(スペース的な)余裕は無い。

という事だった。


「な、なるほど…。新しいものにはあんまり興味ないんですね」


『ま……って言うわけだ。

だから別に、お前に対して言ってたわけじゃねえよ』


「な、納得しました…。」


ひとまず、よかった。

せっかく安住の地を得たと思った矢先、

先行き不明になる心配はなくなった。


……が。

安堵したのもつかの間、

如月さんが続けて、少しだけ声を落として不穏なことを言った。


『少なくとも、今日明日とかで

店が潰れるような状況にはなってない。……と思う。』


「と、思う。って……」


うーん…。と唸って、

如月さんが言った。


『…あたしも、よく知らないんだよ。』


そう言った横顔は、

ほんの少しだけ曇っていた。


「です…か…。」


俺はそれ以上、踏み込めなかった。


『んー…、なんかな。

雪華のおばぁサマが残した遺産があるらしくてな。』


「遺産…ですか」


『あぁ。

どれくらいあるのかは知らねぇけど……、

少なくとも今まで、雪華が困った様子を見せたことも、

変なのが店に来たこともなかったよ。……二日前までは、な』


「ぐぐぐ……」


グサッと軽い嫌味を言われたが、俺は聞かなかったことにして、

心の平穏に務めた。


「そうですか…。少し安心しました。」


『ただなぁ…。』


如月さんは目を細めて、肩をガックリと落とした。


「な、なんですか…? まだ何かあるんですか…?」


『……いやな、それがあったとしても、

店が赤字垂れ流し続けていい理由にはならねぇよなぁ…。

と、思ってな』


「………。」


『……ぁんだよ?』


「いや……、如月さん、真面目だなぁと思って…」


『はっ倒すぞお前。

……んで。

なんか、良い方法とか思い浮かばないか? 真宮』


如月さんは、

挑発的な目でじっと、俺を見ていた。

でも。嫌な感じはしなかった。


これは……、

期待…、されている。脳がそう理解した瞬間、

胸の奥が、わずかに熱を帯びた。


「……考えてみます。

一旦、持ち帰らせてください。」


そう言って、俺は

この店のどこに問題があるのかを探るべく、

どこへ行くともなく、訝しげにバックルームを後にした。


■あとがき

毎週日曜20時頃に更新予定です。

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※「らぶろあ(Love Lore)」本編をRPGツクールMZで制作中です。

※イラストは「AI一部利用作品(Stable Diffusion)」となります。


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