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五十嵐朔久の自己紹介を聞き、3人は結奈に案内された空き教室に移動する。
「よし、ここなら人も来ないから秘密の話も出来るよ。じゃあ、早速話を聞かせてくれるかな。五十嵐くん」
「話も何も俺はとっとと成仏したいだけだ」
「昨日も聞いたけど、やっぱり自分の未練について心当たりはないの?」
「ねーよ。何にも覚えてない中で覚えてることはこれだけだ」
支音はどうしたら良いのかわからず助けを求めるように結奈を見る。
「うーん、そうだね。五十嵐くんて死因は何?」
「あんま自信ないけど、交通事故だったはずだ」
「何か乗り物に乗ってた?それとも徒歩?」
「車だ」
「そっか。他に乗ってた人はいる?」
「あっ、家族でドライブしてたんだ。そしたら急に後ろから車が突っ込んできて」
結奈の言葉によってだんだん記憶が戻ってきたようで、続いて言う。
「そして、そして……みんな」
「そこまで思い出せたら大丈夫そうだね」
何か分かったように頷いて席を立って足早に出ていく、焦って至音が止めようと声をかけたがその甲斐無く結奈は帰って行ってしまった。教室にはうなだれた朔久と当惑した至音だけが残っている。
「えっと、大丈夫?」
「どうかな。大丈夫そうに見えるか?」
「いや……」
「俺には弟がいた。大切だった。何で忘れてたんだろうな。未練もまあまあ分かった」
「私、何もしてないけどそれなら良かったのかな?」
「あぁ、そうだな。ところで、お前のルームメイトは帰ったのか」
「突然出ていちゃった。用事でもあったのかな?」
「あいつがいないならもういいか」
帰ろうとしたところを反射的に手を広げて止める。自分でもよく分からなかった。朔久は自分自身の未練も分かって至音も支援者としての役割も果たしたはずだ。でも、何となくこのまま帰らせたら、だめな気がした。
「待って、えーっと」
「もう用事は終わったはずだ。帰る」
「未練って、結局何だったの?」
「多分、弟に会うことだ。最期に会えたらきっと成仏できる」
柔んだ笑みを浮かべて、そっと言う。
「本当にそれが未練かな?勘なんだけど、違う気がするんだ。良かったらさ、五十嵐朔久と弟の話、私に聞かせてくれないかな?」
「面倒。俺が思い出した未練だから、俺が一番分かってる」
「そう言わずに、お願い」
手を合わせて、上目遣いをしながらお願いし続ける。余りにもうざかったのか諦めたようにため息をついて、朔久は昔の話を始める。