8話 いざ5階へ!
翌日、待ち合わせをして直哉はリナ子と合流。ダンジョンに入る前に、直哉は自分が使っていた木刀を差し出した。
「大畑さんはビキニアーマーについていた武器を使っていたんでしょ?
攻撃力は下がるけど、武器がないならオレの木刀を使って良いよ」
「いいの?そしたらノリオの武器が無くなっちゃうじゃん。どうするの?」
「オレはこれを使うよ。それとオレの名前は直哉です」
直哉は鞘の付いた果物ナイフを取り出した。刃渡り十二センチの小さな刃物だ。
通常であればこんなものではモンスター相手に大したダメージは期待できない。しかし直哉が使うとモンスターを一撃で仕留められる最強の投げナイフだ。
昨日ナイフを装備して使った結果、スキルの力によって無限に投げられることが判明した。
それは安藤から奪ったナイフだけでなく、試しに家から持って来たこの果物ナイフでも同様の効果を発揮できた。
それによりスライム狩りの効率は格段に上がり、昨日はリナ子と別れた時には残機が二しかなかったのに今日は二十もある。
これだけあれば、ちょっとやそっとの戦闘があっても問題ない。
早速、武器を装備してダンジョンに突入した。
1階2階3階は問題なく駆け抜けて、昨日途中で引き返した4階から探索を始める。
「昨日食事をご馳走になった時に聞いたんだけど、犯罪者パーティーが連れ込んだ広間は5階に通じる道とは逆だったらしいんだ。
つまりその反対に進めば正解の道、5階に行けるってことだよ!」
「お手柄じゃん!それじゃあさっさと進もうよ!」
鼻息荒くして急かすリナ子に押されて、4階を進んで行く二人。
特にこれといった問題もなく進んで行ったが、直哉には一つ気になることがあった。
「そう言えば大畑さんは装備をギルドに提出したけど、問題ないの?
レベルが上がってこの階層の適性レベルとは言え、防具も無しじゃ危ないんじゃないかな?」
「そうは言われても……ギルドで売ってる初心者用の防具は高くて、手が出ないって……」
ギルドに売っている一番安い初心者用の防具、なんとお値段二十五万円。昨日の今日で気軽に出せる値段ではない。
さらに言えばその防具はリナ子が昨日装備していたビキニアーマーより劣る物で、ある程度の階層まで上がるとモンスターからドロップする程度の物らしい。
そう言う情報を聞いてしまうと中々手が出せないものだ。なので、リナ子は装備を買っていない。
しかし、二十五万円が安いか高いかはダンジョンに潜った者だけが知っている。
入り口に入っただけのまだ初心者の二人には、そのことがまるで分かっていなかった。
「じゃあオレが前に出るから、大畑さんはなるべく後ろにいてね。
オレは昨日みたいに敵の攻撃を受けても何とかなるから、それに装備した武器を投げても無くならない能力もあるからね」
「この階はノリオに任せるよ。
でも、5階についたらレベル上げのためにあたしも前に出るからね!」
「任せて下さい。それとオレの名前は直哉です」
昨日はおっかなびっくりだったポイズンスライムを投げてくるゴブリン達だが今日は残機も潤沢にあり、さらに遠距離攻撃を出来るようになってもはや敵ではなくなった。
怖いのは死角からの攻撃だが、それもリナ子に見てもらいこの階層に直哉の脅威となる存在はいなかった。
面倒なのは階層の広さと次の階に行く階段を見つけることだが、それも少し時間はかかったが上へと進む階段を直哉達は見つけたのだった。
「やっと5階に着いたね……ここからはモンスターのドロップ確率が変わってアイテムを落とすらしいよ。
出現モンスターはホブゴブリン、ドロップアイテムは魔結晶」
最低でも1個一万円で売れるアイテム。
これが5つもあれば、直哉の食生活は安定する。
モンスターの方は2階と4階に現れたゴブリンの上位種。大きさが成人男性の膝くらいだったのが小さめの成人男性くらいの身長に大幅に大きくなっている。
更には角も皮膚の下に隠れてたんこぶのような形だった物が、尖がった角が二本生えている。
そして体が大きくなった分だけ力も増しており、ゴブリンとは比べ物にならない。近付けば一気にやられる可能性もあった。
「この階層の適正レベルは12~15レベル。あたしのレベルが今7だから5つは上げられるわ」
「それはホブゴブリンを倒せればの話だね。
犯罪者パーティー達よりかは弱いけど、今の大畑さんは防具もないし武器も木刀だし、ちょっと難しいんじゃないかな……」
「どうしてもダメそうなら貯金崩しても装備を整えるけど、やってみないと分からないじゃん!
とりあえずノリオは強いんだから、あたしに攻略法を教えてちょうだいよ」
「了解!それと直哉です」
直哉にとっても、ホブゴブリンは倒さなければいけない敵だ。
何故なら、こいつらを倒して生活費を吐き出させないと本格的に餓死の未来が見えてくるからだ。
明日から学校が始まるのでその分ダンジョンに潜れる時間は少なくなり、ドロップアイテムを手に入れる可能性も低くなる。
つまり、ここが正念場という奴だった。
ホブゴブリンは体が大きく、ゴブリンと違って徒党を組んで行動していない。
更に言えば、休日という事もあり他の探索者達が狩っているのでモンスターの姿はそう多くない。
警戒しないでいい分、モンスターを見つけるのに少し手間取ったがやっと見つけることが出来た。
一体だけうろついているホブゴブリンを見つけて、傍に他の探索者がいない事を確認すると直哉はナイフを投げてみた。直哉達に気付いていなかったので投げたナイフがホブゴブリンに刺さり、モンスターはそのまま光になって消えた。
(こうやってモンスター相手にスキルを使っていると、何となく自分のスキルが分かって来た。オレのスキルはアクションゲームと同じなんだ。
他の人達はレベルを上げて戦うロールプレイングゲームだけど、オレはレベルが上がらない代わりに雑魚敵なら一撃で倒すことが出来て、ボスなら三発必要と言った感じなんだな)
自分の力を理解した直哉に怖いものはなかった。
5階にいるホブゴブリンを殲滅する勢いで、次々と見つけた傍から倒していく。しかし一向に魔結晶は落ちなかった。
「おかしい……探パスの情報では5分の1程度でドロップすると書いてあったのに、15体倒しても1個も落ちないのはただ運が悪いだけなのか……?」
「ちょっと!あたし投げナイフのスキルないんだから、倒すならもっと別のやり方でやってよ!」
直哉がホブゴブリンを夢中で倒しているとリナ子から叱られた。魔結晶が欲しくて熱中し過ぎた事を反省して、ナイフ投げを止めて接近戦で戦う事にした。
結局倒してしまうなら直哉にとってはどちらでもいい話。パーティーとしてリナ子のレベル上げに協力すると約束したので、ホブゴブリンの攻撃パターンを見切るために直哉はホブゴブリンの前に出た。
ホブゴブリンはゴブリンと比べて体が大きいので持っている武器も大きい。
ゴブリンの持っていたこん棒はすりこぎ程度の小さなものだったが、ホブゴブリンの持っているこん棒はリナ子に持たせた木刀と同じくらいの長さの物を持っている。
大きいということはそれだけ隙が大きいという事だが、当たった時のダメージも大きい。
直哉は残機が減るだけだがリナ子に当たったら大変なことになる。
それを注意してホブゴブリンの攻撃を見切っていく。
一番隙の少なそうな攻撃の時は当たっても痛くなさそうだが、手首だけで自分の体の前でこん棒振り回していてホブゴブリンとの相打ち覚悟ならダメージは通りそうだ。
次は大きく振り下ろしの攻撃。
地面にこん棒を叩き付けてそれを何度も繰り返すというものだ。
正面に立った者に攻撃のチャンスはないが、直哉が引き付けてその間にリナ子が後ろから攻撃すれば無傷で倒せそうだった。
最後は振り払い攻撃。
大きく一回転した後は五秒ほど動きが止まる。ホブゴブリン最大の隙はここだ。
直哉はリナ子に攻撃パターンを教え、自分が囮になることを伝えた。
「でも大丈夫なの?あんなデカい棒で殴られたら死んじゃうんじゃない?」
「昨日見ていたでしょ?
オレのスキルは結構頑丈だから、殺されるような攻撃を喰らっても問題ないよ。
それに安藤とかって奴が言ってたけど、スキルによって魔法のバリアが張ってあるから、どんな人も一度だけは死なないらしいから大丈夫さ」
本当は残機が二十もあるので全然問題無いのだが、自分のスキルを打ち明けてパーティーが解散になったら困るので、直哉は自分のスキルについてはぐらかしてリナ子を説得した。
ともかく直哉がホブゴブリンの正面に立って囮役を買って出て、その間にリナ子が仕留める段取りとなった。
力は上がったようだが狡賢さは無くなって、ホブゴブリンの目の前で直哉がウロチョロするだけでこん棒を振り下ろす始末。
そんなだからリナ子が簡単にホブゴブリンの後ろを取って、隙だらけの背中に木刀を叩き付けることが出来た。
何度か叩くとターゲットをリナ子に変更して、体の向きを変えた。
直哉がこのまま倒すのは訳ないが、それではリナ子のレベルが上がらない。
「おい!お前の相手はこっちだ!」
大声を出して誘ってみるが、ダメージを与えた存在の方が優先のようで今度は直哉の方には目もくれない。
リナ子は右往左往と体を動かしてみるも、ホブゴブリンのこん棒はリナ子を捉えている。
(攻撃をすれば倒してしまうのならば……こうしてやる!)
こん棒を振り下ろそうとしていたホブゴブリン。直哉に無防備に背中を見せつけていたので、直哉はこれを羽交い絞めにした。
残機を失う可能性があるが今日は潤沢な数を持っている。一つ二つ失っても問題はない。
「大畑さん、今だよ!」
「分かったわ!」
ホブゴブリンが身動きを取れない間に、しこたま頭に木刀を打ち付けてやる。
その間にホブゴブリンは激しく体を揺らして、直哉の残機が一つ減ってしまったが残機が減ってしまった直後は五秒間の無敵になる。
無敵となった直哉から逃れることは出来ず、ホブゴブリンはリナ子からの攻撃を全て受けることになって、最後には消えていった。
すぐにリナ子の探パスから軽快な音がする。
「やった!レベルアップよ、一気に10レベルまで上がったわ!スキルも一つ覚えたわ!やったぁー!」
覚えたスキルは、盾での防御範囲を広げ防御用スキルを強化する『ガードプラス』だった。
そしてホブゴブリンがいた場所には綺麗な石が落ちていた。手のひらに収まるくらいの六角柱の紫色の水晶。
それは直哉が欲していたモンスターのドロップアイテム、魔結晶だった。