6話 五秒間だけの最強
「うあぁぁぁぁぁぁっ!」
「何だ、お前!?もう動けたのか!?」
安藤が油断している所を後ろから奇襲した直哉だが、相手はこういった荒事に慣れていてリナ子の腕を掴んだまま懐からナイフを取り出して直哉の胸に突き刺した。
「ハハハ、馬鹿な奴だ。眠っていれば苦しまずに済んだものを……体を根性で動かせても、バリアは魔法で回復するか一定時間休まないと回復しないんだぜ。
バリアが無くなっちまったお前はお陀仏って訳だな」
「きゃああぁぁぁぁっ!」
今度こそ直哉の命が無くなったと思い、リナ子は絶叫した。
安藤は突き刺したナイフをしまおうとするが、そこを直哉に手を取られる。
「この野郎っ!まだやるってのか!?」
トドメを刺してやろうと安藤はリナ子を突き飛ばして、腰の剣を抜いて直哉を斬りつけた。
しかし、その剣は空を切った。
「何だぁ!?お前のスキル……何だって言うんだよっ!」
直哉はそれに答えず、胸に刺さったナイフを抜き取り手に持った。
「装備!」
リナ子の言っていたことを思い出して、直哉はナイフを装備すると強く念じた。
装備はただ身に着けているだけでは意味が無い。装備すると強く願って真価を発揮する。
更にはこのナイフは安藤の持ち物。使っている最中に奪い返されると思い、強く念じたのだった。
安藤が剣で切れないことを不思議に思っている間に、直哉は間合いを詰めてナイフを突き刺した。
「ぐっ!雑魚の一撃でやられるかよっ!」
モンスターとは違い、スキルを持つ人間相手では直哉も一撃では倒せなかった。
安藤は直哉に反撃をするも、また攻撃は空を切る。
「くそっ!当たらねえのはこいつのスキルか……さては忍術系統のスキルだな?
回避系のスキルが持っていようとも、所詮は初心者の雑魚。MPが切れればお終いなんだよ、お前なんかなぁっ!」
正解は残機が無くなった直後の五秒だけは無敵になれるだけなのだが、安藤はそんなことは知らない。
直哉のMPを削るべく安藤は攻撃を続けるが、大事なものが見えていなかった。それは自分のHPだ。
安藤は自分のダメージなんかお構いなしに攻撃を続け、そして倒れたのは……安藤だった。
「ぎゃあああああああああっ!」
ショックダメージにより激痛が安藤の体を走り、大きな声で叫んだ後に安藤は白目をむいて気絶した。
それを見ていた広間の犯罪者パーティーは目の色を変えて、直哉へと迫って来た。
「大畑さん、オレが引き付けている間に逃げてくれ!」
「無理……ビビっちゃって……腰が抜けちゃった……」
通路の壁に背を預けて震えるリナ子の姿を見て、直哉は覚悟を決めた。
残機は残り五。敵は残り三人。
安藤のように一人に二つ使っては相打ちになる。上手く立ち回らなければならない。
一方、犯罪者パーティーのリーダである佐原は安藤がやられる所を見て、直哉のスキルについて考えていた。
「多分、奴のスキルは暗殺系統のスキルだ。
回避のスキルと、相手を一撃で倒すスキル、どちらも有能なスキルだが三人で掛かれば問題ない。まずは奴のMPを削るぞ!」
リーダーの佐原が指示を出し、ある程度の距離まで近づいたらタンク役が前に出て盾を構え、その後ろから魔術師系スキルの遠距離攻撃を主体に攻撃する段取りとなった。
安藤と同じく残機をMPと勘違いしているが、攻撃し続ければ削れるのは確かだ。
佐原は安藤がやられた時点でパーティーがやられる可能性も考えていたが、この場から逃げずに直哉を倒す方針を決めたのは二つの理由があった。
一つは直哉の事を舐めていたからだ。
この犯罪者パーティーはギルド職員から情報を貰い、新人をここで罠にかけて何度も同じようなことをしていた。
直哉が希少で有用なスキルを持っていようと、このパーティーはいつもは二十階で活動しているプロの探索者達。パーティー平均レベルも35と中々の実力者達だ。
全力で取りかかれば新人に負けることなど、万に一つもないと思っていた。
そして逃げないもう一つの理由は探パスだ。
様々な機能が付いている便利な機械だがその一つに録画機能が付いている。
ダンジョン内であったいざこざを正確に裁く為に自動で探索の様子が録画されている。
ただし通信機能が無いので外に出てギルドで確認してもらわなければならない。
そう言う理由があって犯罪者達は最低でも直哉達から探パスを取り上げなければ終わりなのだ。
犯罪者パーティーが遠距離魔法で攻める選択をしたように、直哉も残機が心許無くて相手に近づいて攻撃する気にはなれなかった。
そこで直哉の取った攻撃はナイフ投げだ。
直哉も自分のスキルが残機だけでなく、相手に大ダメージを与えられることを確信していた。
持っているナイフをただ投げただけではダンジョン内ではダメージは出ない。しかし装備したナイフを投げれば対象に当たるまで装備中の判定になるので、ダメージの減少は発生しない。
ただ相手の魔術師が魔法を唱えて来たので、直哉は焦って何度も手を振った。
ナイフは一本きりだというのに、何度も何度も手を振って敵へと投げつけた。
この行動は全くの無駄とは無らず、驚くことにナイフが増殖した。投げた途端に手元にナイフが現れて何本も投げることが出来たのだ。
「スローナイフか……やはり暗殺系統のスキルだな。
三好、決して抜かるなよ。お前が気を抜いたら奴のスキルで形勢逆転される可能性だってあるんだからな。」
「分かってるよ!」
タンク役の三好がスキル『アイアンガード』を発動させる。
このスキルは防御力が二倍になり、状態異常や特殊な効果を持つ攻撃を防ぐ効果があった。
直哉が暗殺スキルを持っていると思い、発動させたのだ。
しかしそれも勘違いだ。
直哉はそんなスキルを持ち合わせていない。
投げられたナイフは三好が構える盾に当たり、そして盾が弾けた。
三好達が弾けた盾に驚いている間に、第二のナイフが飛んできて三好に命中した。
「そんな馬鹿な!?たった一撃で500近いダメージが出ているぞっ!」
三好の言葉で、リーダーの佐原は自分達の勘違いに気付いた。
直哉のスキルに気付いたわけではなく、このままでは自分達がやられるという事実に気付いたのだった。
三好のHPは1402もあり、35レベルのタンクとしてはまあまあの物だ。
勿論HPの多さだけがタンクの神髄ではないが、そんな三好から一撃で三分の一以上のダメージを出せると聞けば犯罪者パーティー達も舐めた気持ちが引っ込むというもの。
そして佐原が新しく指示を出す前に、襲ってきたナイフが三好に直撃して簡単にトドメを刺したのだった。
「うぎゃああああああああああっ!」
絶叫して倒れる三好。
だが、ここで魔術師系スキルを持つ前田の魔法が完成して、直哉に火の玉が襲い掛かった。
「へっ!これでてめえもお終いだっ!MPの使い過ぎなんだよ、新人!」
佐原が直哉に向けて悪態をつき、そして攻撃を当てた前田がにやりとほくそ笑んだ。
しかしその表情も、炎の中から現れた直哉のピンピンしている姿を見て一変した。
「うわああああああああっ!」
前田は驚き、そして恐怖した。
勝てないと本能で悟って体を逆に向けて逃げ出したのだった。
そんな大きな隙を直哉が見逃すはずがなく投げたナイフが前田の無防備な背中に襲い掛かり、三つ刺さった所で三好達と同じく絶叫を上げて白目をむいて倒れたのだった。
「馬鹿が!逃げても破滅は変わらねえだろうがっ!」
証拠の映像が記録された直哉達の探パスの破壊、もしくは奪取。これが佐原に残された最低限の勝利条件。
一方、直哉の残機は四つ。他の探索者と同じシステムならば、四つ目はショックダメージが受けたら無敵も無く、意識を失う可能性があった。
安全に勝つには受けていい攻撃は三つまでだ。
まずは直哉がナイフを投げて攻撃する。三好の盾が弾けて壊れる所を見ていた佐原は、これを回避した。
プロの探索者の佐原には、これくらいの攻撃を避けることはなんてことはなかった。
タンク役の三好は装備もありナイフを完全に避けるのは難しく、前田は背中を見せて逃げたせいでナイフが刺さった。
だが、経験とレベル差で投げナイフは何とかなると佐原は確信した。
(少し奇妙なスキルには驚いたが、それ以外はてんでど素人。動きがなっちゃいないぜ。
更に人間を相手に戦うのは初めてのようで動揺が見え見えだ。
……これなら勝てる!)
佐原はもはやリナ子で遊ぶ気はなく、そして仲間を助ける気も無かった。
この場を上手くやって逃げることしか考えていない。
そこにはプロの探索者のプライドも、仲間を助けようなんて情も無かった。
ショックダメージを受けて倒れている元仲間達にトドメを刺し、直哉達の探パスを壊す。それしか考えていない。
「おい、ちょっと取引しないか?
俺は今日限りでこんなことは止める。あげた装備もいらない。代わりにそっちの探パスを全てこっちに寄こしてくれ。それで終わりにしようぜ……」
「……今日限りってことは今まで好き放題してきたんだろ?
そんな極悪人の言葉なんて信じられるかよ。お前達は今日捕まって終わるんだよ!」
交渉は決裂し、佐原は前に出る。
元々交渉がうまくいくとは佐原も思っていない。スキルを使うのに時間稼ぎをしたかっただけだ。
アクセラレート……回避力上昇と攻撃速度上昇効果を持つスキルだ。
佐原の見た所、直哉にはナイフしか攻撃手段がない。それならナイフを全て避けて、相手より先に攻撃を与え続ければいいだけの話。
先手を取るために交渉しただけで、結局反省するつもり何て毛頭なかったのだった。
直哉の投げナイフは加速した佐原に避けられて、距離を詰められていく。
そして佐原は直哉が間合いに入っていないのに、剣を地面に当てて切り払った。
切り払われた剣の先から砂粒が舞い、それが直哉の顔に当たった。
「うわっ!」
目潰しだった。
目が見えなくなった隙だらけの直哉に剣を振るうが、佐原の剣は空を切る。
加速した佐原は直哉が動く前に三度は攻撃できる。さらに剣を振るが一切手応えを感じていない。
直哉だけでなく腕につけた探パスも狙ってみるが、佐原の剣は通じなかった。
一秒……目潰しの時点で直哉の無敵が発動していたのだ。
目潰しが攻撃と判定されて残機が一つ減って、残機は三つ。
無敵となった直哉はこのチャンスを逃さなかった。
二秒……直哉が手に持ったナイフで襲い掛かり、佐原はこれを剣で弾き返そうとした。。
しかし、直哉の攻撃はその剣をすり抜けて佐原に当たった。
直哉の無敵は防御だけでなく、攻撃をする際にも一方的に無敵なのだった。
三秒……佐原は攻撃を喰らった瞬間に自分のHPを確認し、直哉の攻撃で三割減っていることに気付いた。
ここで直哉の攻撃が割合ダメージであることに思い当たり、直哉の攻撃を三度受ければやられる事を知る。
四秒……瞬時に頭を切り替え、佐原は後ろに飛んで距離を取る。
未だに佐原は直哉のスキルについて正解へと辿り着けていないが、とんでもないスキルを相手にしていることは理解した。
前田の選択がある意味間違いでは無かったことを認めて、逃げる選択肢が頭をよぎった。
五秒……後ろに飛んだ佐原の着地を狙って、直哉の投げたナイフが佐原に当たった。
佐原はあと一発攻撃を受けると、ショックダメージで意識を失なってしまう。
自分の残りHPを見て破滅の二文字が佐原に重く圧し掛かり、恐怖という感情が佐原を支配しようとしていた。そして間違った選択を選んでしまう。
前田と同じく、背中を見せての逃亡である。
佐原は足や体力には自信があった。新人のド素人が、自分を追いかけることは出来ないと高を括って逃げ出した。
証拠が残るのはしょうがないが、ここで破滅が確定するよりかは逃亡生活をする方がマシだと考えたのだ。
しかし、いくら足が速くとも投げられるナイフよりも速く走れる訳が無かった。
アクセラレートは回避力の向上、避けようともしていない人間に飛んできたナイフを避けさせるほどの能力はない。
直哉の投げたナイフが佐原に刺さり、ショックダメージを起こして佐原は意識を失ったのだった。