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59話 ダンジョンバトルの熱狂にようこそ

ダンジョンスキルファイターズ。略称『DSF』。

ダンジョン内でスキルを使って行われる異種格闘技戦(ダンジョンバトル)、その興行を執り行っている団体がDSFだ。


直哉は麗華の伝手を使ってノルウェーで行われているDSFの大会にやって来ていた。

目的は試合の観戦、ではなく会社の商談を行う為にある人物と会う予定だ。

とは言っても商談が成立するかは相手次第。


これまた麗華の伝手を使って相手に連絡を取ったのだが、新しく立ち上げたばかりの何の実績もない会社に時間を割いてくれるかは怪しい所。


麗華、つまり日本ギルドを束ねる大泉大臣経由で連絡しているので無下にはされないが、本気で商談してくれるかは直哉の持って来た商品次第だ。


そして商談は試合後の約束になっているので、直哉はそれまで試合を楽しむ気満々だった。


「こういう風に観客席で見るのは、なんだかんだ初めてで楽しみだなぁ」

「直哉さんはDSFをご覧になったりするのですか?」

「以前は良く見ていたよ。オレもスキルを育てればこんな所で戦ったりするのかなって……。

でもスキルが残機だと知ってからは見なくなったなぁ」


周りの人間からすれば羨ましいと思われるようなスキルだが、直哉にとっては違った。


基本スキルと言われる万人が持つスキルを育ててダンジョンを探索し、上の階を目指して攻略していく。

ゲームみたいに自分のスキルを駆使してダンジョンを攻略したかったのだ。


だが、それはもう叶うことはない。

直哉もそれについては受け入れて覚悟を決めた。

だから今まで諦めて耳を塞いでいた分、楽しむことにしたのだった。


「何々、初戦の試合は体術系スキルのブッチョ・ザ・ブッチャーと魔法系スキルのテイラーク・ディマークか。

ブッチャーは武器防具を付けず生身でいるとステータスが大幅アップするスキルを持っていて、ディマークは様々な魔法を扱えるスキルなのか……。

これはどっちが勝つか分からないな」

「社長、あまり試合に熱中されて本日のお仕事を忘れるのだけはやめて欲しいものだね……」

「いやぁ、忘れてはないよ。忘れてはないんだけど……でも、まだ時間はあることだし、それまでは楽しんでもいいでしょ?」


琴凛に気が抜けていると指摘を受けるが、今の直哉の耳にそんな言葉は右から入って左から出るだけ。

返事をして何度か頷くも、目は試合会場である特設リングに首ったけだ。

そんな直哉に琴凛の説教は続いた。


「飛行機を降りる時も言ったけど、ここは日本じゃないんだから気を付けないといけないんだよ?」

「分かってるって。でも、この国は比較的に治安が良い方だって聞いてるよ」

「比較的他の国よりは治安が良いとは言ったが、それが絶対安心とは限らないんだぞ」

「大丈夫大丈夫。装備を返してもらったし、ダンジョンの中ならスキルが使えるから」


腕輪も靴もダンジョンコアであるレッドも返してもらい更には残機が20もあるので、今の直哉はちょっとやそっとのことでは問題にならない。


そんな慢心しているようにも見える直哉を見て、琴凛は麗華に目を合わせて両手を上げた。

こうなると試合が終わらなければ直哉は話を聞いてくれない。

その姿を見た二人の秘書に呆れられる新米社長の直哉だった。


◇◇◇


第一試合のブッチャーとディマークの戦いはディマークの勝利に終わった。

5万もHPがあったブッチャーも一方的に魔法を受ければ勝ち目はない。


肉を切らせて骨を断つ。ブッチャーは魔法を受けながら前進するも、ディマークの炎の壁を生み出すファイアーウォールに阻まれて、遂にディマークに攻撃を当てられずに終わった。


一方的な試合運びになったが、ディマークが少しでも魔法の発動が遅ければブッチャーの巨体に押し潰されて瞬殺だっただろう。


スキルの使い方ひとつで勝負が決する、気が抜けない緊張の連続、それがダンジョンバトルだ。


そうして時間が経って試合はいくつも進み、今大会のメインイベントが始まる。

ダンジョンバトルノルウェーチャンピオンとのエキシビジョンマッチだ。


チャンピオンのゲイル・ランドは風魔法のスキルを持っている。

そして相手は全米ダンジョンバトル6位のケーシー・アーリマン。ナイフが得意な暗殺系スキルの持ち主だ。


どちらが勝ってもおかしくない対戦カードに、観客は試合開始を今か今かと色めき立つ。

直哉も手を強く握りしめ、手汗が吹き出て来るほどに熱狂していた。


レフェリーが二人のファイターの間に立ち、片手を天高く掲げて見せ、その手を振り下ろすとそれが試合開始の合図となった。


先に動いたのはアーリマンだ。装備したナイフをゲイルに向けて投げつける。

装備を捨てたわけではなく、スキルによって装備している物と同じ武器を投げつけるスキル『スローナイフ』だ。

MPが続く限りは無限にナイフを投げることが出来る。


しかしこれは暗殺系スキルの初期の技。牽制にしかならず、軽くゲイルの剣に弾かれる。


だがそんなことはお構いなしに尚もアーリマンはナイフを投げ続けた。

例え牽制にしかならなくとも、雨あられの様に襲い掛かって来るナイフを何もせず無傷でいられる訳じゃない。


ゲイルはその場に縛り付けられる形となり、アーリマンの無限とも思えるナイフ地獄に嵌まってしまった。

しかし、チャンピオンは動じていない。


風魔法のスキルを持っているが、ゲイルは剣の使い手で前衛向きのスキル。

ナイフがどれだけ来ようともスキルを使わずに全て撃ち落とすことが出来る。それがチャンピオンなのだ。


「ぬっ!?」


だがそれもゲイルが傷を負って状況が変わる。

アーリマンは無為にナイフを投げ続けた訳ではない。

スローナイフの中に別のスキルで投げたナイフを織り交ぜて、ゲイルの油断を狙ったのだ。


『イリュージョンナイフ』という防御スキルや武器防具を掻い潜るスキルだ。

このナイフに対して防御は出来ず、下手なことをすればダメージは必至。


回避をするのがセオリーだが、スローナイフが無数に飛び交う中を回避など容易ではない。


ただの初期に覚えるスキルでも、一流の者が使えば相手を追い詰める牙となる。

ナイフのダメージは低くとも、この状況から抜け出せなければゲイルの敗北は決まったも同然だ。


ゲイルが並のファイターならばここで負ける。しかし彼はチャンピオンだ。

こんな小手調べの攻防で勝負がつく訳が無い。


「出たな……チャンピオンの『風の結界』……」


誰かが呟くと、ゲイルに向かったナイフはすべて当たらず地面に落ちた。

ゲイルが剣を振るわないで自然に落ちたのだ。


それはゲイルのオリジナルスキル『風の結界』。

風魔法を自分の体に纏わりつかせて相手の攻撃から身を守る、攻撃魔法を応用させたスキルだ。

故にイリュージョンナイフも風の結界に撃ち落とされている。


イリュージョンナイフは防御に回っている相手には強いが、攻撃スキルだと簡単に迎撃される弱点を持つ。

なのでアーリマンはスローナイフに混ぜて撃ったのだが、防戦一方になった所からスキル一つで巻き返したのは流石チャンピオンと言った所。


互いの小手調べは終わり、ここから本格的な試合が始まる。

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