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5話 予想外の襲撃

階段を探すついでに3階で経験値を稼ぎ、リナ子のレベルは一気に7になった。

キラービーの経験値効率はかなりオイシイようで、五体も倒さない内に簡単にレベルが上がった。


順調な探索だが、順調過ぎるが故にリナ子に疑問が思い浮かんだ。

それはリナ子の安全を確保するためその十倍の数を倒しているにも関わらず、直哉の探パスからレベルアップの軽快な音が聞こえてこないことだ。


「何か、あたしだけレベルアップして変じゃない?」

「べ、別に変じゃないと思うけど……ほら、スキルによって経験値テーブルが違うからね。講習の時もオレだけ時間がかかっていただろ?」

「……あんまり覚えてないけど、待てなくて先に帰っていたっけ……」


言い訳を信じてもらえて、直哉は上手く誤魔化せることが出来た。

なにせ直哉にはレベルも無ければステータスも無い。あるのは残機であって、それもエクステンドするのにモンスターを百体倒さなければいけない。

それは経験値効率の良いキラービーでも同じだった。


「まあ、いいや。それよりも、階段に辿り着いたわね。この階段を上がる前に一応言っておくけど、4階は素早く通って一刻も早く5階に行きましょう」

「本当に今すぐに行くの?もうちょっとレベルを上げてからでも……」

「5階に行きたいのはノリオでしょ?それにキラービーだとこれ以上効率が良くないらしいから、あたしも上の階層に行きたいの」


リナ子はノリノリで先に進みたがっていて、反対に直哉が尻込みするのは理由があった。

4階は別名『死の階層』と呼ばれていて、油断した初心者が頻繁に死亡してしまう難所なのだ。


適正レベル自体は3階と同じ7~10レベルだが、4階には毒持ちのモンスターが現れる。

その名はポイズンスライム。1階に現れたスライムが毒の特性を持った別種だ。しかし毒を持っている以外は1階のスライムと同じで動きは鈍く、碌に攻撃も出来ない。


そんな相手に初心者が殺されてしまうのは、敵がポイズンスライムだけではなくゴブリンも一緒に出現するからだった。

ゴブリンがポイズンスライムを武器代わりに投げつけて探索者を毒状態にして、じわりじわりと毒のダメージで追い込んでいくのだ。


ゴブリンやキラービーの攻撃を耐える防御力をもってすれば、4階の敵は大したことはない。

4階の真の敵はスライムでもゴブリンでもなく、毒のダメージだ。


4階は2階よりもモンスターの数が多く階層も広いので、モンスターと遭遇せずに次の階まで行くのは難しい。

毒を受けた状態で無理に先へ進もうとすると広い階層内で迷子になって戻ることも出来ず、ゴブリンからポイズンスライムをぶつけられて続けて生き絶えることになる。


毒耐性や状態異常回復スキル、もしくは毒消しなどを持ち込めば3階よりも楽に攻略が出来る階層ではあるが、情報を集めず何も考えずに先に進む探索者と言うのは一定の数がいる。

その考え無しがこの階層で命を落としていくのだ。


なので直哉はビビっていたが、レベルアップでキュアを覚えたリナ子にとって4階は全く怖いものではなかった。

リナ子が異常回復スキルを新たに覚えたのは直哉も知っていることだが、直哉が恐れているのは自分にステータス画面がない事だ。


ステータス画面はないが毒状態にはなるかもしれない。さらに言えばリナ子のキュアが効かない可能性も考えていた。

そうなると毒を喰らったら即座に残機が消滅し、五秒の無敵時間が過ぎた後また毒で残機が消滅してしまう、負のループで死ぬ可能性があった。

だがこれらは直哉が考えた最悪の出来事。真実は実際に毒を喰らってみるまでは分からない。


悩んでいたがこのまま縮こまっていても直哉に待っているのは飢え死にだ。

最終的にはリナ子に背中を押された形だが直哉は4階へと上ることを決めたのだった。


4階に上がって早速ポイズンスライムを見つけるが、直哉達はこれを無視する。

ポイズンスライムはその凶悪性とは裏腹に、経験値がスライムより1多い程度で相手にするだけ無駄な存在だ。

なので4階に上がる前に二人は話し合い、この階層では極力戦わないように決めていた。


ゴブリンが出てきた時は攻撃に移る前に出来るだけ処理をして、そのゴブリンがポイズンスライムを持っていれば逆に距離を取る。

ポイズンスライムを持ったゴブリンは脅威だが、所詮は小鬼。力が強くとも小さな体では投げられる距離に限界がある。


この階層での戦術は基本逃げること。

まともに戦っても得られるものは少なく、さっさと5階に向かう事が目的だ。


初心者殺しの死の階層とは言っても、情報さえ持っていればきちんと攻略が出来るほどの難易度だった。

直哉達は勝ちもしないが負けもしない。堅実な立ち回りで先に進んで行った。


「げっ!イヤな奴がいるなぁ……」


先に進むとリナ子があからさまに嫌な表情になった。そのリナ子の視線の先には探索者が立っていた。


「探索者に知り合いなんていたの?」

「……この装備くれたおっさんの一人だよ。

くれた後にパーティー組もうってイヤらしい顔していたから断ったけど、途端に態度が変わって悪態つかれたから関わりたくないんだよね」


(そりゃ悪態も付くでしょ、良さそうな装備をタダで持って行かれたらな……)


どちらが悪いとはっきりとは言えないが、鉢合わせが起きれば一悶着起こるのは間違いない。

直哉は迂回するように提案してリナ子もそれに合意した。


だが迂回した先にも、別の探索者が立っていた。


「あっ、あのおっさんも誘ってきたパーティーの一人だったはず……ここも迂回してあのおっさんとは合わないようにしようよ」


リナ子はどうしても装備をくれた探索者に会いたくないようだが、直哉の考えは違った。


「いや、この階層でパーティがばらけて突っ立っているってことは、明らかに大畑さんに話があるんじゃないかな?

多分、装備を返して欲しいんだと思うよ」


相手はベテランの探索者だろう。レベルを考えればこの階層をパーティも組まずに徘徊することなど朝飯前のはずだ。

それでもポイズンスライムの階層に一人きりで、先に進まずに立っているのはおかしな光景。どう見てもリナ子に用事があるのは明白だった。


今日は上手く見つからずに逃げたとしても、おっさん探索者が誰かを待つように立ち尽くす姿を見て、直哉はこのままではいけないと感じていた。

この件は後回しにすればするほど拗れる問題だと思い、リナ子を説得した。


「もうレベルアップはしたんだから、その装備はおじさん達に返そう。そうしなければおじさん達は大畑さんをずっと待っているかもしれない。

ギルドで鉢合わせして変な空気になったり、口論が始まる前にお礼を言って返すのが一番だよ」

「でも……それじゃあこれからレベルアップするのが難しくなっちゃうじゃん……。

あたしの防御力じゃあここら辺の敵にやられちゃうかもしれないし……」


直哉の提案にリナ子は反発した。それもそうだ。

ビキニアーマーが無ければただの女子高生に過ぎないリナ子。レベルアップしたとは言ってもステータスもスキルも後衛向き。装備無しではゴブリンと一対一で勝てるかも怪しい。


「大丈夫、装備を返してもオレがレベルアップを手伝うよ。

困ったときはお互い様だ。心配せずとも大畑さんの納得がいくまで付き合うからさ」

「……本当に?」

「本当さ!」


直哉の力強い言葉を聞いて、最後にはリナ子は頷いた。

レベル上げの手助けをしたお陰か、思ったよりも直哉の言葉を素直に受け入れてくれた。


何やらレベルアップしたい事情があって焦っているように直哉から見えたが、焦っているだけで決して悪い子じゃないというのが直哉の認識だった。

その認識通りにリナ子は直哉の提案を飲んで、おっさん探索者に装備を返すことを承諾した。勿論、直哉もそれに付き添って一緒に謝るつもりだ。


「あの……すいません……ちょっとよろしいでしょうか?」

「あぁ!?なんか用か!?」


まずは直哉が話を着けてからリナ子を呼ぶことにしたのだが、おっさんの機嫌がかなり悪い。

大切な装備を取られて不機嫌なのはしょうがないが、今にも直哉に殴りかかりそうなくらい柄が悪かった。

直哉は話かけたことを後悔したが、おっさんの態度に負けじと説明をした。

すると途端に機嫌が良くなり、馴れ馴れしい態度に早変わり。


「何だよ、そういう事なら早く言えよな」

「あはは……あの、それで許してもらえるでしょうか?」

「ああ、分かってるよぉ。ただ一応仲間全員に謝ってもらわねえといけねえから、ちょっとついて来てくれるか?」

「あ、そうですよね。分かりました」


おっさんは安藤進と言い、安藤が仲間に連絡を取っている間に直哉はリナ子に合図を取りうまくいったことを伝えた。

それを見て隠れていたリナ子が現れ、リナ子の姿を確認した安藤は鼻の下を伸ばしていた。

その顔を見て……直哉は胸騒ぎがしたのだった。


自分は何か間違ったんじゃないかと、心に泥を塗られたような感覚。

しかし、すぐに顔を振ってその考えを改める。


(自分だって大畑さんの姿を見て、そう言った気持ちになった。安藤さんも多分それだけさ)


直哉達は先導する安藤について行くと大きな広間に到着した。広間の真ん中には安藤の仲間である四人の探索者がいた。

先に来た探索者達が場を整えており、広間にはモンスターが一匹も存在していなかった。


「じゃあ、大畑さんの装備を脱いで返しますからちょっと待って下さい」

「いいや……脱がなくていい……なんたって……そのまま楽しむからなぁ!」


先頭を歩いていた安藤は、振り向いて直哉を持っていた剣で攻撃してきた。

いきなりの事で直哉は身構えることも出来ず、安藤の剣が直哉を切り払い、そして体に走る激痛。


「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

「おっと、ショックダメージは初めてか?

可愛そうな初心者に教えてやるとな、HPは無くなってもすぐに死ぬ訳じゃねえんだよ。

HPが示しているのは本人の生命力ではなく魔法で出来たバリアの数値なのさ。

その魔法が無理矢理破られると、こうして激痛が走るって訳だ。

と説明してやっても、激痛で動けないか意識を失っちまうんだけどな」


直哉がショックダメージにより横たわったのを確認して、安藤はリナ子の腕を取った。


「やめて!離して!」

「うるせぇっ!お前は今から俺らのお楽しみになるんだよっ!」


直哉の不吉な予感は当たり、安藤達の狙いはリナ子に持ち去られた装備ではなく、その肉体。

安藤たちは初心者が死んでしまう階層を隠れ蓑にして好き放題している、犯罪者パーティーだったのだ。


ショックダメージを受けた直哉は立つことが出来ず、このままポイズンスライムの餌食となってしまう……なんて事にはならなかった。

安藤の説明を受けている途中で無敵が始まり、本当は体を動かすことが出来ていた。

しかし何が狙いか分からなかったので一旦様子を見て、そして相手が油断するのをじっと待っていたのだ。


油断した安藤に、直哉は後ろから襲い掛かった。

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