42話 夏希のスキル
地下3階のトラップは壁に仕掛けられたスイッチに触れると、天井から棘付きの鉄球が降ってくるというものだった。
よくよく見ると天井は暗闇で見ることが出来ず、黒色の鉄球はその闇に隠れてその存在を確認することは不可能になっていた。
運良くスイッチを見つけられたので他のメンバーには後ろに下がってもらい、安全が確保できてからスイッチを入れたので残機を失わずに無傷で進むことが出来た。
そうしてやって来た地下4階。
やはりフロアは狭く、ここも8畳ほどの広さしかない。
早速トラップを探そうと直哉が一番先にフロアに足を入れると、足元が沈み込んだ。
(トラップだ!)
用心していたつもりだったが、何の変哲もない床だったので直哉は気を抜いてしまった。
すぐに周りを見回して罠の起点を見極めながら、パーティーに注意を促した。
「ゴメン!スイッチを踏んでしまった!罠が起動するかもしれないから気を付けてくれ!」
「了解です!後ろは任せて下さい!」
後ろから麗華の返事が返って来たので、直哉はフロアの中を調べることにした。
スイッチ式の罠という事は、落とし穴などのセンサー類の罠ではないという事。
それは前のフロアの様に慎重に探す必要はないという事だ。
直哉はフロアの中を隈なく探す。
丁寧に探す必要はない。すでにスイッチは入ってしまったのだから。
何か視界に動くものがあればそれはトラップの発動に間違いないが、直哉は一向に見つけられなかった。
(もしかして、あれはただの沈む床でトラップとは関係ないのか?)
罠を見つけられずに疑心暗鬼になっていると、後ろの方で大きな音がした。
直哉が振り返るよりも先に麗華の声が聞こえて来た。
「大岩です!転がっていますので道を開けて下さい!」
麗華の言葉を聞いて直哉はフロアの隅に体を寄せるが、ここで第二の罠が発動した。
フロアの壁がせり出して階段と同じ幅で止まった。
フロアに逃げ込んでやり過ごそうなんて許さないと、ダンジョンコアが言っているように感じた。
そうこうしている内に上から麗華達と大岩がやって来た。
こうなっては大岩に追いつかれないように逃げ続けるか、大岩をスキルで止めるかしか選択肢はない。
そして直哉は受け止める方を選んだ。
「オレが岩を食い止める。皆は先に行ってくれ!」
「分かりました。直哉さんのお力に頼らせてもらいます」
「無理しないでね!直哉の力はそこまで長く使えないんだから!」
「分かってる。無理はしないよ!」
直哉の横を麗華とリナ子が通る。
続いて琴凛と沙織がと通って行く。
「すまんな!自分のスキルはモンスター相手にしか効かないんだ。
任せっきりで申し訳ないが、先に行かせてもらう!」
「ふえぇぇ……死んでもお線香1本は焚きますから、成仏してくださいぃ……」
「死ぬの前提で言うの止めてね……。
大岩はオレが受け止めるから心配ないよ!」
最後に夏希が通り過ぎれば全員だが、夏希はフロアを通り過ぎず直哉の横に並んだ。
「大乗に頼りっぱなしじゃSランク探索者の名が廃るわ!
ここはあたしのスキルで止めてみせる!」
「そんなこと言ってる場合じゃ……って大岩が来たぁっ!」
夏希は一歩も引かず逃げようとしないので、直哉はそれを見守ることにした。
もし夏希が失敗しても、すぐ傍に付いていれば死なせるようなことにはならない。
ケガならリナ子に治してもらえるので、直哉は黙って見届ける。
「来なさい、ミノ!」
夏希が叫ぶと目の前の地面に魔法陣が浮かび、その中からミノタウロスが現れた。
3メートルほどの牛人間、50階に現れるボスモンスターが突然現れて直哉は即座に構えるが、ミノタウロスは直哉のことなど気にせずに前から転がってくる大岩に向かって行った。
「ぶもぉぉぉぉぉっ!」
ミノタウロスは雄叫びを上げて、直径五メートルほどの大岩を両手で受け止める。
岩は階段の途中で止まり、ミノタウロスはそのまま頭に生えた角で岩を攻撃し始めた。
「行けっ!ミノ、その大岩を粉々に砕いちゃって!」
「ぶもおぉぉぉっ!」
夏希の指示に従い、ミノタウロスはさらに大岩へと攻撃を続けると、大岩に亀裂が走った。
「いいわよ、ミノ!そのまま決めちゃいなさい!」
「ぶもっ!もぉぉぉぉっ!」
夏希が言うとミノタウロスの角が光り出し、その角を大岩に勢い良く叩き付けると夏希の指示通り大岩は粉々に砕け散った。
「お疲れ様。もう休んでいいわよ」
「ぶもっ」
出て来て時と同じようにミノタウロスの足元が光ると、魔法陣の中にミノタウロスが吸い込まれていく。
同じように粉々になった岩も、その破片が光って綺麗さっぱり消えていた。
まるでこの場にはミノタウロスも大岩も始めから無かったように、この場には直哉と夏希の二人しかいなくなった。
「玲堂さん、今のは君の力なのか……?」
「そうよ!あたしの力は倒したモンスターを使役するスキル。
モンスターテイマーのスキルを持つ上位スキルの探索者、これが玲堂夏希の実力よ!」
夏希は腕を組み、胸を逸らして自慢げに不敵な笑みを見せた。
そのスキルは確かに力強さを感じさせ凄いものだが、身長の小さな夏希が言うせいか些か迫力に欠けていた。
何となく褒めておいた方が良い流れだと直哉は思って、拍手をしながら褒め称えた。
「玲堂さん凄いよ!君のお陰で命が助かった」
「そうでしょそうでしょ?もっと褒めてくれていいのよ?」
「でも、それならどうして最初から出さなかったんだい?
自分がトラップに引っかかって気絶するより、モンスターを先に行かせていれば単独での攻略も出来ていたんじゃないかな?」
「う、うるさいわねっ!それはあれよ……スキルには制限があるから仕方ないじゃない!」
褒められて良い気分になっていた所へ冷や水でもぶっかけられたかのように不機嫌になり、嫌なことを思い出して苦虫を嚙み潰したような表情になる夏希。
そんなことはお構いなしに直哉は自分の好奇心を満たすために質問を続けた。
「まあ、何でもかんでもスキルで出来るわけじゃないよね。
それで制限ってどんなものなんだ?」
「……モンスターをテイムするにはモンスターを倒さなくちゃいけないってことと、テイムしたモンスターにはパラメーターがあってHPが無くなると消滅しちゃうってことよ……。
だから、温存したら罠に引っかかって間抜けを晒したのよ!悪い!?」
「いや、何も悪くないと思うよ。
今も大岩を処理してくれて本当に助かったよ、ありがとう」
「くぅー……あんたなんなのよ!?あたしのことをいじめて楽しいのっ!?」
「えぇっ!?いじめてなんていないよ。本当に感謝しているって!」
突然顔を真っ赤にして怒り出す夏希。
怒り出した理由が分からず、困惑する直哉。
そんなやり取りを続けていると、下から麗華がやって来た。
何処か焦っている様にも見える麗華は、直哉達を見つけるとすぐに腕を引っ張ってこう言った。
「コアルームが見つかりました。すぐに来て下さい!」
「何だって!?」
ダンジョン攻略も大詰めに来ているようだった。




