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40話 ダンジョンでフラグを立てても叩き折る男

三人の女性に求められ取り合いになって揉みくちゃにされていた直哉を助け出したのは、意識を取り戻した夏希だった。


「ちょっと何やっているのよ!?今はこんなことやってる場合じゃないでしょう?」


夏希の言う通り、このダンジョンに潜ったのは爆発を止める為だ。

決して痴話喧嘩や色恋沙汰の修羅場をする為ではない。


過去に爆発したダンジョンはそこそこ存在するが、どれも人があまり潜らずに放置した結果爆発した。

なので、どの位で爆発するかと言う詳細なデータは存在しない。

知っているのは爆発前に暴走状態になるという事だけ。


だから他のダンジョンコアが爆発まで1ヶ月あると言われても、それを完全に鵜呑みにしていいわけではない。


なのに夏希はダンジョン内で攻略を忘れて痴話喧嘩をしている他のメンバーに喝を入れたのだが、納得のいかないリナ子は夏希に言い返した。


「そもそもあんたがトラップに掛かって死に掛けている所を、あたしと直哉が助けたんじゃん!

それで目を覚ますまで待っていてあげたのに、お礼ぐらい言えないわけ?」

「そんなこと……頼んだわけじゃないもん!

あたしの口から助けてとは言ってないから無効!あたしは悪くない!」

「あんた、あたし達がいなかったら死んでるのよ?よくそんな口が吐けるわね!」

「あんたこそ何様のつもりよ!

あたしはSランク探索者の玲堂夏希よ。あんたなんて良くてDランクでしょ?

あたしより下のランクが粋がって偉そうな口叩かないで!」

「何ですって!?」

「待って、リナ子さん!ケンカは止めよう!」


二人の言い合いは徐々にヒートアップしていき、遂には自制が効かなくなってきていた。

その様子を見ていられなくなり、リナ子と夏希の喧嘩に直哉が割って入った。


「リナ子さん、オレはお礼が欲しくて助けたんじゃないんだ。だからここは引いて欲しい。

ただオレはリナ子さんに力を貸してもらって、助かったと思っているよ」

「……直哉が言うなら、別にいいけど……」

「それと玲堂さん。

お礼はいらないけど、こうやってケンカして時間を使うのは良くないんじゃない?」

「ふんっ!そんなことくらい分かっているわよ!

あっちが吹っ掛けて来たんでしょ?あたしは悪くないわ!」


何とか二人を引き離して喧嘩を止めることは出来たが、完全に解決出来た訳ではなかった。


何とか危機から脱することは出来たが、雰囲気は最悪。

レベルが低く回復役であるリナ子は後ろに下がらせて、夏希を前に歩かせることで鎮火に成功しているが、この状態なら些細なことが切っ掛けで再燃するだろう。


「さあ、行くわよ!」


鼻息荒くして、夏希が直哉を差し置いて先に進む。

だが喧嘩して頭に上った血がまだ下りて来ておらず、夏希は冷静な判断が出来ていなかった。


「危ないっ!」

「へ?」


直哉の声を認識した時には遅かった。

先頭を歩く夏希は、先程直哉が引っかかった階段に仕掛けられた罠のスイッチを踏んでいた。


階段横の壁に大量の穴が開いて、そこから棒手裏剣が飛んでくる。

かすっただけでも致命傷になる毒が塗ってある手裏剣が、穴の数だけ飛んでくる。

一瞬でも判断に迷えば避けることは不可能。


しかし、夏希は判断に迷ってしまった。

直哉に声を掛けられて壁の穴に疑問を持ち、何が起きるのか観察しようとしてしまった。

観察しても棒手裏剣で串刺しになるだけだというのに、好奇心が夏希の足を止めさせてしまった。


だが、棒手裏剣が夏希を襲う前に直哉が体を抱えて階段から脱出させた。

危機一髪だったが、傷一つなく階段の罠から抜けだすことが出来た。


「危ないだろ!あそこに罠があることは説明したけど何していたんだ!?

ダンジョンで気を抜いちゃいけないだろ?」

「……ごめんなさい」

「ケガはないよね?あと、大声出して怒鳴ったりしてゴメン……」

「何であんたが謝るのよ?

あたしがバカやっちゃったのは自分でも分かっているから、大乗が謝る必要ないわよ」

「そっか……」

「ちょっとー!そっちは大丈夫なの!?」

「ああ、大丈夫!何の問題もないよ!」


後ろから見ていたリナ子が心配そうに声をかけて来たので、直哉がそれに返事する。

他の四人は階段に進まず、階段の上にある踊り場から様子を窺っていた。

夏希が食らった毒の症状を見ていれば当たり前と言える慎重な行動だった。


その後、直哉が上に残っていた四人をを抱えて階段を飛び越えることになった。

安全の為という建前があるが、夏希を抱きかかえたことでリナ子と麗華の鬱憤が溜まり、このままではまた喧嘩になりかねないのでそうなった。


「……重くないですよね?わ、私普段家の中にいて運動しないから、ちょっと自信なくて……」

「全然重くないですよ!

むしろ柔らくていい匂いがするんで役得です!」

「ひぇ……か、嗅がないで下さいぃっ!」


まずは沙織を抱きかかえて階段を乗り越えた。

臆病な性格をしているから軽く冗談を交えて喋るとそちらに意識がいったので、その内に階段を飛ばしてジャンプした。

スキルのお陰で、女性を抱きかかえて高い所から下りても何のダメージも無かった。


「やっぱり大乗君はいいな。

いざという時動ける男子というものは貴重だ!

あまり深く考えず自分と子作りしてしないか?」

「……それは人生においてかなり大きな選択ですので、考えずには出来ませんよ……。

それに好きでもない人とそういう風なことは出来ません」

「人を好きになるのに時間は必要ないだろう?

仲良くなってから好きになる人もいるが、好きになってから仲良くする人もいる。

順番が変わっても結果が同じならさして問題じゃない。

自分は大乗君が好きになったぞ?」

「お気持ちだけ、頂いておきますね……」


次は琴凛だ。

抱きかかえると耳元で囁いて誘ってくるが、直哉はその内に飛び降りた。

だが、階段の下に到着しても直哉の首に抱き着いたまま離れず、引き剥がすのに苦労した。


「直哉さん、あなたの力なら選り取り見取りですが、選ぶべきは誰か分かっていますね?」

「分かりません……」

「ギルドの為、日本の為に、ギルドとの懸け橋が出来るわたくしです。

直哉さんが望むなら浮気も許しますが、でも一番大切な誰かはわたくしにするのが一番の選択です」

「浮気も何も、オレは誰とも付き合ってない訳だし……」

「わたくしも誰とも付き合っておりません。

二人共、相手がいないままであったのは運命かも知れませんね。

とりあえずお試しからでもいいですよ?」

「結構です……」


恋のアプローチなのか、契約をもぎ取ろうとするビジネスなのか判断が付かない麗華の交渉。

三人目となると慣れて来て、喋りに気を割いても問題ない。

麗華の言葉をかわしながらも安全に下りることが出来た。


「あたしの方が抱き心地良いよね?」

「いきなり何?」

「全員抱いた中で、あたしが一番だよね?」

「うーん?豊村さんが一番かなぁ……いててっ!頬を引っ張らないで!残機が減っちゃう!」

「こんな可愛い娘がアプローチしてるのにいつまでも待たせるようなことして、罰が当たるんだからね!」

「待たせるも何も付き合っていない……いててっ!あっ、本当に残機が減るっ!」


こうして一悶着あったがようやく地下2階を攻略し、地下3階へと足を踏み入れることが出来たのだった。

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