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39話 男の覚悟

「何やってるのよ!

ダンジョン内で気が緩むなんて、あんた死にたいの!?」

「面目ございません……」


落とし穴から脱出した直哉は、夏希に正座させられていた。

軽率な行動をしたのは自分が分かっているからこそ、時間は惜しいが黙って叱られていた。


これに関して誰も直哉を庇おうとせず、説教にかける時間を咎める者はいなかった。

それどころかリナ子は凄い形相で睨んできており、麗華は悲しそうに目に涙をためて直哉を見つめていた。


二人の表情から言いたいことは分かっている。

やらなきゃいけない無茶で危険になるならまだ理解されるが、今のはしなくていいポカをしたのだ。


残機があると油断して、時間がないと焦ってしまった結果こうなった。

これを戒めにして、もう油断はしないと直哉は心に誓う。


踊り場のような小さなフロアの罠はフロアの真ん中を歩かなければ穴に落ちることはなく、回避方法は簡単だった。


そして次の地下2階……に入る前に直哉は階段に小石を投げ込んでみた。

警戒し過ぎと言われそうだが、罠に嵌まった直哉だからこそ階段に危険な匂いを感じ取って慎重に慎重を重ねて確認をしたのだ。


しかし、小石が階段を跳ねて転がるだけで何も起きない。

流石に警戒し過ぎかとため息を吐きながら階段を降りると、ごとんと音がして直哉が足を置いている部分が下に押し込まれていた。


(ヤバイ!センサーじゃなく人の重さで発動するスイッチか!)


直哉が気付いた時には階段の両方の壁に無数の穴が空いており、何かが発射される音が聞こえていた。

それを気にして確認することすら惜しくて、直哉は前に転がり込んだ。

咄嗟の判断に体の動きを任せた結果、何とか無傷で階段を抜けることが出来た。


だが、後ろから付いて来ていた夏希は違った。

直哉がまた油断をしないように付きっきりで監視していると、距離を詰め過ぎて罠の範囲に入ってしまった。


「玲堂君!大丈夫か!」


琴凛が駆け寄り夏希の容態を見ると足首に棒手裏剣が突き刺さっており、顔から滝のように汗を流していた。

更には目も焦点があっておらず、琴凛が呼びかけても返事が無かった。


「リナ子さん、頼む!」

「分かったわ!」


琴凛が棒手裏剣を引き抜いて、リナ子が回復をかけても足の傷は治ることはなく、遂には夏希の体が痙攣し始めた。


「これは多分毒だ。しかもこの症状は猛毒のものだ。

すぐに解毒しないと命が無い」

「あたしキュア使えるわよ」


そう言ってすぐに夏希に解毒効果のあるキュアを掛けるが、痙攣は収まらず口から泡を吹き出し始めた。


リナ子のスキルが通用してないのは明らかでそれは夏希が上位スキル持ちだからか、はたまたトラップによる毒だからなのかは分からないが、分かっていることは夏希の命が今にも消えそうになっていることだけだ。


直哉はそれを見て、階段を踏まないように靴の力を使って駆け上がり、リナ子の横に付いた。


「……リナ子さん、オレに手を合わせてくれ」

「……分かったわ」

「直哉さん……よろしいのですか?」

「オレはこのダンジョン攻略で死人を出したくないんですよ。

それが一番重要なことです!」


直哉が声をかけるとリナ子はすぐに了承して、夏希へ向けている手を直哉の手に合わせる。

直哉はエリクサーを作って夏希を助けるつもりだった。


目立つことを嫌ってギルドと契約を結ぶことを拒絶してスキルを隠していた直哉が、バレる危険よりも目の前の命を救おうとしている。

麗華はそれを危惧して直哉へ問いかけるが、直哉はもう決めていた。


リナ子と手を合わせて直哉は集中する。

回復スキルが増幅されるイメージ、夏希が完全に回復するイメージを手から伝える。


するとリナ子の手が光り始め、その光が夏希の体を包んでいく。

痙攣していた体は止まり、泡を吹いて苦しそうだった顔は安らかなものに変わった。

そして足首に空いていた穴は塞がって、傷跡は一切残っていなかった。


こうして今にも死にそうだった少女は直哉達の手によって死の運命を覆し、ただ居眠りをしている少女になった。

そしてこの能力を見て、今まで治療の邪魔にならないように黙っていた琴凛も流石に口を挟んだ。


「どうやら山は越えたようだな。

それできちんと自分に説明してもらえるんだろうね、大乗君?」

「……オレのスキルは回復薬作成だって言っただろ?

その応用で回復スキルと掛け合わせることによって効果がブーストされるんだ」

「ウソはやめてくれ。

短い時間だが命を懸けてダンジョンの最奥を目指している仲間だ。

出来れば大乗君の口から説明が欲しかったのだけど、言ってくれないなら斬り込むとしよう。

君が噂の霊薬を作った張本人なんだろ?」


既に直哉のことはバレていた。

それならばこれ以上隠したり誤魔化しても意味がないと直哉は感じて、正直に話すことにした。


「ああ、そうだ。オレがやったのはそういう事らしい。

だけど自分でも未だに能力の全てを把握出来ていないから、そういう風に言われても違和感しかないんだ。

だから変に持ち上げたりしないでくれ」

「そんな謙遜することないじゃないか!

実際、この場にいる人間に玲堂君を助けられる者はいなかった。それを救ったのだから胸を張って良いんだぞ」

「まあ、そこまで卑屈になっているわけじゃないけど……それで櫛灘さんはそれを確認して何がしたいんだ?」

「自分と結婚して欲しい!」

「へっ!?」


突然のことにびっくりした直哉は、顎が外れそうなほど口を大きく開いたまま琴凛の言葉で固まってしまった。


何も言わない直哉にゆっくりと近づき、琴凛は直哉の顔を愛おしそうに優しく撫でる。

それを邪魔して、異を唱えたのはリナ子と麗華だった。


「ちょっと待った!直哉と付き合ってるのはあたしだから!横から入って来ないで!」

「櫛灘様、物事には順番というものがございます。

直哉さんとの契約はギルドが優先です!

そして、直哉さんに救ってもらったのはわたくしが先です!」


リナ子と麗華の待ったの姿勢に、琴凛はむしろ嬉しそうな顔をした。


「おおっ!既に2人の女子の心を掴んでいるとは、やはり自分が見込んだ通り大した男子だな。自分は一夫多妻は歓迎するぞ。

自分が言いたいのはこれだけの能力に、そしていざとなった時に人の為に動ける男はそういない。

だから惚れた!結婚しよう!」


そうして直哉を中心に、三人の女性が揉みくちゃになりながらも直哉の取り合いを始めてしまい、結局それは夏希が目を覚ますまで続けられたのだった。

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