3話 ビキニアーマーの女
自分のスキルにガッカリしていた直哉だったが、食費の為にダンジョンには潜らなくてはいけない。
探索者になるからとバイトも辞めたので、途中で止まることは出来ない。
親に頼ることも厳しいだろう。何しろ親には黙って探索者になったのだから……。
もし食費の使い込みも一緒にバレたらどうなる事やら……。
自分が欲しかったスキルではなかったが、幸いにも相手の攻撃を受けても復活出来ると言う部分はアドバンテージだ。
これを駆使すればさらに上層へと上がることも夢ではない。ゴブリンを一撃で倒せる力もあるので、考えてみれば悪くはないスキルだ。
欠点としてはステータスが無くレベルアップも無くHPすら無いので、相手がスライムだろうと一撃で死んでしまう所だ。
その欠点を補うべく、直哉は学校が終わった後にダンジョンに向かいスライムを狩り続けた。
傍から見ればレベル上げに勤しんでいるようにも見えるが、直哉のスキルはレベルが上がらない。
代わりに敵を百体倒すごとにエクステンドして残機が増えるのだ。
明日と明後日は学校が休みだ。
そこで換金できるアイテムをゲット出来なければ、もう体力的に保たない。
あくまで二週間は生きていける時間だ。食事を碌にせず、体力を失った状態でダンジョンアタックがうまくいくわけがない。
この二日間の休日が勝負。なのでその前に、出来るだけ残機を稼いでおく。
そうしてスライムだけを狩り続けて、二時間で残機を七まで増やすことが出来た。
これで勝負をかける準備は整った。
休日になりダンジョンに訪れると、ギルドには沢山の人間で溢れていた。
専業ではなくバイト感覚で探索者をしている人間は多く、休日になるとギルドには人の波が出来る。
しかし、ギルドに遊びに来ている人間はいない。
ここに居るのはバイト感覚とは言え、換金アイテムが出る階層まで上れる実力者達だ。直哉より強いのは間違いない。
直哉はダンジョンに入る前に、入念に探索者達をチェックした。
もしかしたら実力者であり、尚且つ人柄が良い人に事情を話せば助けてくれるかもしれない、そう思って観察していた。
アイテムの出やすい5階層まで連れて行ってもらえるのならば、それでもいい。
そうして色々な人に声をかけてみるのだが、初心者の高校生を連れて行く人間はいなかった。
それは意地悪ではなく、自力で5階層に行けない人間が入り口まで戻って来れないことを知っているからだった。
直哉の事を全力で守って連れて行くなら無理なことでは無いが、相手にすればメリットがない。それどころか直哉に足を引っ張られて全滅する可能性があるのだ。
直哉は比較的に性格が良く優しそうな人を選んだが、ここに居るのは自力でダンジョンを攻略してきた猛者達だ。命に関わることで甘く見るような人間は一人もいなかった。
直哉は他の人を頼るのは諦めて、覚悟を決めてダンジョンへと足を踏み入れることにした。
1階層はスライムしか出ない。ここで立ち止まっている者など殆どいない。
昨日残機を溜め込んで来たので、直哉も今日はこの階層をスルー。すぐに2階層に上がった。
実力者達はこの2階も難なく攻略して次の階層に上がるだろう。直哉もそのつもりではあるが、ゴブリンの動きは素早い。
舐めていると死角からの攻撃で残機を失う可能性がある。
アイテムが出やすい5階層に辿り着くまでに、出来るだけ残機を失いたくはない。特にこんな低階層で攻撃を喰らっていてはもっと上の階層に上がれる訳が無い。
誰かと組めるのが一番いいが、新人で実績もなくスキルも開示されないのだから誰も組もうとはしない。
誰にも頼れない直哉は安全第一に行動していた。
休日は二日ある。焦る必要はない。
そう自分に言い聞かせ、一体ずつゴブリンを倒して先に進む直哉。
進んだ先にゴブリンと戦っている探索者を見つけた。
この階層で戦闘に時間を掛けているとは、前にいる人物も自分と同じ新人だと気付く。他人の心配をしている余裕はないが進行方向にいるので、気にもなるというもの。
それに気になった理由はもう一つ、後ろ姿がとても破廉恥だったからだ。
背中はほぼ丸出し、お尻はティーバックになっているビキニアーマーを装備している女性だった。
「けしからん……」
そう呟くが目は口ほどに物を言う、直哉の視線はお尻に釘付けだった。
危うく夢中になって警戒を怠りそうになり、頭を振りかぶって意識を戻す。
「ダンジョンに入っているのに、何を呆けているんだオレ!」
ビキニアーマーの探索者の邪魔にならないように、直哉は戦っている横を抜けて先へ進むことにした。
しかし、そこにビキニアーマーのお尻目掛けてゴブリンが突っ込んで行った。いや、違う。お尻に目掛けているんじゃない。後ろからの奇襲だ。
「危ない!」
「えっ?」
目の前のゴブリンとの戦いに気を取られていたビキニアーマーの彼女は、直哉の声でゴブリンに気付くも完全に対応出来ていなかった。
このままでは前の敵と後ろの敵、二つの敵から同時に攻撃を受けてしまう。
「前の敵に集中してください。後ろはオレが対処します」
女性の背中を狙っていたゴブリンへ走って追いつき、直哉は木刀の一振りを喰らわせた。それで背中側のゴブリンは処理出来た。
「安心してください、後ろのゴブリンは仕留めました」
直哉はビキニアーマーの女性に告げるが、背中に気を取られてしまった彼女は前にいたゴブリンに殴られていた。
「うわぁっ!どうしてそんなことになっているんですか!?」
「あたし、後衛スキルだからステータスの伸びが前衛向きじゃないの。文句言うならあんたが倒してよ!」
「えぇぇ……いいですけど、倒しても経験値返せとか言わないでくださいね?」
女性が困っていたのでゴブリンに木刀の一撃を与えると、ゴブリンは消滅した。
「へえー、あんた結構強いのね。」
「いえいえ、まだ探索者になったばかりの初心者ですよ。では、先を急ぎますので」
「待ちなさいよ」
先を急ぐ直哉だったが、女性に服を掴まれてしまった。
「見た所、一人のようね。あたしもなの。それにこっちも初心者だから丁度いいと思わない?」
「つまり……パーティーメンバーの誘いですか?
こっちは最低でも5階層を目指しているんですが、大丈夫ですか?」
「あたしはレベルアップが目的だから、互いにレベルを上げてから向かった方が効率が良いと思わない?」
目的は微妙に噛み合っていないが、彼女はゴブリンの攻撃を受けても大丈夫に見えた。
直哉がパーティーに求めるのは盾や囮の役割だ。ゴブリンの攻撃に耐えられるなら悪くはない条件に思えた。
それに一番怖いのは後ろからの奇襲だ。彼女は後衛だと言っていたので、背中を任せられるのはとても心強い。
「分かりました。
ここと3階でレベルアップのお手伝いをします。もっと上を目指せるようになったら、こっちを手伝ってもらいますよ。良いですね?」
「いいわよ、これで交渉成立ね。あたしは大畑リナ子、よろしくね。」
握手の為に手を出してきたビキニアーマーの女の子、大畑リナ子は初心者講習で出会ったギャルだった。
リナ子は直哉の事を忘れており、直哉はビキニアーマーばかり見ていたので気が付かなかった。
「ええっ!大畑さんだったの?オレだよ、初心者講習で一緒だった大乗直哉だよ。」
「……?あー、もしかして知り合ってた?ごめんね、覚えてないや」
「ああ……うん……それなら、これからよろしくお願いします。
でも、なんか運命的だな。初心者講習で一緒でパーティーも一緒になれるなんて……これから仲良くやっていこう!」
「うんうん、頼りにしてるからね」
情けは人の為ならず。
こうして直哉は、欲しかったパーティーメンバーをゲットすることに成功したのだった。