37話 レベルは上がらないけど、暴走を止める為にダンジョン最奥目指します!
ツインテールの少女、玲堂夏希が目を覚ました所で本格的なダンジョン攻略が開始されることになった。
まず行われるのはダンジョン内部の情報の共有だ。
琴凛から聞いた情報によると、夏希がトラップに引っかかって気を失ったため戻ってきたようだが、それがどの様な罠でどこにあるのかは聞いていない。
これからダンジョンに入る際に罠の場所を知っているかそうではないか、攻略難易度ががらりと変わる。
だが琴凛から期待した答えは返って来なかった。
「申し訳ないが玲堂君を追いかけた時には既に壁が動いた後で、彼女が挟まれた所しか見ていない。
何処の壁が動くかは教えられるが、トラップのスイッチは玲堂君に聞いてくれ」
琴凛が言うと、全員の視線が夏希へと向けられる。
「な、なによっ!?こっちを見ても何もないんだからねっ!
ええそうよ!何も考えずに歩いていたから、何も気づかなかったわよっ!
それが悪い?」
夏希は自分の失態を棚に上げて逆切れた。
その姿を見て皆何も言わなかったが、身長の小さな夏希が慌てている様は可愛らしく、皆は優しい目で夏希を見ていた。
「1つ分かったのはダンジョンが爆発するまで、もう左程時間は残ってないということだ。
トラップが1階にあるのは暴走状態ならあることだが、モンスターが1体も配置されていないのはダンジョン内の魔力が枯渇しているということだ。
生命エネルギーを吸収出来ず、モンスターに回す魔力が無いという証。その状態が続けば爆発は間近だろうな」
夏希の代わりに琴凛がダンジョンの様子を語った。
トラップについては分からなくとも、ダンジョン内部は既に異様な状態になっているようで残された時間が少ないことが判明した。
「そうなりますと過去の情報通りなら、ダンジョン内部は小さくなって20階ほどの構造になっているはずです。
他のダンジョンは上の階層に上がっていると見せかけて魔法で横にズレているらしいので、うまくいけばダンジョン最奥であるコアルームまで早期の攻略も可能ですね」
「……それで突入メンバーはどうします?
見た所、トラップの対処が得意なスキル持ちがいないように見えますけどね……」
直哉が指摘すると、全員が下を向いて言葉に詰まる。
自分も人のことは言えないのだが、上位スキルとは基本スキルに比べて扱いが面倒なものだ。
トラップ対策となると斥候系のスキルが有用だが、上位スキルを除けばここにいるのは炎魔法と回復のスキル持ちしかいない。
先に入った夏希はトラップにやられて、それを回収した琴凛もトラップ対策が出来るスキルなら戻って来ずに攻略しているだろう。
残ったのは沙織だが、直哉と目が合うと手で隠して顔を背けた。
「豊村さんはトラップに強いスキルだったりしない?」
「わ、私は調合のスキルなので、戦闘には向きませぇん……。
これだけ人がいれば……私の力なんか、無くても変わらないですぅ」
「そうか……」
補助系のスキルと分かり、あからさまにがっかりする直哉。
それを見て夏希が噛みついてきた。
「ちょっと!人のスキル聞いてバカにするなんて失礼よ!
そんな態度するならあんたのスキルはとてつもなく便利な物なんでしょうね!?」
「えっ!?いや、オレは……そんなつもりはなかったよ。
ごめん豊村さん。傷つけるような態度取ってしまい申し訳ない」
「はわわ……頭を上げて下さいぃ。
そこまでしていただかなくても……結構ですぅ!」
冷静になっているつもりだったが、爆発までの時間が残り少ないと知って焦ってしまい沙織に無礼な態度を取っていた。
直哉はそれを改めて即座に謝った。
沙織も頭を下げる直哉を見てすぐに許してくれたが、夏希は気に入らなかったようだ。
「それで、あんたのスキルは何なのよ?」
「オレの名前は大乗直哉です。あんたじゃないから、これからは名前でよろしくね!」
「……大乗はどんなスキルなの?」
「オレのスキルは……回復薬を作製したり、炎の魔法を操ったりするスキルだよ」
「何それ?複合スキルってこと?」
直哉は自分のスキルについて誤魔化した。
素直に言っても理解してもらうのに時間がかかる上に、相手がスキルを言ってない状況で自分から言うのは何となく嫌だった。
ただ沙織が正直にスキルを言った手前、嘘を付くことも嫌だったのでぼやかして答えたのだ。
エリクサーを作り、太陽の如き火球を放ったのは事実。嘘は言っていない。
「こうなるとギルドにダンジョン内の様子を見てもらって、実行部隊を送り込んでもらった方が良いのかもね。
あんた達もそう思わない?」
「そうは思わないな」
「どうして?」
夏希の提案を琴凛が否定した。
「それぞれダンジョンコアから情報を聞いて爆発まで1ヶ月ほどと思っているだろうが、あれは目安に過ぎない。
自分がダンジョン内部を実際にこの目で感じたのは、持って10日だ。
今からギルドに情報を渡して、上層部が実行部隊を送り込んで解決するにはギリギリの時間だ」
「それでそこまで言うなら、あんたには考えがあるのよね」
「あんたではなく櫛灘琴凛だ。
自分は、ここに居る全員でダンジョンを攻略をするのが一番だと思う。
勿論、大泉様にはギルドに情報を送ってもらい、此方が失敗した時にはギルドに後を任せる。二重の攻略作戦だ。」
それは作戦とは言い難かった。だが、有効な作戦ではあった。
通常ならば村一つ、しかも老人ばかりの百人いない住人の為にギルドがそこまで力を注ぐとは思えない。
そうなりたくなかったら最初からギルドと協力関係になっていればいいと、ギルド関係者は考えているだろう。
しかし、ダンジョンに突っ込んで行ったのが大臣の娘と警視総監の孫ならば話は別だ。
更にはギルドにとっても重要な上位スキル持ちが四人、全員がダンジョンに行くとなれば会議などすっ飛ばして承認されるだろう。
琴凛は知らないだろうが直哉がエリクサーを作製出来る可能性がある為、麗華が情報を送ればすぐにでもギルドの実行部隊が送られるはずだ。
そんな無謀な作戦を、断ろうとする人間はこの場にいなかった。
……沙織が手を上げて発言したそうにしていたが、麗華が笑顔でその手を掴んで「一緒に頑張りましょうね!」と圧を掛けると、涙目になり承諾していた。
こうして鉈でこ村ダンジョン攻略作戦が始まった。




